2024年12月22日( 日 )

日本の名誉と誇り、国益を激しく毀損した最悪の外交イベント【G7広島サミット】(前)

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京都大学大学院
教授 藤井 聡 氏

 岸田文雄総理大臣は今年5月、G7サミットを地元広島で開催した。その後、度重なる政治不信を招く政治判断ゆえに再び支持率は低迷しつつあるが、当時の日本国民は岸田総理によるこのサミット開催を高く評価し、それまで低迷していた岸田政権の支持率は、ほんの一瞬のことではあったが「5割」を超えるほどに一気に上昇した。しかし、このサミットは実際には、日本の誇りや国家的利益を大きく毀損するものであったというのが、藤井聡京都大学大学院教授の分析だ。

“田舎者根性丸出し”
恥ずかしき岸田G7イベント

 G7サミットの開催により、低迷していた岸田政権の支持率は「5割」を超えるほどに一気に上昇した。

 支持率上昇の理由は、第1に、米国を含めたG7各国首脳を招いた広島原爆死没者の慰霊イベントを強行したことにある。日本はこれまで、広島・長崎に核攻撃を仕掛けるという「戦争犯罪」「人類に対する犯罪」を行った“加害者”である「連合国」側の主要国家の首脳陣を招き、その“被害者”である核兵器死没者に対して慰霊させるというイベントを行ったことはなかった。安倍総理がオバマ大統領の慰霊を行っているものの、G7各国首脳が慰霊を行う「絵」は、多くの国民にサプライズをもたらした。

 第2に、ウクライナのゼレンスキー大統領の突然のG7参加だ。これも多くの国民にサプライズをもたらすことになった。

 この2つのサプライズによって、平均的な日本人は大いに喜び、そのサプライズを演出した岸田氏を一瞬とはいえ支持するに至ったのだ。

 今多くの国民は、日本は2流、3流の国に落ちぶれてしまっているという自己卑下的認識を色濃く共有している。1980年代、90年代にあった「Japan As No.1」というスローガンに象徴されるような、「世界一の日本」「リーダーとしての日本」という誇りは、軍事力や政治力、世界世論形成力に関してはいうまでもなく、経済力や技術力に関してさえもあらかた消え去っている。「世界のリーダー」はアメリカであり、欧州であり、中国であり、これら諸国の最大の関心事はウクライナ戦争だ。日本なんて、そんな世界の中心軸から完全に遠ざかった、周辺の目立たない存在だという認識が日本中に蔓延している。

 いわば、日本人は自分たちのことを「物を知らない粗野な人だ」という意味における「田舎者」だと自認しているわけだ。世界世論を学校の「クラス」(学級)にたとえるなら、そのクラスにおける「スクールカースト」において、アメリカは誰もが認めるトップ中のトップで、欧州各国はそのトップのアメリカを取り巻くカースト上位の“雲の上”にいるきらびやかな存在である一方、日本はかつてそんなカースト上位国家ともそれなりに付き合いがあったものの、今や随分落ちぶれてしまい、そんなトップどころにほとんど相手されないカースト下位の存在になってしまっている──そんな自己卑下的認識が日本国民において広く共有されてしまっている。

 そんななか、G7ではカースト下位の田舎者に落ちぶれた日本が、そんなトップどころをホストし、これまで戦後誰1人としてやろうとしなかった「世界で唯一の被爆国」という立場を駆使した、主要な核攻撃加害者達全員を招待した“禁断”の「原爆死没者慰霊イベント」を断行し、「カースト」上位のきらびやかな国々と互角に渡り合うどころか「一目置かれる」機会を創出したわけだ。しかも、今、「カースト」上位の国々が一番熱心にこだわわっているウクライナのゼレンスキーがサプライズゲストとして登場したのだ。

 結果、多くの日本人が、カースト下位の俺たちニッポンジンが、カースト上位のきらびやかな国々の仲間に入れてもらえた気分になったわけで、それに満足し、気分が良くなった日本人たちが、そのイベントを主導した岸田氏に対して「岸田さんもなかなかやるじゃん」という気分で、岸田人気が一瞬間だけ上がったのだ。──なんというおぞましく、薄気味悪い「田舎者根性」だろう。

京都大学大学院 教授 藤井聡 氏
京都大学大学院
教授 藤井 聡 氏

    「スクールカースト」におけるトップどころに相手してもらいたい、なぞという中身のまったくない劣等感を払拭するためだけの行為として、これまでの総理大臣であれば絶対にやらなかった「主要加害者全員を招待した核攻撃被害者慰霊イベント」や、「隣国ロシアを激怒させるゼレンスキー大統領徹底支持イベント」をやらかしたわけである。

 今や岸田氏はいうにおよばず、そんな岸田氏を一瞬間たりとも支持した日本人たちの精神から「恥」という概念があらかた蒸発しつくしてしまったと言わざるを得ない。

(つづく)


<プロフィール>
藤井 聡
(ふじい・さとし)
1968年奈良県生駒市生まれ。91年京都大学工学部土木工学科卒業、93年同大学院工学研究科修士課程修了、同工学部助手。98年同博士号(工学)取得。2000年同大学院工学研究科助教授、02年東京工業大学大学院理工学研究科助教授、06年同大学教授を経て、09年から京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年同大学レジリエンス研究ユニット長、12年同大学理事補。同年内閣官房参与(18年まで)。18年から『表現者クライテリオン』編集長。著書多数、近著に『安い国ニッポンの悲惨すぎる未来―ヒト・モノ・カネのすべてが消える―』(経営科学出版)。

(後)

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