【クローズアップ】コロナ禍を経て再び増加に 倒産による中小企業淘汰の始まり
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コロナ禍における「ゼロゼロ融資」が返済期限を迎えたことや、原材料費やエネルギー価格の高騰、さらには人手不足などのさまざまな要因により、事業活動の継続をあきらめる企業=倒産の件数が増加しつつある。
ゼロゼロ融資返済期限で倒産件数が増加へ
2020年初頭から世界を席巻した新型コロナウイルスの感染拡大による影響──いわゆる“コロナ禍”により、多くの企業で休業や時短営業、さらにはリモートワークへの移行などを余儀なくされ、生産性の低下や消費の委縮などを招いたことで、日本経済も大きな打撃を受けた。そうしたコロナ禍によって売上が減少し、危機的状況に追いやられた中小企業の資金繰り支援のために、政府の主導により無担保、無利子(3年間)で最大3億円の資金を貸し出す制度──「ゼロゼロ融資」がスタート。当初は日本政策金融公庫や商工中金などの政府系金融機関が手がけていたが、利用が相次ぎ政府系金融機関だけでは対応が間に合わなくなったため、20年5月からは民間金融機関も融資できるようになった(民間金融機関の受付は21年3月末に終了)。
その結果、もともと資金繰りに窮していたところを含めて、多くの中小企業において首の皮一枚つながった状態での延命が可能となった。本来であればすでに経営が破綻し倒産して然るべき状態にあるものの、表面上は存続している企業──いわゆる“ゾンビ企業”の増加である。だが、こうしたカンフル剤も、所詮一時的なその場しのぎに過ぎず、ゼロゼロ融資の返済期限を迎えたことにより、続々と倒産に追いやられている。
中小企業庁HPで白書・統計情報の項目で公表している「倒産の状況」(【表1】参照)によると、コロナ禍前までの倒産件数は毎年8,000件台で概ね横ばいで推移。それが、コロナ禍直前の19年に8,383件(うち中小企業8,378件)だった倒産件数は、コロナ禍が本格化した20年になると、前述のゼロゼロ融資等の効果もあって、7,773件(うち中小企業7,769件)まで減少している。翌21年には6,030件(うち中小企業6,027件)とさらに減少しており、平時であれば倒産に至っているはずの企業が、ゼロゼロ融資や給付金・助成金・補助金などの各種支援によって延命している様子が見て取れる。
だが、そうしたコロナ禍における特別措置的な状況も長くは続かない。22年4月以降は17カ月連続で倒産件数の前年同月比がプラスとなっており、徐々に増加に転じている様子がうかがえる。とくに今年は、8月までの8カ月ですでに5,560件(うち中小企業5,557件)に達しており、このペースで順当にいけば、22年の件数を優に超え、8,000件超まで拡大していくことも予想される。これは、概ねコロナ禍前の水準まで倒産件数が戻ってくるといってもいいだろう。
負債総額の推移については、各年の大型倒産の有無によって大きく左右される。近年では自動車部品製造大手のマレリホールディングス(株)(22年6月に民事再生法の適用を申請/負債総額:約1兆1,856億円)の破綻があった22年の負債総額が2兆3,314億円と、群を抜いて大きくなっている。23年は8月までで計1兆2,044億円に上っており、このペースでいけば、22年の水準には届かなくとも、ここ数年で2番目の規模となることが予想される。
業種別の倒産状況(【表2】参照)を見ていくと、もともとの母数の多い建設業やサービス業・その他(一次産業含む)の件数が多いほか、製造業、卸売業、小売業などの件数も多くなっている。コロナ禍前と比べて、倒産件数が目立って増えた業種もなければ、逆に減っている業種もとくにない印象だが、そのなかで強いて挙げるならば「運輸業」の件数がやや増加傾向にある。運輸業の22年の倒産件数は324件とコロナ禍前の数値を上回っているほか、今年も8月時点で269件となっており、このペースでいけば、年末までに400件超となることも十分に考えられる。運輸業が近年になって倒産件数が増加傾向にある要因としては、後述する「2024年問題」や燃料価格の高止まりなどが考えられるだろう。
不況型倒産が全体の8割超 人手不足倒産も急増中
企業が倒産に至る原因は、各社が置かれた状況によってそれぞれ異なるが、大きく分けると、「放漫経営」「過少資本」「連鎖倒産」「既往のしわ寄せ」「信用性の低下」「販売不振」「売掛金回収難」「在庫状況悪化」「設備投資過大」──の9つに分類される。
中小企業庁が公表している原因別倒産状況(【表3】参照)によると、最も多いのが「販売不振」で全体の7割超。次いで「既往のしわ寄せ」「連鎖倒産」「放漫経営」という順となっている。このうち、「販売不振」や「既往のしわ寄せ」などの景気悪化の影響を受けた不況型倒産の件数は全体の約8割以上を占めている。販売不振とは、シンプルに売上高が減少して利益が出せていない状況で倒産に至るケースであり、既往のしわ寄せとは、経営状態が悪化しているにもかかわらず、具体的な対策を講じないまま過去の資産を食い潰していくことで倒産に至るケースを指す。こうした不況型倒産の件数が全体の大多数を占めている現状は、日本経済の不安定性が続くなかで、旧態依然とした中小企業においては従来の業態やビジネスモデルが時代に合わなくなり、採算性の低下によって倒産に至るケースが増えてきていることを示している。
ほかに、連鎖倒産や放漫経営の件数も相応の数値で推移しており、限られた受注先への依存や、経営者の判断ミスやずさんな管理体制など、中小企業で多く見られる企業体質に起因する倒産のケースも散見される。
また、近年増加傾向にあるのが、「人手不足倒産」だ。これは、前述の9種類の原因には分類されていないが、従業員の離職や採用難などにより人手を確保できず、業績が悪化したことが要因となって倒産に至るケースである。一口に人手不足といっても、「求人難」「従業員退職」「後継者難」「人件費高騰」などケースはさまざま。たとえば建設業においては、「仕事はあるけれど、人手が足りないために請けることができない」という声もよく聞かれるが、人手が足りないから仕事を請けられずに売上も上がらず、売上が上がらないから従業員に十分な給与が払えずに退職を招いてしまい、さらに人が減って窮地に陥っていく──そうした悪循環を余儀なくされた結果、力尽きて倒産に至ってしまうという流れだ。もちろん業種によって人手不足の深刻さの度合いは違ってくるものの、労働力人口が右肩下がりの状況にある日本においては今後、人材確保が困難な状況にある中小企業を中心に、人手不足倒産は高水準で推移していく可能性は高い。
人手不足に拍車をかける2024・2025年問題
そうした各社が人手不足にあえぎながら四苦八苦している状況をあざ笑うかのごとく、ここにきて鎌首をもたげてきているのが、いよいよ間近に迫ってきた「2024年問題」だ。2024年問題とは、19年4月に施行された改正労働基準法に盛り込まれている「残業時間の上限規制」が、これまで猶予されていた建設業および運送業においても24年4月から実施される事態を指す。これにより、建設業および運送業でも時間外労働(休日労働は含まず)の上限は原則として月45時間・年360時間となり、特別な事情の場合を除いては、上限を越えることができなくなる。すでに残業時間の上限規制が実施されているその他の業種においては、各社とも業務プロセス見直しによる効率化のほか、省力化・合理化への投資を行うなどの方策によって対応を図っているが、業界的にもともと長時間労働が常態化している建設業および運送業でも同様の方策で対処できるかどうかは、かなり不透明だと言わざるを得ない。
そして、さらに翌年には「2025年問題」が控えている。2025年問題とは、約800万人いるとされるすべての「団塊の世代」(1947~49年生まれ)が75歳以上の後期高齢者となり、国民の5人に1人が後期高齢者になる事態を指す。当然ながら、高齢化社会の進行によって労働力人口は減少していくうえ、企業によっては経営者の高齢化によって、後継者がいない場合には廃業を選択せざるを得ないケースも増えてくるだろう。2024年問題と同様に、2025年問題の到来も人手不足にさらなる拍車をかけることが予想され、各社とも企業存続をかけて、従業員の確保が喫緊の課題となっている。
さまざまな逆風下で、“あきらめ倒産”も増加へ
さらに、昨今のロシアのウクライナ侵攻による影響などの国際情勢の変化や世界的な人口増加による需要増に起因するエネルギーや原材料などの価格高騰、円安の著しい進行なども、多くの中小企業の企業活動においては逆風となっている。たとえば建設業においては、過去に例のない資材価格の高騰となったことで、工期の関係上、受注時の価格と実際の施工時の資材価格との釣り合いが取れず、利益の確保がままならない状況が生まれている。運送業においても燃料代の高騰などの問題に直面しているほか、製造業では円安などで資材価格が高騰するなど、いずれも死活問題となっている。
こうした状況下で、冒頭に触れたようにゼロゼロ融資の返済が本格化しており、従前からの慢性的な経営難の状況下で業績改善の見通しが立たずに、“あきらめ倒産”という選択を行うケースも今後ますます増えてくることが予想される。“倒産予備軍”といって差し支えない、保証付き融資の返済を信用保証協会が肩代わりする「代位弁済」(『I・B』2868号、9月18日発刊、で詳報)の件数も増加してきている。今後は、中小企業を中心として倒産が加速していくことが懸念され、事業活動で利益を生み出せない=存在価値の乏しい中小企業が、本格的に淘汰される時代が到来したといえるだろう。
【坂田 憲治】
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