2024年11月27日( 水 )

「上善如水」の藤井聡太八冠

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 NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は、史上初の将棋「八冠」を達成した藤井聡太氏について論じた10月12日付の記事を紹介する。

 ジャニー喜多川氏の史上空前の性犯罪事案が明るみに出されるなかジャニーズ社は自らの責任を認識することもできていないと思わせるに十分な杜撰対応を繰り返し、批判を浴び続けている。

 「喜多川システム」の共犯者であると疑われる者が新会社の経営トップを務めるという。批判一色になるのが順当なところだが、問題を追及する側に「喜多川システム」の共犯者が多数潜伏しており、問題追及を混乱させている。

 ジャニーズ社も、共犯関係にあったテレビ事業会社も、まずは第三者による過去の検証を行う必要がある。過去検証によって「喜多川システムの共犯者」を明確にしない限り、過去との決別は不可能だ。

 ジャニーズ社は八百長会見の言い訳を繰り返すのをやめて、膿を出し尽くすための三回目の記者会見を早急に開くべきだ。ジャニーズ社は重大な性犯罪事案を収拾するための対応を迫られているという現実を認識できていないように見える。

 このままでは太平洋戦争の日本軍同様、無条件降伏に追い込まれることになるだろう。日本社会のひずみが鮮明に浮き彫りにされるなか、明るい話題が浮上した。

 将棋の藤井聡太七冠が、2勝1敗で迎えた王座戦の第四局に勝利し、史上初めて「八冠」を制覇した。偉業である。これまでに竜王・名人、王位、叡王、棋王、王将のタイトルを獲得、維持していた。八冠最後のタイトルである王座を10月11日に獲得し、見事に八冠を達成した。

 藤井聡太氏は2002年7月19日生まれの21歳。愛知県瀬戸市出身。2016年に史上最年少(14歳2カ月)で四段昇段(プロ入り)をはたし、そのまま無敗で公式戦最多連勝の新記録(29連勝)を樹立した。

 2020年7月に17歳11カ月で「棋聖戦」を制して初タイトルを獲得。30年ぶりに初タイトル獲得最年少記録を更新した。それからわずか3年あまりで8つのタイトルのすべてを制覇して八冠の偉業を達成した。

 タイトル戦番勝負における初登場からタイトルを18回連続で獲得し続けているが、これも歴代1位の大記録。タイトル戦18戦全勝を続けている。

 10月11日の対局終了後の会見で藤井氏は「苦しいシリーズだったので幸いしたのですが、この経験を糧にしてもっともっと実力を付けていかなければ。ここ1、2年でタイトル戦の結果は出たが、それに見合った力があるのかというと、まだまだ」と述べた。

 対局から一夜明けた10月12日の会見では「終局も比較的遅かったので部屋に戻った後に軽く対局を振り返りました。いろいろ考えてしまいましたが、ふだんどおり眠れたと感じています。八冠の達成はまだ実感が湧かないというのが正直なところですが、うれしい気持ちとともにこれまで以上に高いレベルの将棋が要求されると思っています」と語った。

 さらに、「まだまだ伸びしろや改善の余地は多いと思っていますが、10代の頃と違って意識的に取り組んでいかないと棋力を伸ばしていくのが難しいかなと思っているので、どうすれば実力を高めていけるかしっかり考えていきたい」と述べた。

 各界に突出した実力を示す人物は多数存在するが、藤井氏の傑出した素晴らしさは、謙虚な人間性にあると感じる。客観的に見れば想像を絶する偉業を達成しているが、藤井氏は驚異的に謙虚である。いかなるときにも、対局の相手に対する敬意を明確に示す。

 偉業を称えられても謙虚に自らの足りない点に言及して今後の精進の姿勢を表明する。この行動を例外なく示すことのできる人物はなかなかほかに見当たらない。年長者は藤井氏の年齢が低いことをもって上から目線で論評するが、人物の優劣は年齢と無関係だ。

 藤井氏は年齢が低いがすでに大人(たいじん)の風格を備えている。その風格とは偉さをひけらかすものではない。高みにあればあるほど我が身を低くする水性の謙虚さといえるもの。

 老子は「上善は水の如し」と述べた。水は器に身を合わせる柔軟性をもつ。我が身を低きに寄せる謙虚さをもつ。その一方で「涓滴(けんてき)岩を穿(うが)つ」に表現される強さをもつ。

 藤井氏の姿は上善そのものと感じられる。このような人物の出現に率直に感謝したいと思う。本当の力を有する者は勝って謙虚であると思う。

※続きは10月12日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「藤井聡太氏が示す八冠の品格」で。


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植草一秀の『知られざる真実』

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