2024年12月27日( 金 )

孫正義氏が携帯電話から手を引く~米スプリントを売却し、連結決算から切り離す

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 ゴールデンウィーク期間中に届いたビッグニュースである。ソフトバンクグループ傘下の米スプリントとTモバイルUSの経営統合が報じられた。ソフトバンクの最大のお荷物は、巨額な有利子負債を抱える子会社のスプリントだった。統合によって、子会社でなくなる。事実上の売却である。

米スプリントはソフトバンクの子会社でなくなる

 日本経済新聞電子版(18年4月30日付)は、ニューヨーク発の記事を報じた。

〈ソフトバンクグループ傘下で米携帯電話4位のスプリントと同3位のTモバイルUSは29日(米国時間)、経営統合することで合意したと発表した。ソフトバンクとTモバイルの親会社ドイツテレコムが互いに主導権を主張し交渉は難航したがソフトバンク側が譲歩し、統合会社をドイツテレコムの連結対象にすることで決着した。米規制当局が承認すれば、携帯市場は3強時代に突入する。

 統合は株式交換によって行い、交換比率はTモバイル1株に対してスプリント9.25株。統合会社の社名は「Tモバイル」とし、Tモバイルのジョン・レジャー最高経営責任者(CEO)がCEOを務める。スプリントのマルセロ・クラウレCEOとソフトバンクグループの孫正義CEOは統合会社の取締役に就く。統合会社の持ち株比率はドイツテレコムが41.7%、ソフトバンクが27.4%になる見通し。〉

 この記事のポイントは統合会社の持ち株比率。統合会社は41.7%を保有するドイツテレコムの連結対象の子会社になり、27.4%を保有するソフトバンクグループの持ち分適用会社になる。スプリントはソフトバンクグループの子会社でなくなる。
 平たくいえば、ソフトバンクグループは、子会社のスプリントをドイツテレコムに売却したということである。

2度決裂したスプリントとTモバイルの統合交渉

 ソフトバンクは13年に約2兆円を投じ米携帯電話3位(当時)のスプリントを買収した。4位のTモバイルと合併させて、ベライゾン・コミュニケーションズ、AT&Tに対抗する第3勢力をつくる構想だ。孫氏は世界の“携帯電話王”になる野望を隠さなかった。
 ドイツテレコムは業績不振に苦しんでいたTモバイルを売却する気で、交渉はまとまるかに見えた。だが、オバマ政権下の連邦通信委員会(FCC)が競争政策の観点から統合に難色を示したため、14年に断念した。
 孫氏は米国の政権交代を機にトランプ新大統領と直談判。17年そうそうにトランプ政権は通信業界の規制を緩和する方針を掲げた。スプリントとTモバイルの統合交渉は仕切り直し。しかし、3年前とは状況は一変していた。
 Tモバイルは業績が回復、シェアは3位に浮上。スプリントはTモバイルに逆転され、4位に転落した。お荷物だったTモバイルが急成長し稼ぎ頭になったことで、ドイツテレコムはTモバイルを成長事業に位置付けた。ドイツテレコムが俄然強気になった。2度目の交渉は互いに統合会社の経営権を主張して譲らず、17年11月に決裂した。

 その舞台裏を日本経済新聞(17年11月25日付朝刊)は、こう報じた。

〈10月27日午前、東京・汐留のソフトバンク本社が入るビル26階の会議室。孫氏は取締役に「(Tモバイルの親会社である)ドイツテレコムは経営権を手放すつもりはない。このままでは交渉は破談する」と語りかけた。

 これに対し、柳井氏(引用者注・柳井正ファーストリテイリング会長兼社長)や英半導体設計のアーム・ホールディングスのサイモン・シガース最高経営責任者(CEO)ら出席者のほぼ全員が「スプリントの経営権を手放すべきはない」と主張、数カ月にわたる交渉に事実上終止符を打たれた。〉

 だが、孫氏はあきらめなかった。3度目の交渉が本格化したのは今年3月ごろから。半年足らずでソフトバンクは一転、経営権を手放すことを決めた。孫氏が社外取締役の反対を押し切って、スプリントの売却を決断した。なぜか?
 孫氏は当初計画していたスプリントとTモバイルのセット買収が米当局の反対で失敗してから、携帯電話事業への関心を失っていた。携帯電話に見向きもしなくなった。
 投資ビジネス――。これに孫氏は新たな熱情を注ぐことになる。

スプリントの4兆円の有利子負債を切り離す

 孫氏は17年5月、世界のIT(情報技術)関連ベンチャー企業に投資する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を設立。サウジアラビア政府のほか、米アップルなど約10社が参加した10兆円ファンドである。これから10兆円ファンドを次々とつくり、100兆円ファンドにすると語っている。
 「孫さんがウォーレン・バフェットを超える世界一の投資家になる。間違いない」。

 みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長は昨年7月28日、東京都内で開かれた催しで、孫正義氏を絶賛した。バフェット氏は「投資の神様」として名高い米投資家だ。メガバンク首脳のお墨付きを得た孫正義氏は投資家稼業にまっしぐらだ。

 孫氏がスプリントを売却する目的は、巨額な有利子負債を抱えるスプリントを連結決算から切り離すことにある。ソフトバンクグループの17年12月31日時点の有利子負債は15兆8,049億円。このうちスプリントは4兆1,364億円。やっと収益が改善してきたとはいえ、スプリントの有利子負債が経営の重石になっていることがわかる。
 身軽になって、10兆円の投資ファンドに全力投球する。社外取締役の反対を押し切って、スプリントの売却を決断した理由だ。
 ソフトバンクは統合会社の利益を「持ち分法投資利益」として引き続き得るほか、スプリントの約4兆円の有利子負債が連結対象から外れる。スプリントの売上と営業利益は減るが、4兆円の有利子負債が消えることが最大のメリットだ。
 こうはいえる。孫正義氏の実像は、事業家ではなく、投資家なのだ、と。

 

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