2024年11月21日( 木 )

生き残りをかけ、技術向上を図る(後)

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佐賀県鉄筋工事業協同組合
理事長 井手口 勉 氏

 完成した建物の外からは見えないものの、重要な役割を担っているのが、鉄筋工事だ。その業界団体で、佐賀県の鉄筋工事業者をまとめる佐賀県鉄筋工事業協同組合(佐鉄工)の理事長・井手口勉氏に、業界の現状や課題、同組合の取り組みなどについて話を聞いた。

労働環境の改善へ(つづき)

鉄筋工事 イメージ    ──「2024年問題」については、いかがですか。

 井手口 2024年問題の影響は、もちろん大きいと思います。スーパーゼネコンや全国規模のゼネコンであれば、すでに働き方改革が進んでおり、現場は完全週休二日制で、残業も以前ほど多くありません。

 一方で、地場ゼネコンが元請となっている場合は、まだそれほど働き方改革は浸透しておらず、土曜日も動いている現場が多いのが現状です。それでも見積依頼を受けた段階で、週休二日を意識して見積もりを出してくださいと言ってくれる元請もあり、ありがたいと思います。しかし、現状は非常に厳しいところが多いのではないでしょうか。これも私見ですが、建設業界全体で「土曜日・日曜日に仕事をしたら違法」ぐらいの振り切った政策を国が提示すれば、我々も割り切ることができるのに、と思います。

 当社((株)井手口鉃筋)では、もう20年以上前から毎月第4土曜日は休みにしています。まだ周りの同業者が、日曜日も仕事をしている状況のなかで、です。これは当時の社員全員と話をして決めたことですが、結果的に作業の効率化につながりました。ただ、元請や同業者からは「日曜日でも働いているのに何を考えているのか」「そのような建設業者はいない」とよく言われていました。業界内の労働環境改善も、組合の大きな使命の1つだと思っています。

10年後は「勝ち組」へ

鉄筋工事 イメージ

    ──業界が抱える課題について、お聞かせください。

 井手口 労働者の確保です。そのためにも、請負単価アップが必須となります。全鉄筋の岩田会長や九鉄連の宮村会長は、請負単価を上げるために尽力をされています。しかし、我々組合企業が単価を上げると、非組合員の企業はそれより低い単価を提示するでしょう。ですので、全鉄筋も単価アップのために、基幹技能者制度や鉄筋工事業の見える化評価基準(21年3月12日策定)などを駆使して、組合企業の優位性を示し、非組合企業がついてこられないように考えておられます。さらに大事なのは、やはり「ほかではできない」「自社でしかできない」という武器・技術をもつしかないと思います。たとえば、機動力であったり、見える化評点、企画力など、よそはもっていない何かをもっていれば、これからも勝ち進んでいけるのではと考えています。

 ──業界の今後について、どのようにお考えでしょうか。

 井手口 建造物などのものづくりに対して、すごく魅力を感じて入社する若者はそうそういません。ですが、10年後を考えてみてほしいのです。我々の業界で働いている若手職人は、10年後には勝ち組になると思います。今はすごくきつい作業かもしれませんが、今が辛抱のしどころです。

 たとえば大きな工場で働いている人たちは、現在携わっている業務の49%、約半数がAIに取って代わられる可能性があるとオックスフォード大学と野村証券の共同研究で出ています。40%前後は失業する可能性があるとも言い換えられます。たとえば、自動車などのさまざまな機械を生産する工場では、繰り返しの単純作業がほとんどだと思いますが、建設業ではまったく同じシチュエーション、同じ作業というケースはなく、現場ごとに毎回違います。やはり鉄筋を組むには人の手・技術が必要となり、専門工事業は今後も絶対になくならない領域だと思います。

 人間の骨と同じく、鉄筋工事は建物の外からは見えませんが、建物を支える部分をつくる非常に重要な役割を担っています。そうした誇りを胸に、組合間連携をさらに推し進め、会員企業や職人の技能向上を図っていきたいと思います。私も佐鉄工の理事長として、業界の地位向上に努めてまいります。

(了)

【内山 義之】


<プロフィール>
井手口 勉
(いでぐち・つとむ)
1964年、佐賀県出身。第一経済大学 (現・日本経済大学)卒業後、福岡県内にて鉄筋工として入職。1990年、(株)井手口鉃筋に入社。専務取締役を歴任し2000年、代表取締役に就任。
鉄筋業界の未来を見据え、さまざまな技術を模索・考案し商品開発に携わる。
2016年、現代の名工を授与。
2017年、黄綬褒章を受章。

(前)

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