2024年12月04日( 水 )

「子の数に応じ住宅ローン金利優遇」が突き付ける現実

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「フラット35」を拡充し

イメージ     岸田文雄首相は9日、「次元の異なる少子化対策」の一環として、子どもの数に応じて住宅ローン金利を優遇する制度を導入することを表明した。これにより、子育て世代の住宅取得の負担の軽減のほか、広さや安全性など良質な住宅取得を後押しし、出産・育児をしやすくすることで、人口減少の歯止め策の1つとしたい考えだ。

 政府は今年6月13日、次元の異なる少子化対策の実現に向けて「こども未来戦略方針」を閣議決定。「こども・子育て支援加速化プラン」を示し、その1つとして今回の制度創設を打ち出していた。

 国土交通省はこうした動きを受け、子どもが多い世帯ほど住宅ローン金利を引き下げる制度を設けるための予算を、2024年度予算の概算要求に盛り込む方針だ。具体的には、住宅金融支援機構が提供する長期固定金利型住宅ローン「フラット35」を拡充する。

 同ローンにはすでに「子育て支援型」があり、これは地方自治体のマイホーム取得者に対する財政支援とセットで、当初5年間の借入金利を年0.25%引き下げるというもの。新支援策はこの制度について、現行の優遇金利から、子どもの数に応じて引き下げ幅を拡大する。

 子どもが多い世帯を住宅ローン分野で支援するのは、取得のための費用負担を軽減するのみならず、暮らしに金銭的余裕をもたらすことにつながる可能性があるため、今回の決定については前向きな評価ができる。

 さて、住宅ローンに関してはこれまで、民間金融機関も積極的に融資を行ってきた。これは日本において住宅ローンは完済率が非常に高く、焦げ付くリスクが少ない融資案件であったためだ。そうした側面からも、財源を今回の制度創出に振り向けるのは安全策といえ、良策だと考えられる。

ひびき信用金庫の「子宝ローン」

 民間金融機関のなかにはすでに同種のアイデアによる住宅ローン商品を取り扱っている事例がある。福岡ひびき信用金庫(北九州市八幡東区、井倉眞代表)による「ひびしん住宅ローン」のメニューの1つ「子宝住宅ローン」がその一例だ。

 10年固定の場合、子どもが2人いる世帯なら0.1%、3人なら0.2%、4人以上なら0.3%それぞれマイナス金利が適用されるというもの。同種のローンを扱う民間金融機関は全国的にも少ないが、異なるスタイルで支援する金融機関もある。

 三井住友信託銀行が取り扱う住宅ローンの付帯サービス「ジュニさぽ」では、子どもが誕生時点と、6歳、15歳の誕生日を迎えた時点で、その都度金利を1年間年0.1%優遇するという支援策を設定している。

 これらの事例があることを考慮すると、政府による今回のフラット35拡充は遅きに失した感もあるが、これを皮切りにほかの民間金融機関に同様のサービスが広がることを期待できるのなら、それもこの政策を前向きに評価するポイントになりそうだ。

事業者にも求められるより真剣な取り組み

 ところで、近年は原材料価格の高騰や人件費・土地価格などの上昇、さらにはローン金利の先高感、省エネ強化の社会的要請などにより、とくに若年子育て世帯にとっては戸建・マンションに関わらず新築住宅の取得が難しい局面となっている。

 こうしたことから、今回の新制度が子どもをより多く生み育てられる環境づくり、ひいては人口減少という課題に大きな改善効果をもたらすかどうか…ということについては、正直なところ懐疑的にならざるをえない。では、どう対処すべきか。

 住生活関連事業者もそろそろ、この課題により真剣に取り組むべきではないだろうか。各種補助金や減税措置など国の財政出動により、彼らはこれまで成長を支えられてきた。一方で、彼らは「子育て配慮住宅」といったコンセプトのもと、この課題にある程度は取り組んできた。

 ただ、これは対処療法に過ぎない。できれば、表現は適切ではないかもしれないが、「子づくり住宅」というくらいの、それこそ“次元の異なる”コンセプトによる住まい提供をするくらいの覚悟を見せて欲しいものである。

 それが具体的にどんなものを指すのか、書いている筆者にも不明ではあるし、今回政府が打ち出した支援策が対処療法ではないとも言えないが、そんなことを指摘しなければならないほど、日本の人口減少局面は深刻化しているのだ。

【田中 直輝】

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