2024年11月23日( 土 )

サンフランシスコで開催された米中・日中首脳会談の違い(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

米中関係 イメージ    一事が万事。バイデン大統領が熱心に習近平主席を持ち上げ、習氏が頷き返すといったパターンが繰り返された模様です。どうやら、習主席は「バイデン大統領の再選はあり得ない。中国にとって重要なことは、アメリカの経済界の対中投資をつなぎ止めること」と割り切っているようでした。

 習氏を空港で出迎えた際には、イエレン財務長官らバイデン政権の幹部が顔をそろえていましたが、習氏が最初に握手をしたのはカルフォルニア州のニューサム知事でした。「ポスト・バイデン大統領」を狙う有力候補で、最近も北京を訪問し、習氏と面談を重ねています。この一例からも、中国側はバイデン大統領を見限っていることは明白です。

 そのことはアメリカ側も十分に認識していたようで、バイデン・習首脳会談の後に開催されたアメリカのビジネスマンたちとの夕食会にはアメリカを代表する経済界の大物が顔をそろえました。たとえば、アップルのクック氏、ブラックロックのフィンク氏、ブラックストーンのシュワルツマン氏、ブロードコムのタン氏、ファイザーのブーラ氏、クアルコムのアモン氏、ビザのマキナニー氏など、有力企業のトップが勢ぞろい。

 そこで出された料理は一皿2,000ドルという超豪華なもの。習氏はバイデン大統領や岸田首相との会談後の記者会見には姿を見せませんでしたが、アメリカの経済人を前にした演説では、「中国経済は不動産バブル崩壊を乗り越えつつある。アメリカからの投資を歓迎したい」と強調。あくまで経済重視の姿勢を取り、アメリカとの貿易通商関係をさらなる高みに引き上げようとする意志が感じられました。

 その背景には、こうしたアメリカ企業を中心に外資が今、中国から相次いで撤退する動きを見せていることがあります。今年の第3四半期だけでも中国は外資企業の撤退や事業縮小により118億ドルの外資を失いました。これは中国にとっては比較可能な統計を公表している1998年以降で初のマイナスという事態です。

 加えて、中国の不動産市場は依然として厳しい状況に直面しています。この10月の住宅販売価格は過去8年間で最悪の値下がり率を記録したばかりです。そのため、習政権では李強首相が中心となり、不動産市場の安定化に向けた施策を推進し始めています。これ以上のデフォルトを押さえたいと必死の取り組みが始まりました。国民の不安や不信感も根深いものがあるため、対外関係においては安定と関係強化が最優先課題となっていると思われます。

 そうした背景もあり、日本ではまったく報道されませんでしたが、米中首脳会談において、習氏は「近い将来において、中国が台湾への軍事侵攻を企てることはない」と明言しました。バイデン大統領との首脳会談においては、さまざまなテーマが話し合われたようですが、両国にとって最大かつ最も危険な議題が「台湾」問題であったことは論を待ちません。

 バイデン大統領は「“一つの中国”政策を変える考えはない」と発言しましたが、アメリカ国内では軍事専門家を中心に、「2027年あるいは35年に中国による軍事侵攻が想定される」との見方が頻繁に表されてきています。そのため、習主席はこうした観測を全面的に否定したわけです。

 とはいえ、習氏は「中国は台湾との統一を必ず実現する。祖国統一はいかなる勢力も拒むころはできない」とも、くぎを刺しました。もちろん、現在の中国の国内事情から推察すれば、台湾への軍事侵攻はポーズとしては繰り出すものの、国内世論の動向を見極めれば、簡単には踏み込めない領域となっているはずです。

 米国防総省によると中国は500発以上の核ミサイルを保有し、中国人はよく「ズボンをはかなくとも、核をもつ」と言います。しかも、25年の時点では、中国の軍事的影響力の範囲は西太平洋全体におよぶ模様。要は、米中の戦力バランスは中国優位に傾くと想定されるわけです。現時点において中国は米軍と比較して7割強の戦力を保有し、米国とほぼ肩を並べています。27年の人民解放軍建軍100周年までに台湾解放を意図している可能性は否定できません。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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