サンフランシスコで開催された米中・日中首脳会談の違い(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸諸般の情勢を検討した結果、バイデン大統領も米軍の専門家も軍事侵攻に関する習近平氏の発言を額面通りに受け取ることはなかったようです。中国は「平和的統一」を主張していますが、「武力による統一の可能性も否定できない」と補足しているため、アメリカも警戒心を解くことはできないはず。そのせいか、習氏と別れた後の記者会見では、バイデン大統領は習氏のことを「独裁者」と表現し、「そうした認識に変化はない」とまで念を押す有り様でした。
記者からその真意を聞かれ、「我々とまったく異なる政治形態に基づく共産主義国家を率いる人物という意味で、習氏は独裁者だ」と補足。傍で聞いていたブリンケン国務長官は苦虫を噛み潰したような表情を見せていました。
もちろん、こうした部分は中国では放送されていません。バイデン氏自身も、面と向かっては習氏を持ち上げていましたが、それ以外の場では「対中強硬姿勢」が国内の選挙対策上は欠かせないと判断し、微妙に使い分けていたわけです。この点に関しては、習氏も似たようなものでした。
国内の景気浮揚にアメリカからの投資や貿易関係の拡大が欠かせないことは自明の理であり、アメリカへの譲歩や優遇策をチラつかせる姿勢を随所に見せたものです。と同時に、米中首脳会談が終わるやいなや、中国軍は台湾周辺に12機の戦闘機や5隻の軍艦を派遣し、台湾への威嚇を続けていました。
思い起こせば、習主席とインドのモディ首相は2018年と19年には頻繁に首脳会談を繰り返しました。今回のバイデン大統領と同じように、2人で散策し、両国関係の経済的相互依存性や安全保障面での危機管理について合意を形成したものです。しかし、そうした首脳間の親密な関係醸成にもかかわらず、インドと中国の国境紛争や対立は解消されないまま、今日まで一触即発の状況が続いています。
アメリカはロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・ハマス戦争に直面し、ウクライナやイスラエルへの軍事、経済支援を余儀なくされています。国内的にはアメリカ史上最悪の財政赤字33兆ドルを抱えており、かつての超大国アメリカのように無制限な援助を提供できなくなりつつあるわけです。しかも、中国は徐々に減らしてはいますが、アメリカの赤字国債を8,000億ドルも保有しています。これはアメリカの生殺与奪を握っていると言っても過言ではありません。
そのため、イスラエルが苦境に陥らないように、イランとの良好な関係を持つ中国に対して、「中東地域での戦火が拡大しないようにするため、テヘランに対して自制を求めるように中国から影響力を行使してもらえないか」と持ち掛けたようです。習主席は即答を避けたようですが、こうしたやり取りからも、中国はアメリカの弱点を改めて把握したに違いありません。
いうまでもなく、バイデン大統領の支持率は急落を続けています。次期大統領選挙まで1年を切りました。本人は再選を目指す意向を明らかにしていますが、この11月20日に81歳になり、言動には不安感が付きまとっています。恐らく、習主席は直接、バイデン大統領の立ち居振る舞いを観察し、それなりの判断を下したに違いありません。
習氏の関心を引こうと、側近が準備した「若き日の習氏の写真」や「彭夫人の誕生日お祝い」などは無難にこなしたようですが、肝心の安全保障や先端技術に関する協議ではバイデン大統領の限界を感じ取ったものと思われます。それゆえ、習主席はバイデン大統領との首脳会談ではなく、アメリカのシリコンバレーやウォールストリートの経営トップとの夕食会と懇談にエネルギーを注力したわけです。
というのも、岸田首相も参加したAPEC総会もIPEF首脳会議もアメリカが音頭を取ったものですが、通り一遍の声明文を採択しただけで、内容は空疎なものでした。これでは習主席も「バイデン大統領は終わった」と見なした可能性が高いと思われます。
日本とすれば東シナ海のガス田開発をめぐる08年の日中合意を当てはめる工夫をすべきと思われます。条約交渉には至っていませんが、日中両国が中間線で暫定水域の設置に合意した現実的なもの。中国にもメリットがあるわけで、日中外交が再開すれば、東シナ海の安定化を促進するきっかけとなり得るはず。そうした建設的な提案がなければ、中国も福島の原発処理水を「核汚染水」と断定し、日本からの水産物の輸入禁止を解除することはあり得ないでしょう。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。関連キーワード
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