覇権国、米国国益遂行の手段為替レート(前)
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NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
今回は11月24日発刊の第345号「覇権国、米国国益遂行の手段為替レート」を紹介する。1971年から始まった
第二次戦後体制の終焉戦後体制は1945年からの36年間と、1971年から今日までの52年間に区分できる。第二次戦後体制ともいえる現在の世界政治経済秩序の骨格は、1971年の2つのニクソンショックによって形成された。しかし、それは中国の「フランケンシュタイン」化と米国覇権に対する挑戦によって、維持することができなくなった。世界は今、ニクソンショック体制に代わる新たな秩序が模索される時代に入っている。
「フランケンシュタイン」をつくったニクソンの米中国交回復、
国連からの台湾追放ニクソンショックの第一は米中国交回復である。国連常任理事国であった中華民国(台湾)との国交を断絶し、世界秩序のなかに共産中国を招き入れた。経済発展が中国の民主化を促し、中国がいずれ世界のリベラルデモクラシー秩序の担い手になるとの期待に基づくこの政策は、50年後に大いなる誤りであったことが判明した。また、この日本を頭越しにした米中連携は、同盟国日本外交に禍根を残した。
30年後の2003年に明らかにされたニクソン訪中機密議事録によれば、ニクソンは「我々の政策は、日本が経済的拡張から軍事的拡張に進むことを可能な限り抑止する」「日本が台湾独立運動を支持することを思いとどまらせる」「日本を抑制することが太平洋の平和にとって利益になる」「日本に米軍がいなければ日本は米国に意を払わない」(10/3/2016読売新聞、出口治朗氏)などと述べている。中国に対する敬意と同盟国日本に対する警戒があからさまに語られている。
米国赤字を是正しない変動相場制、
本質はドル本位制第二のニクソンショックはドル金交換の停止である。基軸通貨ドルは金の裏付けが失われたことで、大暴落の懸念が語られた。しかし、金の縛りを離れたことで輪転機を回してのドル散布が行われたほどには、ドルの価値は下落しなかった。図表1は世界のGDPに対する主要国の経常収支比の推移であるが、米国だけが唯一最大の債務国として一手に対外債務を積み上げてきたことが明瞭である。
米国は1980~1990年代には日本の、2005年以降は中国の巨額の対米貿易黒字を指摘し通貨の割安さを非難したが、自身の赤字削減の努力はなされなかった。これはドル基軸通貨体制の下での変動相場制が、非対称のものであったことを物語る。
変動相場とは不均衡是正のメカニズムを内包しているゆえにフェアであると信じられている。貿易赤字国の通貨は安くなることで赤字が減る、黒字国通貨は強くなることで黒字が減るというメカニズムには説得力があった。赤字国は通貨安になることで、輸入物価が上昇し輸入が減る、また通貨安で競争力が強まることで輸出が増えるという理屈である(黒字国は逆)。
これを根拠として、米国は為替操作の疑いがある主要貿易相手国を監視し、時には制裁を加えてきた。かつて日本や中国は急激な通貨高を回避するための外貨介入により、米国国債保有を積み上げたが、米国主導の国際世論はそれを為替操作、ダーティフロートと非難した。
しかし、過去40年間の歴史的事実は、この論理は米国だけには適用されてこなかったことを示している。本来であれば大赤字国の米国の通貨ドルは急落し、米国の輸入物価が急騰することで輸入に歯止めがかけられなければならなかったが、ドルの下落は限定的で米国の輸入のブレーキにはならなかった。
その結果、米国の経常収支赤字は増加し続け、ニクソンショック後50年を経て、世界には巨額の対米債権と、米国の巨額の対外債務が積みあがった(図表2、3)。これこそが米国による世界に対する成長通貨ドルの供給そのものであった。
(つづく)
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