2024年12月22日( 日 )

SBIHD北尾氏の「天国と地獄」~新生銀行を買収したものの、SBI証券が行政処分(前)

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 「天狗の高転び」。自由自在に飛び回る天狗が、何かの拍子に飛び損なうことから、日頃自慢している者が、油断して失敗してしまうたとえである。インターネット金融大手、SBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長CEO(最高経営責任者)は、まさに天狗そのもの。新生銀行を買収して大銀行のオーナーに収まったのも束の間。傘下のインターネット証券大手、SBI証券が行政処分を受けた。北尾氏の野望と転落の軌跡をレポートする。

株価操作で行政処分を受けたSBI証券の危機

イメージ    年明けそうそう、激震が走った。金融庁は1月12日、インターネット証券大手、SBI証券が引受業務を手がける新規株式公開(IPO)において初値を人為的に操作していたとして、金融商品取引法に基づく一部業務停止処分を出した。複数の役員も関与しており、重い処分となった。報道各社が一斉に大々的に報じており、『朝日新聞』(2024年1月13日付朝刊)を引用する。

 〈金融庁によると、問題になったのは20年12月~21年9月、SBI証券が「主幹事」として関わった企業3社のIPO。上場後に市場で最初に取引が成立する「初値」が、株を売り出す際に事前に決めた「公開価格」を下回らないよう、買い注文を出すことを投資家に依頼。顧客の機関投資家9社と一般投資家174人から買い注文を受け付け、「作為的な相場形成」をした。当時の常務取締役ら複数の役員も関与していたという〉

 SBI証券の動機は何だったのか。

 〈競争が激しいネット証券業界で、同社の優位性を投資家に訴える狙いがあったとみられる〉

 と朝日新聞は分析している。新NISA(少額投資非課税制度)が、24年1月から始まった。SBI証券が、その争奪戦にイケイケドンドンで挑んだ結果にほかならないだろう。

SBI証券が売買手数料ゼロを仕掛ける

 「貯蓄から投資へ」。新NISAとは、個人の資産運用を後押ししようと国がつくった税制の優遇制度。ふつう、投資で儲けた利益には税金が20%程度引かれる。それがNISAは税金がかからないので、丸々受け取ることができる。これが最大の特徴だ。

 儲けを積み立てて運用していけば、利益は膨らむ。投資への流れを加速させる打ち出の小槌がNISAだ。新NISAの争奪戦がヒートアップした。

 まず仕掛けたのが業界最大手のSBI証券。23年8月31日、「ゼロ革命」と銘打って、日本株の現物取引と信用取引の手数料を9月30日注文分から無料化すると発表した。親会社のSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長はかねて手数料無料化に意欲を示しており、それを実行したかたちだ。

 SBIHDの北尾氏は22年11月の決算説明会で「来年度上半期に手数料の無料化を実現する」と表明。「(ライバルのネット証券のなかには)潰れるところも出てくるだろう」と宣戦布告していた。

 SBI証券の「ゼロ革命」宣言を受け、業界2位の楽天証券も即座に追随、10月1日から手数料の無料化を行うと表明した。両社とも現物取引で一注文あたり55円~1,070円の手数料がゼロになった。ネット証券4位の松井証券は12月4日より、為替手数料の無料化に踏み切った。

マネックスはドコモの傘の下に

 SBI証券と楽天証券が国内株の取引無料化に踏み切ったことは、ネット証券業界の再編をもたらした。ネット証券3位マネックスグループは10月4日、NTTドコモと資本・業務提携を結んだ。共同出資で持株会社を設立し、傘下にマネックス証券を置く。マネックス証券はドコモの連結子会社となる。

 共同出資の持株会社ドコモマネックスホールディングスの株式は、ドコモが議決権ベースで約49%、マネックスが約51%を所有する。ドコモは株式取得に約485億円を出資、取締役の過半数を指名する。24年1月4日に取引は完了した。

 今回のドコモとマネックスGの資本・業務提携の実態は「マネックスの救済」である。NTTとしては、返す刀で遅れている金融・証券部門を傘下に置くという意味があるが、「マネックスがNTTに泣きついた」(証券業界関係者)というのが真相だ。

 この日の会見で、マネックスグループの松本大会長は両社の提携のメリットばかり語っていたが、本音は、救済してもらってホッとしているというところだろう。

 手数料の無料化はマネックスには大ダメージだ。収益に占める株式委託手数料は一目瞭然で、もはや競争できない。そこで、寄らば大樹ということでマネックスはNTTの軍門に下った。

 資本・業務提携では合弁の中間持株会社をつくり、マネックス証券はドコモの連結子会社化という形態になっているが、実際は、NTTの大きめの一部門となり、NTTの「証券・金融機能の会社」となっていくだろう。

(つづく)

【森村和男】

(中)

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