2024年12月22日( 日 )

SBIHD北尾氏の「天国と地獄」~新生銀行を買収したものの、SBI証券が行政処分(中)

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 「天狗の高転び」。自由自在に飛び回る天狗が、何かの拍子に飛び損なうことから、日頃自慢している者が、油断して失敗してしまうたとえである。インターネット金融大手、SBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長CEO(最高経営責任者)は、まさに天狗そのもの。新生銀行を買収して大銀行のオーナーに収まったのも束の間。傘下のインターネット証券大手、SBI証券が行政処分を受けた。北尾氏の野望と転落の軌跡をレポートする。

新NISAが引き金、ネット証券の手数料無料化競争

新NISA イメージ    24年から始まった「新NISA」を利用するには、金融機関の口座が必要だが、1人1口座しか持てない。その争奪戦に向けて、ネット証券間で、手数料無料化競争が激化した。それまで株式取引ごとに数十円から数百円かかるものをゼロにするわけだから、文字通り、身を削って競争しているのである。

 ネット証券とは、ネットを通じてさまざまな投資サービスを利用できる証券会社のこと。株式投資、投資信託、債券、FX、金(ゴールド)などへの投資がスマホやパソコンからできる。

 口座数は、SBI証券グループが1,109万口座(23年9月末、SBI証券・SBIネオモバイル証券・SBI証券ネオトレード証券・FOLIOの口座数の合計)。

 楽天証券は23年12月に、証券総合口座数が国内証券会社単体で1,000万口座になったと発表した。楽天グループは携帯電話事業の経営悪化で、みずほフィナンシャルグループの支援を仰いでおり、楽天証券は早晩、みずほ証券の傘下に組み込まれることになろう。

 ネット証券3位のマネックス証券は225万口座、4位の松井証券は149万口座(いずれも23年9月末)。

 SBI証券は、新NISA開始を機に、他社を突き放す勝負に出た。株式の取引手数料の無料化で、シェアをさらに伸ばす算段だ。SBI証券は口座数では、証券最大手野村證券(539万口座)を上回っているが、証券会社の実力を示す預かり資産は、野村の117兆円に対してSBIは23兆円と足元にもおよばない。

 野村に追いつき追い越すために、大手証券のM&Aを視野に入れているが、SBI証券が行政処分を受けたことは、こうした戦略に狂いが生じそうだ。

「第4のメガバンク」構想の切り札が新生銀行の買収

 北尾氏は野村證券出身。ソフトバンクの上場を担当したことから、孫正義氏に招かれ、ソフトバンクに入社。孫氏が進めるM&Aのブレーンとなった。

 ソフトバンクグループから決別した北尾氏が1999年にSBIHDを創業してから20年余で、証券から暗号資産、ヘルスケアまで幅広い事業を展開する金融コングロマリット(複合企業)に成長した。残る悲願が銀行業への本格進出だ。

 北尾氏は19年に「第4のメガバンク構想」を掲げ、10行近い地銀に次々、出資したが、完全なコントロール下に置いている銀行はない。そこに格好の獲物が目の前にぶら下がった。筆頭株主の米投資ファンド、JCフラワーズが手を引いた新生銀行だ。

 北尾氏は新生銀の買収に乗り出した。北尾氏の思惑はこうだ。新生銀を買収し、地銀連合の核に据える。旧長銀が発行した「リッチョー」や「ワリチョー」といった、かつての金融債で築かれた地銀との関係は、今も新生銀に残る。新生銀を核とする「第4のメガバンク」をつくり、SBIが大株主として君臨するというシナリオだ。

 証券会社が大手行を傘下に収めるのも日本で初めて。「小が大を呑む」買収によって、北尾氏は大手行・新生銀のオーナーの座を手に入れることができる。その野望に向かって突き進む。新生銀買収は、北尾氏の企業家人生のハイライトだ。戦略家である政商の北尾氏の才能が全面開花した。

新生銀行はあっさり白旗を上げたのか

 新生銀行は21年11月24日、SBIホールディングス(SBIHD)から受けている株式公開買い付け(TOB)に対抗するための買収防衛策を取り下げた。

 SBIが新たな役員候補として求めていた3人を受け入れた。新会長に五味廣文元金融庁長官、新社長に川島克哉SBIHD副社長COO、取締役に畑尾勝巳執行役員の3氏を選任するための臨時株主総会を22年2月8日に開き、工藤英之社長ら経営陣は退任した。

 新生銀はなぜ、白旗を上げたのか。報道各社は一斉に「決め手は国」と報じた。

 新生銀の実質的な筆頭株主は、預金保険機構(出資比率12.89%)と整理回収機構(同9.58%)を通じて22.47%を持つ国だ。株主総会で国が議決権を行使すれば、民間の金融機関の対立に国が裁定することになるため、議決権を行使しない可能性が高いとみられていた。

 国にとっては、新生銀が抱える約3,500億円の公的資金の回収が最終ゴールだ。新生銀は、経営破綻した日本長期信用銀行が前身で、1998年と2000年に公的資金の受けた約3,500億円が未納で完済のメドが立っていない。

 SBIHDのスキームは、報道によると、TOBと合わせて新生銀が自社株買いで一般株主の割合を低下させ、最終的にSBIHDと国の保有が計90%となったところで、一般株主から強制的に株式を買い取る「スクイーズアウト」を実施。そのうえで、国が保有する株式を買い戻して公的資金を返済することを提案したという。国=金融庁はSBIHDに軍配を上げた。

(つづく)

【森村和男】

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