九州屈指のサブコンに聞く、大型工事が増加する業界の現状(前)
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中村工業(株)
代表取締役社長 中村 隆元 氏地場トップクラスの専門工事・中村工業(株)は、今年4月に創業119周年を迎える。2024年は、東京の再開発が本格化するなど全国的にも大型工事が予定されており、技術者および技能者の育成が難しくなるという。業界環境の現状や職人不足への対応策などについて、中村隆元社長に話を聞いた。
PC工事が伸長
──2023年3月期の売上高は前期から大きく増加し、140億円を超えるなど業績好調ですが、その要因は何でしょうか。
中村 九州圏内の建築業界は、依然として活況が続いています。福岡市の天神ビッグバンや博多コネクティッドをはじめ、長崎県では(株)ジャパネットホールディングスの子会社・(株)リージョナルクリエーション長崎の長崎スタジアムシティプロジェクト、諫早ソニーN-TEC、佐賀県ではSUMCOなどの新築工事がありますが、なかでも熊本の半導体工場新設が、当社の売上高増に大きく寄与しました。
当社では、とび・土工工事、機械オペレーター、土木工事、リニューアル工事、PC工事の5部門がありますが、PC工事の割合が圧倒的に大きくなってきています。PC工事部門は06年に立ち上げて準備を進め、08年に採用を含めて本格稼働しました。PCはプレキャストコンクリートの略で、柱、梁、スラブ(床)といった建築部材を工場で製作し、現場で組み立てる工法です。工場で部材を製作することで、品質を一定に管理し、工期を短くすることができます。5年前から比べるとPC工事の事業規模は約2倍になっており、職人不足を補う意味でも、今後さらに需要が増えてくると思います。
──外部企業との協力体制の構築に、注力されていると聞いていますが、その理由についてお聞かせください。
中村 当社では「ゼネコンさんが何を必要とし、ゼネコンさんのために何ができるのか」を常に考えながら事業を展開しております。たとえばプレキャスト・コンクリート業界で最大手の(株)ピーエス三菱さんやオリエンタル白石(株)さんと協力体制を築いていますが、当社の強みである「施工計画」と「動員力」に、ピーエス三菱およびオリエンタル白石の「製作図」「施工図」の作図力と「製造力」を組み合わせることで、ゼネコンさんにとって非常に効率的なサービスを提供できるようになります。
ゼネコンさんは、単に安いだけでなく、安全で高品質、工期厳守のできる会社を選ぶようになっています。これまでの建設業界は価格競争が横行し、建設キャリアアップシステム(以下、CCUS)や社会保険を導入していない企業が低価格で受注する一方で、導入している企業が不利になるという状況がありました。しかし、国土交通省がCCUSで技能者の能力を可視化し、各社の有資格者数や社員数などをガラス張りにしたことなどから、業界も少しずつ変わってきました。こうした変化を追い風に、ゼネコンさんに有益なサービスを提供していくために、他の企業ともそれぞれの強みを生かした協力体制を築いていきたいと考えています。
物件大型化への懸念
──業界環境の現状や今後の見通しについて、お聞かせください。
中村 近年、大型工事は九州に集中していましたが、24年は九州だけでなく全国でも活発になっていきます。主なものは、九州では西日本シティ銀行本店本館建替えプロジェクト(福岡)の地下躯体工事が始まるほか、ソニーの半導体新工場(熊本)や東京エレクトロン九州の開発棟新築工事(熊本)が始まります。そして、東京では都内大型再開発事業がスタートしていく予定で、解体工事が終わり、建築工事が本格化していきます。また、防衛関連では馬毛島プロジェクトや各地防衛施設、佐賀空港新駐屯地など、大型工事も今後続いていきます。
ただし、1物件あたりの規模が大型になっていくことで、デメリットも生じてきます。たとえば10億円の工事が10物件ある場合と、100億円以上の物件が数件しかない場合を比べると、後者は1現場あたりの工期が長くなり、閑散期と繁忙期との差、つまり「波」が大きくなります。
当社では造成工事から杭打ち工事を行い、その後に躯体工事を行っていますが、仕上工事は別の企業が行います。これまでは工事物件ごとに着工時期を調整することで「波」を平準化できていましたが、数百億円規模の工事となると、忙しい時期が通常の3~4倍になり、その反動で暇な時期が必ず出てきます。この期間の対処が課題となるのです。
人材育成の問題もあります。現場での経験を通じて、ゼネコンさんは所長育成が、我々には職長育成が必要となりますが、小型・中型物件であれば所長はじめ所員の方々は縦割りではなく、複合的に責任者としての経験を積むことができていました。しかし、大型物件では所長、所員の方々は縦割りの業務分担となりがちで、安全や品質、調達などの分野ごとに責任者が置かれます。職長も同じです。そうすると、ある分野での責任者の経験はできますが、全体を把握する責任者の経験は積めなくなります。
一方で、工期が長くなることによるメリットもあります。ベテラン職人と若手職人からなる固定メンバーでチームを組むことで、じっくりと技術を伝承する環境ができるようになります。さらに、現場ごとの人員配置で頭を悩ませることも少なくなります。
しかし、所長や職長の育成はそれにも増して重要なことなので、全体としては、小型・中型物件の工事が多いほうが望ましいですね。(つづく)
【内山 義之】
<プロフィール>
中村 隆元
1975年1月生まれ、福岡県春日市出身。中村学園三陽高校、福岡建設専門学校卒。学生時代はラグビーに勤しむ。2015年に中村工業(株)の代表取締役に就任。趣味は水泳、マラソン、仲間との酒飲み。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:中村 隆元
所在地:福岡市中央区舞鶴3-2-6
設 立:1947年5月
資本金:6,000万円
URL:https://nakamura-k.com月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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