2024年11月26日( 火 )

カネの流れ可視化に失敗した平成の改革 今こそ令和の新たな政治改革を(後)

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東京工業大学大学院
准教授 西田 亮介 氏

 低支持率に喘いでいた岸田政権を政治資金パーティー収入不記載問題が直面した。自民党、とくに安倍派は危機的な状況にあるが、ここで思い起こされるのは、約30年前の政治改革においても、国民の政治不信を招いた「政治とカネ」の問題をより適切に規正する仕組みづくりが図られたことであり、現在の事態は政治がカネの流れの可視化に失敗したことを明らかにしている。とくに野党には、改めて政治改革案の提示が求められる。

コスパのよい政治資金パーティー(つづき)

政治資金パーティー イメージ    しかし、なぜ企業は、政治とカネに関して、一見、ムダなコストを引き受けるのだろうか。政府提出法案含めて与党による法案の事前審査を慣習とする日本の政治行政システムにおいて、規制やルールの動向に、政府/与党、すなわち自民党とその部会が大きな影響力をもっているからだ。最近は規制やルールがビジネスに大きな影響力を有するということに、ビジネス界でも関心が向けられるようになってきた。

 かつては陳情と呼ばれたものだが、最近ではロビイングなどと呼ばれている。民泊やライドシェアが日本において極めて限定的なのは既存の事業者団体のロビイングの成果の産物であり、電動キックボードの走行が認められたのもロビイングの賜物だと言われている。

 2000年代に息を吹き返した自民党の派閥の名門清和会だが、下野した時期を挟んだ12年12月の衆院選大勝を背景に、第2次安倍晋三政権が誕生し、安倍政権は第1次も含めて8年超という憲政史上最長の政権となった。それだけに総裁派閥であり、最大派閥となった安倍派に対して影響力をもちたいと業界団体や企業が考えたとしてもそれほどおかしくはない。

 そして自民党のなかでも、現在では群を抜く最大派閥となった安倍派に対して影響力を行使したいと考えたのではないか。政治への影響力で効くのは、票とカネ。票の動向を左右するほどの力はないので、もっぱら後者に関心が向くというわけだ。規制緩和もこうした状況を後押しする。規制改革特区などの仕組みを使えば、グレーゾーンの技術などをいち早く普及させ、利益につなげることも不可能ではない。

 細川護熙政権で首相秘書官を務めた成田憲彦は政治とカネに対して、規制強化と世論の目が厳しくなったからこそ派閥の裏金依存が強まったと分析する。成田によれば、派閥のボスの名前を出せば、知名度の低い議員でも資金集めが容易になり、キックバックによって個々の議員にとっては資金集めに精を出すインセンティブになったという見立てだ(朝日新聞デジタル版「なぜ裏金が必要なのか 政治とカネの歴史を知る元首相秘書官に聞いた」)。そうなるとキックバックと裏金それ自体も問題かもしれないが、それ以上に裏金化した資金で何をしていたのかが問われるだろう。

 非合法の相当額の政治資金をいったい何に使ったのだろうか。普通に考えると、まともなことに使うのであれば、不記載にする必要はない。政治資金収支報告書に記載して、堂々と使えばよく、政治資金規正法に引っかかることもなかったはずだからだ。今後の捜査で使途が明るみになるなら、いよいよ自民党は窮地に陥ることになるはずだ。

 業界団体や企業が政治に対して影響力をもちたいと考えるのはある程度は理解できることだが、しかし、それらは国民に対して現実的なかたちで開かれていなければならない。政治とカネがブラックボックス化され、政治と国民のあいだに大きな分断が横たわっているとすれば問題だ。

進まなかった政治改革

 前回の政治改革から30年が経ち、もっぱら政治とカネの問題は政治都合を優先するままに改善を怠っていなかったか。たとえばこの30年でデジタル化は大きく進み、インターネットも普及した。最近では各政党がDXを掲げるが、不思議なことに政治のDXは遅々として進まない。政治資金は与党にとっても野党にとっても触れたくない、触れられたくないテーマと化しているのではないか。DXや身を切る改革を主張するなら、様式の統一などを通して照合や分析のコストを下げ、社会の目が届きやすくするのが筋だ。虚偽記載は修正が容易で、政治家を立件するハードルも高い。

 他方で、遵法の現実的なインセンティブは乏しい。改善は必須だ。政府と自民党はこうした構造的な問題に手を付けられないなら、再び存在理由が厳しく問われるであろうし、緊張感が不足している。政治とカネという過去にも実績があるテーマなのだから、野党はやはり厳しく、政府・与党と対峙すべきだ。

 ポスト岸田政権をうかがおうという安倍派をはじめとする諸政治家たちは冷水を浴びて一回休みにならざるをえない。その意味では躓いた格好だ。今回の一連の出来事は現代の自民党政治の先行きに相当の影響を与えるはずだし、そうであるべきだ。

 年始から岸田政権の先行きは相当に厳しい。国葬儀の是非、旧統一協会問題や首相との会談写真、そして政治とカネの問題にしても、岸田政権からすれば安倍政権のとばっちりのように見えなくもない。しかしそれでもそれが政治のめぐり合わせというほかない。内閣と自民党の要職から安倍派を追放し、二階派などにも捜査の手がおよぶなか、事実上、人事の裁量も狭まっている。

 内閣支持率、自民党支持率低迷のもとでは総選挙も難しい。しかし今秋、自民党総裁選も控えている。この問題をどう解くのか。あるいは解けないのか。いずれにしても24年に日本政治はそれなりに激変期を迎えるはずだ。政治家本人が政治資金規正法で有罪となれば、公民権停止となり、政治生命に大きく影響する。文字通り、この世の春ならぬ安倍派の春からいきなり安倍派と自民党政治の冬の時代だ。

 この局面を打開できるとすれば、この30年前にそうだったように令和の新しい政治改革を打ち出すことかもしれない。だが当時あったような、非自民政権に対する期待感はまだそれほど日本国内では感じにくいのも本音である。自民党の非主流派や野党からも政治改革の提案が出てくるだろうか。それらの有無と在り方が来年とこれからの日本政治の在り方を規定するはずだ。

(了)


<プロフィール>
西田 亮介
(にしだ・りょうすけ)
東京工業大学大学院 准教授 西田亮介 氏1983年京都市生まれ。2006年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科博士課程単位取得退学。同助教、(独)中小機構リサーチャー、立命館大学特別招聘准教授などを経て2016年4月より東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。博士(政策・メディア)。専門は社会学。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『17歳からの民主主義とメディアの授業』など著書多数。その他、総務省有識者会議への参加やコメンテーターとしての活動などでメディアの実務にも広く携わる。

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