2024年12月25日( 水 )

日本の将来:「市民の覚醒の道」(後)

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東アジア共同体研究所 理事・所長
(元外務省国際情報局長)孫崎 享 氏

日本の経済政策、安全保障政策は米国の利益のため

 今日、日本の経済政策、安全保障政策は、軍産複合体、グローバル企業、金融資本の利益を追求する米国政府のために遂行されている。1993年ごろ、首相の下での貿易戦争に関する協議の際に、外務官僚が通産省の案に「そんなことをしても米国は喜ばない」と述べ、出席した通産官僚を驚かせたことがあったが、今や日本の全官僚は「米国が喜ぶか否か」が政策判断の軸となっている。

 深刻なのはマスコミである。これらが率先して、米国追従の報道を行い、日本国民の認識を歪め、政策を歪める力となっている。

 麻生太郎自民党副総裁は2023年4月19日、「反撃能力も、これまでも認めてくれという交渉を公明党としてきたが、うまくいかなかった。でもやっぱり今のウクライナの惨状を見て、きちんと公明党もこの話はのんで、昨年12月に反撃能力を認めるということになった」と述べた。

 ではウクライナ問題で日本の報道にどのような歪みがあったか。22年7月8日付英『エコノミスト』は安倍晋三元首相が「侵略前、彼らがウクライナを包囲していたとき、戦争を回避することは可能だったかもしれない。ゼレンスキーが、彼の国がNATOに加盟しないことを約束し、東部の2州に高度な自治権を与えることができた。しかしもちろんゼレンスキーは断った」と述べていたことを報道している。又安倍元首相は「プーチンの意図はNATOの拡大、それがウクライナに拡大するということは絶対に許さない、東部2州の論理でいえば、かつてボスニア・ヘルツェゴビナやコソボが分離・独立した際には西側が擁護したではないか、その西側の論理をプーチンが使おうとしているではないかと思う。プーチンとしては領土的野心ということではなくて、ロシアの防衛、安全の確保という観点から行動を起こしていることと思います」と22年2月27日のフジ「日曜報道 THE PRIME」で述べている。安倍元首相がこのような発言をしていたことについて、ほぼすべての日本人は知らない。これらが十分に報道されていれば、日本の対ウクライナ戦争観が変わっていたであろうし、そうすれば、「敵基地攻撃」の容認という日本の安全保障観も成立していなかっただろう。マスコミの罪は大きい。

 「米国が喜ぶか否か」の視点で重要政策が決定されているが、この構図は政界、官界に存在するだけでなく、大手マスコミも覆っている。

 米国大統領選挙に立候補しているロバート・ケネディはXに「社会が真実から離れれば離れるだけ、その社会は真実を述べる人を憎しむ」と発信した。日本は今完全にこの範疇に入っている。

3:日本をどう立て直すか

(1)国民は自民党を見はなし、立憲にも期待しない

 今、岸田内閣の支持率、自民党の支持率は09年の自民党下野前に酷似している。

 最近の日本の政治を的確に分析しているとみられるので、2月27日付日経新聞の『支持率「自民下野前」に迫る 党・内閣とも最低25%』を見てみたい。党と岸田文雄内閣の支持率は日本経済新聞社の2月世論調査で、政権発足後の最低を更新した。複数の指標が2009年衆院選で大敗して下野した麻生政権の末期に近づいた。野党の支持率がなお低迷している点は当時と異なり、「岸田おろし」が起きない一因となっている。

 自民党の政党支持率は25%で、1月から6ポイント落ちた。麻生政権で一番低かった29%を下回った。06年から第1次安倍晋三政権、福田康夫政権と1年ごとに首相が交代して自民党への不信が高まっていた時期よりも低い。

 自民党派閥による政治資金問題で有権者の批判が岸田内閣だけでなく自民党そのものに向かったことがわかる。

 上記記事の極めて重要なポイントは野党第一党の立憲民主党への支持の低さである。

 麻生政権が崩壊し政権交代が行われた際、民主党は40%の支持を得ており、国民は自民党を捨て民主党を選択した。

 今日、立憲民主党の外交・安全保障、経済の政策は自民党に類似している。立民には発信能力がない。Xのフォロアーで見ると河野太郎は260万7,000人である。一方立民の代表泉健太のフォロアーはどれだけであろうか。4万4,000人である。国民は立民の代表の発言に何の関心も寄せていない。こうした状況で国民が熱狂的に立憲民主を支持することはあり得ない。

(2)京都市長選挙と前橋市長選挙が1つのヒント

 2月4日京都市長選挙と前橋市長選挙の2つの選挙があった。

 京都市長選挙は自民、立民など4党が松井孝治氏を推薦し、共産が福山和人氏を応援。松井氏17万7,454票、福山氏16万1,203票で松井氏が当選した。

 前橋市長選挙を見てみよう。前橋は福田赳夫、福田康夫、中曽根康弘、小渕恵三を輩出している「自民党王国」である。立民、共産、国民民主、社民の支援を受けた小川晶氏が、自民党と公明党が推薦し4期目を目指した山本龍氏を破り、当選した。

 京都市長選挙では立憲民主は自民党候補に相乗りした。代表もこの候補を応援し、演説では裏金問題にほとんど言及しなかった。

 今、中央政界には与野党を含め、改革する力はない。

 前橋市長選挙の如く、地方ごとに野党が統一候補をつくっていく、それが日本改革の道だと思う。また、歪んだ大手メディアから離れ、真の事実を見極める覚醒の力が市民に求められる。

(了)


<プロフィール>
孫崎 享
(まごさき・うける)
1943年、満洲国生まれ。東京大学法学部中退、66年に外務省に入省。駐ウズベキスタン大使、国際情報局局長、駐イラン大使、防衛大学校教授などを歴任。現在、東アジア共同体研究所理事・所長。『小説 外務省―尖閣問題の正体』(現代書館)、『日本を疑うニュースの論点』(角川学芸出版)など著書多数。

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