連載中小説『落日』の「モデル」について
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連載を始めて20回になる小説『落日』について、諸方面から好評をいただいているが、同時にさまざまなお問い合わせもいただいている。
「この朱雀屋のモデルはどこなのか?」
「この朱雀屋に送り込まれた社長のモデルは誰か? そして送り込んだ銀行はどこなのか?」
「この小説は実話ではないのか?」おおよそ、このような内容である。これらの問い合わせに共通していることは、質問者は、問い合わせを受けている編集部よりも、ずっとこの小説の内容に思いつく節があり、小説のモデルについて頭のなかでおおよその見当をつけたうえで、問い合わせをしているらしいということだ。
だが、編集部としては、【連載予告】において、「この物語は完全なフィクションです。登場する人物、企業は架空のもので実在するものではありません」と断った通り、著者である谺丈二氏からは、「完全なフィクション」との説明しか受けていないので、それ以外にご回答はできない。その点は平にご容赦いただきたい。
しかし、多くのお問い合わせをいただくのも、むべなるかな。本編をお読みいただくと、地場小売業とメインバンクの関係、組織内の人間模様と業界の論理が実に緻密に描かれており、業界に知悉した人にしか書けない世界であることが分かる。また、そのような緻密な描写であれば、実在のモデルの存在を読む人に想像させるのも自然である。業界に詳しくない編集担当者も、「ひょっとするとモデルはあの銀行だろうか」などと、想像をたくましくさせられながら編集に従事した次第だ。
本編の詳細な描写は、九州の小売業界に詳しい人々を唸らせるほどに、リアルな内情を知らせる小説である。その点を読者諸氏に共有したいと思う。
著者は本作の執筆に10年の歳月をかけたと聞いている。力作に相応しい充実した内容であり、ぜひともご一読いただければ編集部としても、また当然著者の谺氏としても幸いである。
【寺村朋輝】
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