2024年12月22日( 日 )

現実味を帯びるトランプ再選 日本企業が想定しておくべきこと

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国際政治学者 和田 大樹

トランプタワーと星条旗 イメージ    米国では3月5日、大統領選の候補者指名争いで最大の山場となるスーパーチューズデーを迎えた。全米15州で一斉に予備選が行われ、これまで8連勝と圧倒的存在感を示してきたトランプ氏が14州で勝利し、選挙戦を繰り広げてきたヘイリー元国連大使が選挙戦からの撤退を表明した。これで共和党候補はトランプ氏が確実となったが、トランプVSバイデンの場合、支持率ではトランプ氏がバイデン大統領を若干リードしている。民事や刑事の裁判を抱えているものの、我々はトランプ再来による影響を考えておく必要があろう。では、トランプ再選というシナリオが現実になると仮定して、日本企業は現時点で何を想定しておくべきか。

 先に結論となるが、米中の間では再び貿易摩擦が激しくなるだろう。トランプ政権1期目の際、トランプ氏は対中貿易赤字に対して強い不満を抱き、中国からの輸入品に対して次々に追加関税を導入し、中国側はそれに対して米国製品に対する報復関税を行うなど、両国の間では貿易摩擦が拡大し、世界経済は大きく不安定化した。

 トランプ氏は米国第一主義、バイデン氏は国際協調と、両者の価値観や理念はまったく異なるが、唯一と言っていい共通点が対中強硬姿勢で、バイデン氏も中国・新疆ウイグル自治区における人権侵害、中国による先端半導体の軍事転用防止などを背景に中国に対する輸出入規制を強化し、トランプ政権下で発動した対中規制の多くを維持している。

 そのような中、トランプ氏は大統領に返り咲けば中国からの輸入品に対して一律60%の関税を課すとも言及しており、輸出入規制や関税引き上げなどを先制的に実行し、日本企業は再び米中貿易戦争に直面することになろう。

 そして、今回懸念されるのは、トランプ政権2期目では1期目以上に貿易摩擦が激しくなる可能性があることだ。トランプ氏だけに当てはまるものではないが、通常、米国の大統領は2期8年の政権運営を目指し、政権2期目では再選を考え、支持率に注意を払いながら慎重に政権運営を行っていくことになるが、再選をはたした2期目の後は終わりしかない。要は、2期目では公約に挙げていた政策を思う存分実行していく可能性があり、トランプ氏は与えられた4年間という期間で自分のやりたいことを1期目以上に大胆に実行し、米国第一主義にさらなるギアを掛けてくる可能性がある。日本企業のなかにも中国の工場で生産した品々を米国へ輸出する企業が少なくないと思われるが、そういった企業は第2次米中貿易戦争の蟻地獄にはまることは避けられない。

 また、米中貿易戦争ほど確率が高いわけではないが、第2次トランプ政権の対日姿勢が厳しくなることが気になる。トランプ政権1期目は、当時の安倍総理がトランプ氏と個人的に良好な関係を構築したことにより、日本はいわゆるトランプリスクを極力回避できた。しかし、2期目のトランプ政権と日本の首相が安倍総理のように良い関係をつくれるかは現時点では分からない。バイデン政権が先端半導体分野の対中輸出規制で日本に同調するよう求めてきたように、米中貿易戦争の最中、トランプ氏が日本側にほかの分野で同調圧力を仕掛けてくる可能性もあり、仮に日本側の対応にトランプ氏が不満を強めれば、日本に対する貿易圧力を強めてくる可能性も排除はできない。トランプ氏は日本製鉄のUSスチール買収計画で、絶対にそれを阻止すると言及しており、今後はトランプ氏の対日姿勢が気になるところだ。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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