課題となるイスラエル企業との関係
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国際政治学者 和田 大樹
昨年10月7日、パレスチナ・ガザ地区を実行支配するイスラム組織ハマスがイスラエル領内へ奇襲攻撃を仕掛けて以降、イスラエル軍との間で激しい戦闘が続いている。しかし、両者の軍事力の差は歴然としており、イスラエル軍はパレスチナ側へ自衛の範囲を逸脱した容赦のない攻撃を続け、女性や子どもなど罪のない市民が次々と命を奪われ、パレスチナ側の犠牲者数は3万人を超えている。当然のごとく、パレスチナと同じくイスラム教を国教とする国々を中心に諸外国からイスラエルへの批判の声が強まり、イスラエル支持に撤してきた米国のバイデン政権もネタニヤフ政権への不満を募らせている。最近、バイデン政権はイスラエルがガザ地区南部ラファへの地上侵攻に踏み切った場合、イスラエルへの支援を見直す方針も示している。
このように政治の世界ではイスラエルの孤立する姿が鮮明に見えるが、これは経済の世界にも影響をおよぼしている。とくに、中東や北アフリカなどイスラム教を国教とする国々ではイスラエルへの反発が強まり、ネット上ではイスラエル製品の購入や輸入を止めるよう呼び掛ける動きが広がり、各国にあるスーパーマーケットや商業施設では店頭からイスラエル製品が撤去されるなどしている。また、イスラエル支持に撤する米国への不満や怒りも拡大し、各国にあるマクドナルドやスターバックス、バーガーキングなどへの客足が減り、売上に悪影響が出ているという。これはインドネシアやマレーシアなど日本企業の進出も多い国でも発生している。
一方、伊藤忠商事の子会社である伊藤忠アビエーションが先月、イスラエルの軍事企業エルビット・システムズと結んでいる提携を2月末までに終了すると発表した。これについて、伊藤忠アビエーションは国際司法裁判所が1月にイスラエルに対してジェノサイドを防止するためあらゆる措置を取るよう命じたことを踏まえ決断したとし、エルビット・システムズとの提携は今回の紛争に一切関与するものではないと強調した。これまで伊藤忠アビエーションは防衛装備品の供給などを担ってきたのだが、防衛省からの依頼に基づき、自衛隊が使用する防衛装備品を輸入するためエルビット・システムズと協力関係の覚書を昨年3月に交わしたばかりだった。
これは筆者の憶測になるが、イスラエルに対する国際社会からの批判が絶えないなか、伊藤忠アビエーションとしてはイスラエルの、しかも軍事企業との関係を維持すれば、かつて自社のイメージや企業価値が大きく損なわれ、大きな経営課題になりかねないとの危機感があったと考えられる。
イスラエルは中東のシリコンバレーとも呼ばれ、テクノロジー分野では世界の先端を走り、近年は日本企業の間でもニーズが急速に高まり、日本企業とイスラエル企業の連携が強化されている。経済合理性の観点からは、イスラエル企業との関係強化は大きなメリットとなろう。しかし、経済合理性の領域に侵入するのが政治リスクであり、今回の紛争は日本企業に重い課題を突き付けている。
日本企業にとっては、紛争が終結し、イスラエルをめぐる国際的批判ができるだけ早期に収まることがベストだが、今回のイスラエルとガザをめぐる紛争は前代未聞の規模になっており、たとえイスラエルによる攻撃が停止されたとしても、イスラエルへの国際的批判はすぐには収まらないだろう。先端テクノロジーを有するイスラエル、国際的批判を抱えるイスラエル、この間で日本企業は難しい立場にある。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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