原子力ルネッサンス時代 その趨勢と日本の動向(前)
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エネルギーサイエンティスト
(元東工大)
澤田 哲生 氏アラブ首長国連邦のドバイで開催された第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28、2023年11~12月)において12月2日、日米英仏加など22カ国はネットゼロ(脱炭素)の目標達成のため50年までに原子力発電を今後3倍(22年比)という宣誓文書に調印した。COP28議長は同日、30年までに世界の自然エネルギーの発電設備容量を3倍に引き上げる目標に110カ国以上が合意したと発表した。資源小国の日本のエネルギー供給においては、“原子力も自然ネルギーも”可能な限り拡充を貫くべきだと私は考える。なにしろ、日本のエネルギー自給率はわずか11%しかないのである。
世界の趨勢
今や世界は原子力ルネッサンス時代に突入したといわれる。
その根幹には、原子力の安全が3・11以前より格段に向上したことがある。そして今、世界の多くの国々が安定したエネルギー供給源である原子力を拡大ないしは新規導入したいと考えている。また小型モジュール原子炉(SMR)など新奇なアイデアが、投資マインドを引き寄せていることも追い風になっている。COP28以前から欧州ではフランスや英国が原子力利用の拡張を華々しく宣言し、それに追随するEU諸国は10カ国を上回る。長らく原子力ゼロできたイタリアもSMRに注力し新規の原子力開発に向かっている。
原発導入時代の趨勢は【図1】に示される。
この分類図は2017年時点のものであり、先のイタリアの動向に加えて、韓国も現政権になって、原発の利用拡張に舵を切った。また、バングラデシュではすでにロシア製の原発の導入が決まっている。大型原発2基をロシアの国営会社ロスアトムが125億6,000万ドルのコストで、ガンジス川沿いの村ループールに建設中。財源の90%はロシアの融資で、28年での返済予定。なお、驚くべきことに返済は中国元で支払うことが合意されている。
アフリカの大国ガーナも原発の導入に意欲的である。慢性的な電力不足を補ううえで原発は大きな拠り所になる。ガーナは22年12月に事実上にディフォルトに陥ったとされているが、「一帯一路」の中国はガーナの資源などを狙って、原発供与を搦め手として利用してくる可能性があると私は見ている。
中国は、一帯一路の中華的経済圏拡大構想を量から質への転換を図ろうとしており、その一角を占めるエネルギー戦略では、原発輸出が大きな役割を担う。すでに自称国産原発である「華龍1号(型式名称)」2基をパキスタンに輸出している。
世界の原発輸出の7割は中露が占めており。今後両国ともその勢いを増していくことは疑いの余地がない。
一方、ドイツなど脱原発を目指している国々も少なくはないが、その前途は暗い。ドイツは見かけ上では脱原発を達成したかもしれないが、国内世論には低廉な電気の安定供給のためには原発回帰もやむを得ないという見方が根強くある。事実、23年4月のある世論調査によれば、脱原発は避けるべきという意見が約6割を占めた。ちなみに、ドイツの家庭用電気料金は、21年で42円/kWh、22年が53円/kWh、23年では67円/kWhとうなぎ登りだ。なお、日本の場合はそれぞれ28円/kWh、34円/kWh、35円/kWhとなっている。
EUは今後人類が歩むべき脱炭素やSDGsの世界を見込んで、「EUタクソノミー(分類)」と呼ばれるエネルギー源の色分けを、15年の歴史的なパリ協定(COP21)に基づいて行ってきた。そして、膨大な研究と議論を経て22年に原子力を「グリーン」と位置付けた。つまり、EU市民が好む善悪の二項分類からすれば、原子力は善であると認定されたのである。そのことは、ESG投資の観点からすれば、環境(E)、社会(S)、企業ガバナンス(G)の環境保全や社会の健全性、そして適切な企業ガバナンスという3要素が整えば、原子力への投資は“行って良し”とする社会正義の根本が確保されたのである。原子力は、投資の世界では久しくネガティブリストに分類されていたことからすると大きく様変わりしたのである。
つまりSDGsや脱炭素が今後人類文明が目指すべき“善”だとするならば、そのためには原子力技術を手放すことはできない。むしろ積極的に活用して行くほかないとEUは判断した。この認定は、EUに止まらず世界に波及していく。
(つづく)
<プロフィール>
澤田 哲生(さわだ・てつお)
1957年、兵庫県生まれ。エネルギーサイエンティスト。京都大学理学部物理学科卒業後、三菱総合研究所に入社。ドイツ・カールスルーエ原子力研究所客員研究員をへて、東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所助教(2022年3月まで)。専門は原子核工学。近著に『やってはいけない原発ゼロ』(エネルギーフォーラム)関連記事
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