原子力ルネッサンス時代 その趨勢と日本の動向(中)
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エネルギーサイエンティスト
(元東工大)
澤田 哲生 氏アラブ首長国連邦のドバイで開催された第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28、2023年11~12月)において12月2日、日米英仏加など22カ国はネットゼロ(脱炭素)の目標達成のため50年までに原子力発電を今後3倍(22年比)という宣誓文書に調印した。COP28議長は同日、30年までに世界の自然エネルギーの発電設備容量を3倍に引き上げる目標に110カ国以上が合意したと発表した。資源小国の日本のエネルギー供給においては、“原子力も自然ネルギーも”可能な限り拡充を貫くべきだと私は考える。なにしろ、日本のエネルギー自給率はわずか11%しかないのである。
日本の動向
──九州地域のいま22年5月にバイデン大統領が日本を訪れた際、日米首脳会議の成果文書において、「原子力の重要性及協力の拡大」が盛り込まれた。その後、次節で解説するようにGX会議で原発新設に向けて政府が舵を180度切った。
たしかに原子力は安全に対する不安が常につきまとうので、最善の方式とはいえないかもしれない。しかし、自然エネルギーの諸々のデメリットも考え合わせれば、両者を補完的に利用してベストなエネルギー供給の道を開いていくことが、日本の脱炭素にとって最も現実的であると考える。再稼働した原子力の安全は3・11以前よりも格段に安全性が向上している。それは自動車を例にとるなら、以前はヘッドレストしかついていなかったのが、エアバッグを運転席のみならずすべての席にフル装備しさらに誤発進防止システムを装備した状態にも対比できよう。これまでも、そしてこれからも原子炉は安全と安心を目指して改良を重ねていくのである。
さてここで、3・11後に最も早く原子力発電の再稼働にこぎつけた九州地域の現状を見てみよう。
九州電力は4基の原子力発電所が稼働なかで、電力需要全体の23%を原子力がまかなっている。一方、日本全体で見ると原子力の比率は7%程度である。太陽光にはあまり大きな差がない。原発電力が活況な九州電力の経済効果は、電気料金にてきめんに現れている。九州電力の家庭用電気料金は、18円~24円/kWh。一方、日本の家庭用電気料金の平均は34円/kWhである。原子力発電のコスト安が反映されている。
こうした傾向は、原発比率が20%の関西電力にも見られ、20円〜28円/kWhとなっている。工場など産業用の電気料金にも同様の傾向が見られる。そのため、電気料金の安さが産業を誘致する要因にもなっている。その結果、台湾の世界的に有名な半導体メーカーTSMCが熊本に工場進出するうえで大きな要因になった。
以上見てきたように、COP28での動きを待つまでもなく、脱炭素を目指す以上は原子力利用拡張の道は避けられず、その規模は、現在私たちがなんとなく想像している量をはるかに凌駕するものになる──そういう未来が見えてくる。
大型原子力発電所200基の新設
もう1年以上前になるが、原子力政策の大転換となる起点の出来事があった。
官邸主導の第2回GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議が22年8月24日に開催された。私は常々GXとDXは不可分の関係にあり、DXを支えるのは原子力しかないと主張してきた。DXとはBEV、IoT/IoSの普及からAI/Singularity、Society5.0に社会が変革していくことである。これらのテクノロジーが30年から50年めがけて飛躍的に伸長していく──そんな未来社会が目前に迫っている。
第2回GX会議では、西村康稔経産大臣兼GX実行推進担当大臣が、原子力政策の大転換を表明した。そのポイントは4つある。
- 再稼働への関係者の総力の結集
- 安全確保を大前提とした運転期間の延長など既設原発の最大限活用
- 新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設
- 再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化
「第6次エネルギー基本計画」(21年)に「可能な限り原発依存度を低減する」という下記の文言が滓のように残っている。「東京電力福島第一原子力発電所を経験した我が国としては、安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再生エネルギーの拡大を図るなかで、可能な限り原発依存度を低減する」。
この「可能な限り原発依存度低減する」が、「既存原発の最大限活用」と「次世代革新炉の開発・建設」という文言で上書きされ改訂されたかたちである。これは3・11以降、政治──政策──事業が原子力推進に三すくみ状態であった原子力政策の大転換を意味する。とりわけ、「新規の建設」が明示されたことの意義は大きい。
このように西村大臣の4つのポイントのなかでも、「新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建設」の文言が明示されたことは、安倍――菅政権時代に一貫して「可能な限り原発依存度を低減する」としてきたエネルギー政策の大転換を象徴する。
GXに向けてのマイルストーンの基軸はわかりやすいところでいえば、①普及が急がれるBEVへの電源供給、②製鉄業の脱炭素に向けた「原子力水素」の安定的かつ大量の供給である。これらだけでも、大雑把に見積もって、大型原子力発電所200基の新設が求められる、というのが私の見立てである。
西村大臣の表明を受けて、原子力関係者はいよいよ原子力の新設が動き始めると色めき立った。しかし現実はそう甘いものではない。いったい誰が新設に乗り出すことができるのか?
(つづく)
<プロフィール>
澤田 哲生(さわだ・てつお)
1957年、兵庫県生まれ。エネルギーサイエンティスト。京都大学理学部物理学科卒業後、三菱総合研究所に入社。ドイツ・カールスルーエ原子力研究所客員研究員をへて、東京工業大学ゼロカーボンエネルギー研究所助教(2022年3月まで)。専門は原子核工学。近著に『やってはいけない原発ゼロ』(エネルギーフォーラム)関連記事
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