2024年12月24日( 火 )

金正恩総書記の強硬姿勢の裏に隠された思惑と課題(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 今年は世界的な「選挙の年」です。60を超える国々で大統領選挙や議会選挙が予定されています。年初には台湾で総統選挙が実施され、頼清徳副総統が勝利し、蔡英文路線が継承されることが決まったところです。最も直近となる2月14日に行われたインドネシアの大統領選挙では、プラボウォ国防相がウィドド大統領の後継者として当選をはたしました。

 ブラボウォ氏は現在72歳ですが、3度目の挑戦で投票総数の6割近くを押さえる圧倒的な強みを発揮。スハルト独裁政権の軍幹部として活躍し、人権侵害の疑惑が付きまとっていましたが、選挙集会で愉快そうにダンスを披露すると思えば、可愛らしいイメージキャラクターを活用するなど、親しみやすさを演出した選挙戦が功を奏したようです。

 そして、11月にはアメリカの大統領選挙もあります。すでに「老老対決」と揶揄されるように、81歳のバイデン大統領と77歳のトランプ前大統領の一騎打ちかと、「アメリカの衰退」を象徴するかのような雲行きです。とはいえ、両陣営ともあの手この手で、有権者の関心と支持を得ようと必死の取り組みを見せています。

 日本では「政治とカネ」の問題で連日、国会での議論が繰り広げられてはいますが、「裏金づくり」という言葉が1人歩きをしているばかりで、派閥を政策集団と言い換えることで、責任逃れを図ろうとする意図が見え見えです。これでは、国民の求める「透明性」や「連座制」などは、望めそうにありません。結局、政治離れや政治家不信は深まる一方です。

北朝鮮 イメージ    何やらきな臭いにおいが漂っているのが、昨今の北朝鮮といえそうです。日本海や黄海に向けたミサイル発射を繰り返し、技術力の向上を印象付けようとしていますが、北朝鮮の国内情勢は厳しさを増すばかりで、脱北者の数も鰻登りとなっています。

 そういえば、金正恩総書記はこのところ韓国を「最大の敵国」と名指しし、「南北統一に向けての話し合い」を一方的に破棄。首都ピョンヤンに聳えていた「統一記念碑」も爆破する有り様です。これまで南北間の経済交流を担当してきた部門もすべてご破算にしてしまいました。

 実は、北朝鮮の憲法にはこれまで平和的な交渉を経て、南北の統一を実現する旨が明記されていました。しかし、金正恩氏の鶴の一声で、そうした融和的な政策は破棄されてしまったのです。一体全体、どうしたというのでしょうか?

 1月の最高人民会議での演説において、金正恩氏は「もし韓国が0.001mmでもわが方の領土、領空、領海に入った場合には、宣戦布告と見なす。核兵器の使用を含め、韓国をせん滅する」と宣言しました。これまでにない強硬な姿勢に韓国や日本はもちろん、世界が驚かされています。

 どうやら金正恩氏は日常生活が一向に改善しないため国民の間で金王朝への不満と不信が渦巻いていることへの危機感を強めているとしか思えません。ミサイル発射や人工衛星の打ち上げ実験には熱心ですが、食料、医薬品、電力の不足に加え、公務員の給料の遅配も深刻化し、脱北者や事故の件数も急増しています。

 これではかたちだけとはいえ選挙どころではなく、非常事態と称して国民の関心を外に向けるしかありません。幸い、日米韓の合同軍事演習も頻繁かつ大規模に行われており、金正恩体制とすれば「対韓強硬姿勢」を理由付けることもできるはず。「窮鼠猫を嚙む」ではありませんが、韓国への侵攻が懸念されるばかりです。

 ところで、2024年は新年早々、日本では能登半島大地震が発生し、甚大な被害が発生しました。地震大国と呼ばれる日本ですが、被害者への救援と早期の復興を願うばかりです。日本国内はもとより、世界各国からも義援金や援助物資が届けられています。

 実は、北朝鮮の金正恩総書記からも、早々にお見舞いの電報が岸田首相宛てに届きました。東日本大震災のときにもなかったことです。恐らく、支持率低迷の岸田首相が苦肉の策として、北朝鮮に乗り込み、日本人拉致問題の解決に向け、日朝首脳会談を模索していることを受け、北朝鮮なりの善意を示そうとしたのかも知れません。

 とはいえ、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」という姿勢を崩していません。2月15日の「拉致問題に拘らなければ、日本の首相の平壌訪問もあり得る」との金与正発言もなかなか意味深です。というのも、後に述べますが、北朝鮮からは日本人拉致問題に関してさまざまな提案があったのですが、日本政府は歯牙にもかけない対応をしてきたのでした。そうした経緯を踏まえれば、今年に入ってからの北朝鮮の硬軟取り混ぜた対日アプローチは慎重に検討する価値があると思われます。

 実は、このところ北朝鮮内でも前代未聞の事故や災害が頻発しているのです。厳重な情報統制が行われているため、そうしたニュースは外部にはほとんど伝わってきません。その代わり、ミサイル発射実験に成功したとか、韓国との統一は反故にし、核兵器を使ってでも併合する、といった強硬な発言のみが報道されています。

 しかし、脱北者支援団体等によれば、北朝鮮内では、食料や医療品の不足が深刻化し、国民の間での不満が鬱積している模様です。その上、昨年末にはピョンヤン発の列車が電力不足で急こう配を登り切れず、脱線し、数百人の乗客が命を失ったとのこと。

 1月16日に行われた金正恩氏の年頭演説でも、わざわざ「列車の安全運航に万全を期す必要がある」との言及がなされたほどです。もちろん、列車事故そのものを認めたわけではありませんが、国民の間にくすぶり続ける「民生軽視の軍事増強」への不信感を意識しての発言に違いありません。

 脱北者によれば、大洪水など自然災害の影響で、電力不足はいうにおよばず、食糧生産が滞り、栄養失調者や餓死者も急増している模様です。なかでも「電力の地域間格差」は深刻さを増しています。首都の平壌は恵まれていますが、それ以外の地方では電力供給は1日数時間といった具合です。

 元旦でさえ、電気が使えたのは6時間以下だったといいます。工場や病院をはじめ政府の主要機関には優先的に電力が供給されているため、一部の住民はワイロを払って、産業用の配線から個人宅への電気の横流しを受けている有り様です。とはいえ、北朝鮮の警察は取り締まりを強化し始め、ワイロを受け取った政府職員や支払った住民は強制収容所に送られることになるとのこと。寒さの厳しい冬場に電気がこなければ、体調を崩すケースも多いはずです。医薬品も食糧も思うように手に入らない現状に、多くの国民は生きる希望を失いつつあります。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(後)

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