2024年12月22日( 日 )

日本企業と中国をめぐる状況

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国際政治学者 和田 大樹

 ウクライナ侵攻から2年が過ぎ、5選をはたしたプーチン大統領はさらに15万人を動員する大統領令に署名し、今後ウクライナでの攻勢を強めていく。ロシアから撤退した日本企業がロシアへ戻るというシナリオは長期的にも到来しないような状況だ。中東情勢ではイスラエルによるガザ地区への攻撃が続き、今日、日本企業にとってはイスラエル企業とどう付き合って行くかが大きな課題となっている。

イメージ    そのような中、中国に進出する日本企業の最近の動向はどうなっているのだろうか。
 中国に進出する日本企業で構成される中国日本商会が今年1月に発表したアンケート調査の結果によると、2023年の対中投資について、「しない」が全体の23%、「前年より減らす」が25%と半分近くを占め、「同額」が38%、「増加」と「大幅に増加」が合わせて15%となり、成長率が鈍化する中国経済や当局による経済的威圧、改正反スパイ法など中国への懸念、慎重姿勢が見え隠れする数字となった。

 そして、この数字が示すように、日本企業の間では中国情勢について多くの不安の声が聞かれる。筆者周辺で最も多く聞かれるのが、今年秋の米大統領選でトランプ氏が勝利し、米中貿易戦争が再び激化することへの不安だ。これに対する策を講じ始めている企業は筆者周辺ではまだ見られないが、トランプ氏はホワイトハウスに戻れば中国製品に一律60%の関税を課すとも言及しており、再選を考えなくていい2期目では自分のやりたいことを1期目以上に大胆に行う可能性もあり、中国で製品をつくって米国に輸出しているような企業にとってはとくに大きな懸念事項だろう。

 また、中国からの経済的威圧を懸念する声も根強い。22年10月、バイデン政権が先端半導体の軍事転用を防止するため、中国に対する先端半導体分野の輸出規制を強化し、日本も昨年7月にバイデン政権からの要請に答えるかたちで先端半導体の製造装置など23品目で対中輸出規制を始めたが、その後中国は希少金属のガリウムとゲルマニウム関連で輸出規制を強化し、日本産水産物の輸入を全面的に停止した。米国は今後も半導体の輸出規制では躊躇しない姿勢で、日本企業の間では米中半導体覇権競争に日本がさらに当事者となり、中国による日本への経済的威圧の頻度が増えるのではとの声が聞かれる。

 このような懸念や不安の声が聞かれるなかで、最終段階の中国からの撤退を目指すべく積極的に動き出している企業は筆者周辺では見られないが、改正反スパイ法に対処するための一環として、現地駐在員の数を減らしたり、駐在ではなく一定期間の出張に変更したりする動きが少なからず見られる。また、将来的な日中貿易摩擦に対処するためか、原材料の調達先を中国から第3国に切り替え、工場や事務所を中国からインドやASEANなど第3国に移転するなど中国事業のスマート化を検討する企業は増えているように感じられる。無論、インドやASEANなどグローバルサウスを代替先として考えても、テロや暴動など中国にはない各国特有のリスクがある。それはそれで企業にとっては大きな課題となるが、中国はもう世界の工場とは呼べないという認識は広がっている。

 いずれにせよ、日本企業に今日強く求められるのは、「政治は政治、経済は経済」という古い固定観念から脱却し、政治目的のために経済や貿易がその手段として利用される世界だということを強く認識することだ。中国が米国主導の市場経済の恩恵を受けるかたちで成長してきたことは間違いないが、同国が権威主義国家であることを忘れてはならない。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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