【クローズアップ】箱崎キャンパス跡地再開発から考える福岡東部エリア・まちづくりへの提言
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約50haもの広大な土地における再開発の行方が、長らく注目されている九州大学・箱崎キャンパス跡地。まちづくりに係る土地利用事業者の公募では3グループが応募したとされ、どこが優先交渉権者に決定するかによって、箱崎キャンパス跡地の未来図だけでなく、福岡東部エリアのまちづくりの方向性も大きく左右していくだろう。
優先交渉権者が4月18日に決定
福岡市内においては現在、都心部で天神ビッグバンや博多コネクティッドなどの大規模再開発プロジェクトが順次進行しているが、最も動向が注目されている再開発プロジェクトといえば、九州大学・箱崎キャンパス跡地だろう。その箱崎キャンパス跡地のまちづくりに係る土地利用事業者の公募が、1月29日・30日の2日間で締め切られた。
同公募には、九州電力(株)や(株)九電工、東京建物(株)などが参加するグループや、九州旅客鉄道(株)(JR九州)や西日本鉄道(株)、西部ガスホールディングス(株)などが参加するグループのほか、(株)トライアルホールディングス(HD)などが参加するグループの、少なくとも計3グループが応募したとされている。九電らのグループは2万人規模のアリーナを核とする案を、JR九州らのグループは先進的なIT活用のオフィスなどの案を、トライアルグループではリテールDXを中心としたまちづくりの案を出したとされているが、今後の審査などを経て、4月18日に優先交渉権者が選定される予定だ。
そもそも同公募は、2018年9月末の伊都キャンパスへの統合移転完了をもって、大学キャンパスとしての役割を終えて閉校となった箱崎キャンパス跡地において、その後の再開発を行う土地利用事業者を決め
るためのもの。周辺エリアも含めて約50haもの広大な箱崎キャンパス跡地の再開発に向けては、閉校前からさまざまな協議が重ねられ、「跡地利用将来ビジョン」(13年2月)や「跡地利用計画」(15年3月)、「九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン」(18年7月)などが順次策定。これらを踏まえたうえで、20年6月には福岡市が都市計画の決定・変更手続きを実施し、用途地域の変更や、市施行の土地区画整理事業の事業実施に向けての区域決定などを行い、その後に事業者公募に向けた条件整理などが実施された。公募で提案を求める範囲は、箱崎キャンパス跡地などのまちづくりエリアのうち、UR都市機構が開発行為を行う南エリアの大部分と、福岡市が土地区画整理事業を行う北エリアの南側部分。当初は公募を20年度中に開始する予定だったが、新型コロナの感染拡大で企業の経済活動が停滞していることなどを理由に2度にわたって延期され、23年4月から事業者公募が開始されていた。
募集概要では、箱崎6丁目の約28.5ha(一般定期借地を含む)において、九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザインの実現を目指して、(1)まちづくりのコンセプト、(2)スマートサービス(スマートサービスコンセプトや先進的な取り組みなど)、(3)都市空間(広場・動線計画や街並み景観・歴史の継承など)、(4)都市機能(都市機能の配置計画や新たな来街者を呼び込む交流・にぎわい機能など)、(5)まちづくりマネジメント(エリアマネジメント組織の取り組みなど)の5項目の提案を求めている。
対象地(【図】参照)はA街区約20.1ha(A-1:約6.2ha、A-2:約2.4ha、A-3:約11.5ha[うち3.5haは定期借地用地])、B街区約0.9ha(B-1:約0.4ha、B-2:約0.5ha)、C街区約7.5ha(C-1:約1.4ha、C-2:約3.2ha、C-3:約2.9ha)の計約28.5ha。各街区の最低譲渡価格はA街区(定期借地部分を除く)が245億200万円、B街区およびC街区が126億7,600万円で、A街区の定期借地部分の最低土地賃貸料(月額、公租公課相当額を含む)は1,260万円となっている。
今後のスケジュールについては、4月18日に優先交渉権者が選定された後、その後の土地の引渡しに係る協定とまちづくりに係る協定などは25年度に締結される予定で、25年度以降に土地の引き渡しが行われる予定となっている。
合同庁舎移転で筑紫口の再開発も
今回の優先交渉権者の選定結果により、箱崎キャンパス跡地における今後のまちづくりの方向性が決定づけられるといっていいだろう。だが、前出の3グループの案のいずれが採用されるとしても、それが「九大跡地の再開発にふさわしいか」と問われると、贅沢だとは思うがやや物足りなさを覚えてしまう。
たとえば、箱崎キャンパスより先行して09年10月に移転が完了した六本松キャンパス跡地では、福岡市科学館や蔦屋書店が入居する複合施設「六本松421」や分譲マンション「MJR六本松」などもあるが、高等裁判所と地方裁判所、簡易裁判所、家庭裁判所の4つの裁判所が集約された「福岡高地家簡裁合同庁舎」があるほか、福岡県弁護士会館なども立地している。かつて九州一の最高学府があった場所が、今では福岡における“司法の拠点”のような場所へと変貌を遂げているのは、知の連続性を彷彿とさせるようなストーリー性が感じられようというものだ。そのため、箱崎キャンパス跡地の再開発においても同じように、何かしら“核”となり得る公共施設なり国の機関なりがほしいと願ってしまうのだ。この場所に“箔をつける”と言いかえてもいい。
ここで思い出すのが、福岡市東区選出で市議を7期務め、これまで福岡の都市づくりを牽引してきた藤本顕憲(あきのり)前市議がかねてから提唱していた、「博多駅筑紫口の福岡合同庁舎を移転させる」という案だ。
筑紫口の福岡合同庁舎には現在、九州地方整備局や九州経済産業局などの国の出先機関が集積しているが、07年3月に竣工した新館を除けば、福岡合同庁舎(1968年11月竣工)、福岡第2合同庁舎(74年12月竣工)など、すでに竣工から約50年が経過して老朽化が進行。そう遠くない時期に、建替えなりの施設整備が必要になることは避けられない。そこで、現地建替えではなく箱崎キャンパス跡地に合同庁舎を新設・移転させることで、箱崎キャンパス跡地では“核”となり得る施設を得られる一方、博多駅筑紫口の合同庁舎跡地では博多コネクティッドを活用した再開発で、土地のさらなる高度利用を進めていけるという寸法だ。
箱崎キャンパス跡地の新合同庁舎には、市内外に立地したほかの国の出先機関についても移転・集積を行うことでさまざまな効率化が図れるうえ、福岡県庁とも直線道路で結ばれることで、国・地方自治体の連携が円滑に進む効果も見込める。政府が策定した「政府業務継続計画(首都直下地震対策)」では、首相官邸などの行政中枢機能が使用できなくなった場合に備えた代替拠点の検討候補地の1つとして福岡市が挙げられており、南海トラフ地震などの発生が懸念されているなかで、太平洋沿岸ではない福岡市にバックアップ機能を整備・集積しておくことは、リダンダンシーの観点からも有効だといえよう。
そして私見を述べると、こうした箱崎キャンパス跡地への国の機関の移転・集積は、TSMC進出を契機として飛ぶ鳥を落とす勢いの熊本都市圏に対する牽制の1つになるのではないだろうか。かつての熊本は、戦前には「九州一の大都会」と称され、九州における国の重要機関の多くは熊本に集積していた。「九州一の大都会」の座が福岡に移った現在も、財務省・九州財務局や総務省・九州総合通信局、農林水産省・九州農政局、環境省・九州地方環境事務所などは、福岡ではなく熊本に置かれている。そうした状況下で現在、熊本はTSMC進出という強力な追い風を受けて、「九州一の大都会」の座を奪還せんばかりに、福岡を猛追してきているといってもいいだろう。九州における福岡の地位を確固たるものとして都市間競争に打ち勝つためにも、箱崎キャンパス跡地に国の機関を移転・集積させる案には、一考の余地があるだろう。
貨物駅の上部活用や流通センター再開発も
箱崎キャンパス跡地の周辺に目を向けてみると、国道3号を挟んで西側にわずか250mの距離に、日本貨物鉄道(株)(JR貨物)の「福岡貨物ターミナル駅」がある。同駅は鹿児島本線貨物支線(博多臨港線)の終着駅であり、県内における鉄道貨物輸送の拠点駅の1つであるが、特筆すべきはその広さで、なんと約25haもある。都市高・福岡高速1号香椎線を走行中に、見下ろすかたちでその広さを認識している方も多くいるだろう。この広大な福岡貨物ターミナル駅の上空部分を立体的に活用しながら、箱崎キャンパス跡地の再開発とも連携させることができないだろうか。
たとえば米・ニューヨークのマンハッタンでは、現役の鉄道車両基地の上部を利用するかたちの複合開発「ハドソン・ヤード再開発プロジェクト」が進んでいる。合計約11haの敷地で進められている同プロジェクトは、オフィスビルや商業施設、高層分譲および賃貸住宅、高級ホテル、文化施設、学校などによるミクストユース型の開発となっており、日本からは三井不動産(株)が米国子会社を通じて開発に参加している。日本でも横浜市交通局地下鉄・新羽車両基地の上部がスポーツ施設として活用されているような事例があるほか、ここ福岡でも現在、博多駅の線路上空を立体的に活用する「博多駅空中都市プロジェクト」が進んでいることから、鉄道施設の上部を活用するという開発は、あながち無茶な方策でもなさそうだ。
もちろん福岡貨物ターミナル駅は現役の貨物駅であるため、上部活用に際しては通常の開発行為と比べて進めていく際にクリアしなければならない課題は多いだろうし、開発の幅にも制限はかかるだろう。それでも、この広大な空間を何とか活用できるのならば、近接する箱崎キャンパス跡地を拡張する感覚で、一体的な開発が行えそうではある。
加えて、距離的にはさらに離れてしまうが、箱崎キャンパス跡地から東に約1.5km離れた多の津にある「福岡流通センター」(流通業務団地)の再開発を進めて連携させていくという案も考えられる。1972年2月に造成事業が完了した福岡流通センターは、運輸施設約9haや倉庫施設約12ha、卸売施設約12haなどで構成され、計約54haという広大な敷地を有している。すでに完成から半世紀以上が経過し、立地している建物の老朽化なども進行しているが、流市法(流通業務市街地の整備に関する法律)による規制がかかっているため、これまで大々的な再開発は行われてこなかった。このエリアにかかっている流市法の緩和・撤廃、もしくは特区制度の活用などが必要となるが、用地を高度利用化することで現在の機能を集約・維持したうえで部分的にでも再開発も進めることで、箱崎キャンパス跡地の再開発と併せて、福岡市の東部エリアにおける活性化への寄与を期待できる。
東区ではほかに、先行して大規模再開発が進んでいる香椎・千早エリアや、箱崎キャンパス跡地と同様に「FUKUOKA Smart EAST」の舞台となっているアイランドシティもあり、各地の開発の進行如何によって、福岡市全体の発展を牽引していける可能性を秘めたエリアとなっている。● ● ●
そもそも箱崎という地は、筥崎宮の門前町として千年以上の歴史を重ねてきた場所であり、九州大学がこの地で開校して以降は、九大の門前町としても百年以上の歴史を重ねてきた場所でもある。東区役所や東警察署、粕屋総合庁舎、県立図書館などの公的機関・施設を擁するなど、東区内でもとくに重要な場所として位置づけられているほか、博多三大祭りの1つとされる「放生会」をはじめとした神事・祭事も多く、古くからの町人文化が今なお脈々と受け継がれている場所だ。福岡における数少ない有形無形の町人文化の集積地といっていいだろう。そのため、再開発にあたって求められるのは、ただ単に目新しい提案ではなく、古くからの歴史を未来につないでいけるような、地元住民の想いに寄り添い、地域に慮った提案だといえよう。ただ、これまでの跡地再開発をめぐっての過程においては、あまり地域住民への説明や合意形成などが十分に行われていないとも聞き、地域への視点がやや欠けているのではないかと懸念してしまう。
いよいよ4月18日には箱崎キャンパス跡地再開発における優先交渉権者が選定されるが、この箱崎の地の歴史と伝統を後世につないでいくのは、ここで再開発を進めていく企業の責務であるといっても過言ではない。そのため、これまでこの地で育まれてきた九大としての“レガシー”を健全に発展させていけるような提案が選ばれることを望みたいし、この箱崎キャンパス跡地再開発のスタートを契機として、市東部エリアの活性化がさらに進んでいくことを期待したい。
【坂田 憲治】
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