2024年12月22日( 日 )

日本の少子化問題に関する随想(後)

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元国連日本政府代表部大使
元国連事務次長
赤坂 清隆 氏

 NetIB-NEWSでも「BIS論壇」を掲載している日本ビジネスインテリジェンス協会(中川十郎理事長)より、元国連日本政府代表部大使や元国連事務次長を歴任した赤坂清隆氏による少子化問題に関する論考を共有していただいたので掲載する。

 また、前回の「話のタネ」で、日本人の既婚者のセックスレス傾向もお伝えしました。2014年1月14日付のニッポンドットコムの記事、「既婚者の68.2%がセックスレス傾向――全国4,000人調査:それでも夫婦仲は悪くない?」です。システム開発のレゾンデートルが、全国の20~50代の既婚者4,000人を対象に行った調査では、下図の通り、「セックスレス」と「ややセックスレス」を合わせると、なんと68.2%がパートナーとセックスレス傾向にあるということが判明したとのことです。女性は30代で68%、男性も30代で71%がセックスレスの状態にあるとのことです。フランス人が聞いたらびっくり仰天、目を白黒させることでしょう。

 また、興味深いと思われるのが、2022年11月14日付の東洋経済オンラインの「日本人男子の精子──量も質もよくない衝撃事実」という、辻村晃順天堂大教授による記事です。世界的に精子の数はひと昔前よりも半減しているが、日本男子の場合さらに少なくなっていると指摘しています。日本人男性の精子の数は、フィンランド男性の精子数の3分の2しかなく、働きすぎ、睡眠不足、ストレスなどのほか、ダイオキシンなどの環境ホルモンの影響も考えられる原因かもしれないとのことです。

 環境ホルモンが男性の精子の数を減らすというのは、1997年の地球温暖化防止に関する京都会議の翌年、急にメディアの注目を浴びた環境ホルモン問題で大きく取り上げられました。覚えておられるでしょうか?ごみの焼却などから発生するダイオキシンは猛毒だというので、2000年にダイオキシン類対策特別措置法が施行され、当時日本中の小中学校にあったごみ焼却炉は姿を消しました。あの、ダイオキシンのことです。当時すでに、ある日本の有名私立大の学生さんの精子の数が随分と減っているというニュースが人々を驚かせておりました。

 日本人の若者の精子に危機が迫っており、受精して妊娠を成功させる力(精子力)が衰えているという驚きのニュースは、その後2018年7月28日のNHKスペシャル「ニッポン〝精子力”クライシス」でも取り上げられました。その前年に発表された調査結果などでは、欧米人の精子の数が過去40年で半減している一方、日本人の精子の数は欧州4カ国と比較して最低レベルであったと報じました。数の問題だけでなく、「動きが悪く、卵子までたどり着けない」「DNAが傷ついており、自然妊娠しにくい」などと指摘されるケースも多いと報じられました。私はその番組を見て、背筋が寒くなったのをよく覚えております。

 だんだんと話が、尾籠(びろう)とは申しませんが、かなりセンシティブな領域に入ってきたようです。皆さんに不快な思いをしていただかないように、私の少子化原因の追及はここらへんで終わらせていただきます。日本の少子化の要因については、まだまだたくさんの事由が挙げられています。仕事場の雇用、労働環境や政府の政策上の問題をあげる向きも多いですね。児童手当、給付金、子育て支援、保育園の不整備、育児休暇、教育費、夫の家事能力、非正規社員の待遇、婚外子を取り巻く環境など、たくさんの課題があると思われます。政府の「異次元の少子化対策」にも期待したいですね。

 私など、この少子化問題というのは、子どもがもっと生まれるような環境をつくればすむ単純な問題と考えたいところなのですが、やはり、さまざまな要因が絡みあい、問題が重層化している「複合危機」のような気がします。一筋縄ではゆかない、シルバーブレット(解決の決め手)のない、複雑でややこしい問題のような気がしてきました。それだから、日本だけでなく、他の国もみな苦労をし続けているのでしょう。桜が咲く春の週末ですのに、頭の痛い「話のタネ」で恐縮でした。

(了)

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