住商・JR九州・西鉄・西部ガスらのグループが優先交渉権者に~九大箱崎キャンパス跡地再開発
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九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業者募集の開札が18日に行われ、優先交渉権者として、住友商事(株)(東京都千代田区)を代表とし、九州旅客鉄道(株)(JR九州)や西日本鉄道(株)、西部ガス(株)らで構成される企業グループが選定された。同グループにはほかに、清水建設(株)、大和ハウス工業(株)、東急不動産(株)、(株)西日本新聞社が参加している。
同グループの提案では、まちづくりのコンセプトを「HAKOZAKI Green Innovation Campus」とし、箱崎キャンパス跡地および九州大学の歴史を継承したうえで、高質でみどり豊かなまちづくりを進めて新たな価値を提案し、新産業を創造・発信していくとともに、環境先進都市として世界を牽引する、未来のまちづくりを実現するとしている。
具体的には、特徴的な「イノベーションコア」を中心に、ゾーン特性に応じた交流・発信・実証を促すスマートステージの整備や、「箱崎創造の森」と題した緑空間の確保を進めていくほか、グローバル創業都市福岡の新しいイノベーション拠点を確立していくとしている。また、「箱崎版地域包括ケアシステム」を構築した医療・福祉機能や、九州大学100年のレガシーを継承した教育機能、多様な人たちが安心して暮らし、交流やコミュニティが生まれる多種多様な居住機能なども整備していく方針。
譲渡価格は371億7,800万円で、定期借地用地3.5haの土地賃貸料は月額1,260万円で、借地期間は60年となっている。
なお、今回の公募ではほかに、九州電力(株)や(株)九電工、東京建物(株)らで構成されるグループと、トライアルグループの計3グループが応募していた。
同公募は、2018年9月末の伊都キャンパスへの統合移転完了をもって、大学キャンパスとしての役割を終えて閉校となった箱崎キャンパス跡地において、その後の再開発を行う土地利用事業者を決めるためのもの。
募集概要では、箱崎6丁目の約28.5ha(一般定期借地を含む)において、九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザインの実現を目指して、(1)まちづくりのコンセプト、(2)スマートサービス(スマートサービスコンセプトや先進的な取り組みなど)、(3)都市空間(広場・動線計画や街並み景観・歴史の継承など)、(4)都市機能(都市機能の配置計画や新たな来街者を呼び込む交流・にぎわい機能など)、(5)まちづくりマネジメント(エリアマネジメント組織の取り組みなど)の5項目の提案を求めていた。
対象地(【図】参照)はA街区約20.1ha(A-1:約6.2ha、A-2:約2.4ha、A-3:約11.5ha[うち3.5haは定期借地用地])、B街区約0.9ha(B-1:約0.4ha、B-2:約0.5ha)、C街区約7.5ha(C-1:約1.4ha、C-2:約3.2ha、C-3:約2.9ha)の計約28.5ha。各街区の最低譲渡価格はA街区(定期借地部分を除く)が245億200万円、B街区およびC街区が126億7,600万円で、A街区の定期借地部分の最低土地賃貸料(月額、公租公課相当額を含む)は1,260万円となっている。
今後、土地の引渡しに係る協定とまちづくりに係る協定などは25年度に締結される予定で、25年度以降に土地の引き渡しが行われる予定となっている。
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伊都キャンパスへの統合移転完了をもって、大学キャンパスとしての役割を終えた箱崎キャンパスは、1911年1月の大学創立からキャンパス閉校までの107年の間に、約16万7,000人の学生(学部・修士・博士の学位取得者)を輩出するとともに、社会の発展に貢献するさまざまな研究成果を生み出してきた。
その歴史を継承する意味も込めて、九州大学箱崎サテライト(旧箱崎キャンパス)に残る一部の建物は近代建築物群として保存・活用される予定で、「旧九州帝国大学工学部本館」「旧九州帝国大学本部事務室棟」「旧九州帝国大学本部建築課棟」「旧九州帝国大学門衛所」の4棟が23年2月に国の登録有形文化財(建造物)に登録されたほか、今年3月には「旧九州帝国大学正門及び塀」が登録内定されたことで、箱崎サテライトに残存するすべての建造物が国の登録有形文化財となる。
周辺エリアも含めて約50haもの広大な箱崎キャンパス跡地の再開発に向けては、閉校前からさまざまな協議が重ねられてきた。これまでに15回におよぶ跡地利用協議会(13年7月~20年10月)が開催されてきたほか、「跡地利用将来ビジョン」(13年2月)や「跡地利用計画」(15年3月)、「九州大学箱崎キャンパス跡地グランドデザイン」(18年7月)などを順次策定・公表。グランドデザインでは「まちづくりの基本的な考え方」として、「イノベーションを生み出す新たな拠点の創出」と「高質で快適なライフスタイルや都市空間づくり」の2つを設定。まちづくりの方向性として、平面・立体・複合的につながる多様な都市機能の誘導を図るほか、“ここ箱崎だからこそできるまちづくり”に向けてのまち全体の一体感を創出する空間整備や環境と共生した持続可能なまちの形成、良好なコミュニティを形成するマネジメントの仕組みづくり──などが示された。
これらを踏まえたうえで、20年6月には福岡市が都市計画の決定・変更手続きを実施。これは、新たな拠点創出に向けて、地域拠点にふさわしい機能の導入を図るとともに、土地利用転換に向けた都市基盤を整えるためのもの。用途地域の変更や、市施行の土地区画整理事業の事業実施に向けての区域決定などが行われた。
その後、事業者公募に向けた条件整理などが実施された。公募で提案を求める範囲は、箱崎キャンパス跡地などのまちづくりエリアのうち、UR都市機構が開発行為を行う南エリアの大部分と、福岡市が土地区画整理事業を行う北エリアの南側部分。事業者公募は当初、20年度中にも開始される予定だったが、新型コロナの感染拡大で企業の経済活動が停滞していることなどを理由に2度にわたって延期され、23年4月から事業者公募が開始されていた。
そして、公募は今年1月29日・30日の2日間で締め切られ、その後の審査が進められていたかたちだ。
今回、住商・JR九州・西鉄・西部ガスらのグループが優先交渉権者に決定したことにより、いよいよ箱崎キャンパス跡地の“本体”の新たなまちづくりが始まることになるが、並行して周辺での基盤整備も進んでいる。
たとえば箱崎キャンパス跡地のすぐ近くの鹿児島本線の千早~箱崎駅間においては、今後の再開発を見込んでJRの新駅も設置される。新駅は西鉄貝塚線および福岡市地下鉄の貝塚駅の東側付近で、既存のJR箱崎駅から約1.7㎞、JR千早駅からは約2.3㎞の距離となる場所で、現在はJR線路の踏切があるところに、踏切を廃止するかたちで設置を行う予定。新駅の東西を歩行者などが行き来できるよう、市が自由通路を整備する方針で、事業費は概算で約13億円を見込んでおり、うち半額をJR九州が、残りを九大とURとが負担する。新駅の開業時期については、当初25年を目標としていたが、27年目標へと延期された。
また、貝塚駅(福岡市地下鉄/西鉄)および新設予定のJR新駅の駅前広場や、エリア内の道路・公園・緑地などの再配置に関する「貝塚駅周辺土地区画整理事業」も進行。同区画整理事業では、貝塚駅の西側に設けられた駅前広場から国道3号に向けて幅員14mの新たな区画道路を整備し、その道路によって既存の貝塚公園を南北に分割するほか、貝塚駅とJR新駅との間を広場等でつなぐことで、交通結節機能の強化が図られている。事業施行期間は、事業計画の決定を公告した21年3月29日から、29年3月末(清算期間を除く)までを予定している。
福岡市においては16年秋に、世界経済フォーラムの「トップ10の都市革新」などの事例を参考に、アジアのリーダー都市を体現する新たなまちづくりのチャレンジとなる市のプロジェクト「FUKUOKA Smart EAST」が発表された。これは、広大な敷地で新たなまちづくりを行うことができる強みを活かし、「跡地利用将来ビジョン」や「跡地利用計画」を踏まえながら、モビリティやセキュリティ、エネルギーといった最先端の技術革新による、快適で質の高いライフスタイルと都市空間の創出に向けて取り組むもの。これは、箱崎キャンパス跡地だけでなく、アイランドシティも含めたエリアでのプロジェクトとされているが、すでに開発が進んでいるアイランドシティとは違い、これから大規模な開発が進んでいく箱崎キャンパス跡地がはたす役割は大きいとみられる。
九大・箱崎キャンパス跡地の再開発は、さまざまな大規模再開発が進む福岡市内においても群を抜いて広大な規模の再開発プロジェクトであり、これからの福岡市の都市開発において、ケタ違いのインパクトをもたらすことは間違いない。
これから箱崎キャンパス跡地では、住商・JR九州・西鉄・西部ガスらのグループの提案による新たなまちづくりが進んでいくことになるが、これを契機として都市・福岡の勢いがさらに増していくことを期待したい。
【坂田 憲治】
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