2024年12月24日( 火 )

日米比3カ国首脳会議の舞台裏(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

「忖度演説」に終始した岸田演説

 注視すべきは、こうした分野では米国は中国との連携にも関心を寄せているということです。というのは、同じ頃、中国を訪問していたイエレン財務長官が「中国とアメリカで世界を二分すれば良い」との大胆な提案を繰り広げていました。その意味からすると、日本はあくまで「捨て駒」としか見なされてはいないのです。

 バイデン大統領は岸田首相や「ボンボン」の愛称で知られるフィリピンのマルコス・ジュニア大統領をワシントンに招き、中国包囲網の形成に力を注ぐ姿勢を見せてはいました。とはいえ、アメリカの本音はあくまで自国の産業最優先であり、中国の脅威をことさら煽ることでアメリカ製の武器を日本やフィリピンに大量に売りつけることにあることは疑いの余地がありません。

フィリピン イメージ    日本では関心を呼びませんでしたが、ワシントンでの日米比3カ国首脳の直前には、アメリカのレモンド商務長官一行がマニラを訪問し、フィリピン周辺の海洋資源開発のためのファンドを立ち上げることを明らかにしています。実は、フィリピン沖合の天然ガスや石油などの資源には中国も日本も前々から大きな関心を寄せてきました。アメリカ政府はこうした資源を中国や日本の資金と技術で開発し、アメリカのエネルギー企業の利権に直結するように働きかけているのです。

 いずれにせよ、今回の岸田首相による米議会での演説はジョーク満載という観点では前代未聞の出来でしたが、中身はさし障りのないテーマを総花的に織り込んだだけのもの。目前のウクライナ戦争やイスラエルとパレスチナの対立、はたまたインド太平洋地域で高まりを見せる緊張状態には極力触れないという「忖度演説」に終始したものでした。事前の草稿には中国の軍事的台頭に関する厳しい表現もあったようですが、最終的にはバイデン政権からの要請もあり抑制的なものに変わっています。

 しかも、広島出身であり、核軍縮をライフワークと掲げてきた岸田首相でありながら、核廃絶への取り組みには一言も触れずじまい。その代わり、防衛予算をGDPの2%に引き上げ、反撃能力やサイバーセキュリティの向上にまい進する方針を強調。これでは米国の同盟国というより、実態は「米国の子飼い」と見なされても仕方がありません。

 一方、岸田首相のワシントン訪問と同時期、先に述べたように、米国のイエレン財務長官は、中国訪問の4日間を締めくくり、「世界は米中両国が繁栄するうえで十分に大きい」と述べていました。何と、かつて中国の人民解放軍の将軍が述べた「太平洋を中国とアメリカで二分しよう」というのと同じ発想ではありませんか。

 イエレン財務長官の9カ月ぶりの中国訪問は、世界の2大経済大国の間でエスカレートする貿易紛争に対処することを目的としており、両者は昨年11月のバイデン大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談に続いて関係を安定化させようとするものでした。

 その後もアメリカのトップ企業のCEOが相次いで北京を訪れています。また、ブリンケン国務長官やジョン・ケリー気候変動大使も近く中国を訪れる予定です。バイデン政権は表向きには中国警戒論を打ち出し、「いつ台湾有事が発生してもおかしくない。その場合には中国と対峙する」と強硬姿勢を見せていますが、アメリカの本音は中国とのWin-Winの関係を維持することにあることは疑いの余地がありません。

 さて、注目すべきはフィリピンでしょう。今回、ワシントンで開催された日米比3カ国首脳の隠された協議事項は西フィリピン海の資源開発計画でした。フィリピンでは前政権の下で、中国とのインフラ整備事業を推進しようとしていましたが、マルコス・ジュニア新大統領の発足を機に、中国との関係を見直し、アメリカと日本の経済、技術力を通じて資源開発を強化する方向に舵を切りました。しかし、これはあくまで表向きの「中国警戒論」に沿った動きに過ぎません。

 実際には、イエレン財務長官が明言したように、中国とアメリカで世界の資源や市場を2分割できるとの思惑が隠されているのです。そのため、アメリカはマルコス・ジュニア大統領の弱みを突こうとしています。何かといえば、20年以上にわたり独裁者として君臨してきたフェルディナンド・マルコス元大統領の隠し財産を「魚のえさ」にして息子のマルコス・ジュニアを釣りあげようとしているのです。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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