2024年12月31日( 火 )

紅麴問題で信用失墜の小林製薬~「独裁者」が君臨する同族企業(前)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 「覆水盆に返らず」ということわざがあるように、一度してしまった失敗は取り返しがつかない。この失った信用を取り戻すには何年もの時間をかけて努力し続けるしかない。報道各社は連日、小林製薬の「紅麴」サプリによる健康被害問題を報じている。小林製薬の対応は後手に回り、信用を失った。まさに「後悔先に立たず」だ。

2カ月以上、外部への報告を遅らせる

 5名もの死者、入院者数100人以上が出ている、小林製薬(東証プライム)の紅麴成分のサプリメントによる健康被害事件は、小林製薬の危機管理やコーポレートガバナンス(企業統治)を問う事態に発展した。メディアはどう報じたか。

 〈「とにかく早く(回収を)周知したかった。原因特定を急いでいた」。3月28日に大阪市内で開かれた株主総会で、小林章浩社長はこわばった表情で説明した。
 しかし、小林製薬による取締役への腎疾患の症例報告や自主回収の最終決定、世間への公表は3月22日。症例を初めて把握した1月15日から2カ月以上が経過していた〉
(『産経新聞』4月17日)

 食品をめぐる健康被害としては近年まれにみる惨事を引き起こしてしまった小林製薬。その背景には特異な企業体質がある、と指摘されている。

うるさ型の社外取締役には報告せず

サプリ イメージ    企業統治の指針になるのが金融庁と東京証券取引所が2015年に定めた「コーポレート・ガナンス・コード」で、上場企業に経営の透明性や公平性を求め、社外取締役を一定数置くことを要請している。

 小林製薬には4人の社外取締役がいる。日本のコーポレートガバナンスの第一人者として知られる伊藤邦雄・一橋大名誉教授、起業家でテレビ出演も多く政府の有識者会議でも委員を務める佐々木かをり・イーウーマン代表取締役、有泉池秋・元日銀の政策委員会室企画役、片江善郎・元小松製作所常務執行役。そうそうたる顔ぶれだ。

 紅麹の健康被害についての取締役会への報告は臨時取締役会で自主回収を決めた3月22日が初めてだった。4人の社外取締役は外部の視点から意見をいう機会がなかったことになり、コーポレートガバナンス(企業統治)の体制が厳しく問われている。

 なぜ社外取締役に報告しなかったのか。上場企業に求められているため社外取締役を置いているものの、「よそ者には経営に口を挟ませない」というホンネをうかがうことができる。

「中興の祖」小林一雅会長が
衛生日用品メーカーに転換

 小林製薬は1886年(明治19年)に小林忠兵衛が名古屋市で創業。当初は雑貨や安価な化粧品を売っていた。伝染病が流行したのを機に薬品の卸売業に本格的に参入し、1919年(大正8年)に大阪に進出した。

 自社で医薬品(医薬関連商品)を製造するようになったのは、つい最近である。処方箋を必要とする医療用医薬品はつくらず、ドラッグストアで買える市販薬や生活雑貨が主力だ。

 小林製薬を大きくしたのは創業者一族の小林一雅会長だ。39年(昭和14年)兵庫県に生まれる。小林製薬二代目社長・小林三郎の長男。大学在学中、父が早逝し、甲南大学経済学部を卒業後、62年3月に小林製薬に入社。64年の米国視察旅行をきっかけに、65年、コロンビア大学に留学。帰国後、小林製薬取締役、常務と昇進を重ね、76年12月、四代目社長に就任。医薬品の卸業であった小林製薬を衛生日用品・医薬品メーカーへ転換、事業を進展させた。2004年に会長に就任、現在に至っている。

 会社は、一雅の好き嫌いで何でも決まる。人事も新規事業も会長の一存だ。

成功の原点は水洗トイレ用芳香剤
「ブルーレット」

 「中興の祖」となった一雅の口癖は「小さな池の大きな魚」。誰も参入していない未開拓領域で大きなシェアを狙う戦略を意味する。一雅の成功の原点となったのが1969年に発売された水洗トイレ用芳香・消臭・洗浄剤「ブルーレット」だ。

 〈26歳で米国に留学した際、青い水が流れ、よい香りがするトイレを見て驚いた彼が、帰国して、自ら開発したのが「ブルーレット」だった。くみ取り式トイレが多かった時代に販売され、水洗トイレの普及とともに大ヒット商品へ成長。累計売上は5,000億円近いと推定されている〉
(『デイリー新潮』4月16日号) 

 一雅は開発に時間と費用がかかる医薬品より、手軽で1品あたりのリスクが低い日用品の開発にシフトした。冷却ジェルシート「熱さまシート」や消臭剤「消臭元」、洗眼薬「アイボン」などヒット商品を連発。肩こり治療剤「アンメルツ」を「ヨコヨコ」の商品名にしたら、バカ売れしたという逸話が残っている。

 一雅の開発理念は「あったらいいな」をカタチ(商品)にすること。独特のアイデアでニッチな市場の開拓者、パイオニアになった。

(つづく)

【森村 和男】

(後)

関連記事