2024年11月21日( 木 )

紅麴問題で信用失墜の小林製薬~「独裁者」が君臨する同族企業(後)

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 「覆水盆に返らず」ということわざがあるように、一度してしまった失敗は取り返しがつかない。この失った信用を取り戻すには何年もの時間をかけて努力し続けるしかない。報道各社は連日、小林製薬の「紅麴」サプリによる健康被害問題を報じている。小林製薬の対応は後手に回り、信用を失った。まさに「後悔先に立たず」だ。

「紅麴」問題で矢面に立たされた
小林章浩社長は一雅会長の長男

 小林製薬の「紅麴」サプリによる健康被害の拡大で矢面に立たされた小林章浩社長は、一雅会長の長男。1971年兵庫県宝塚市生まれ。94年慶應義塾大学経済学部を卒業。東京花王販売での武者修行を経て、98年小林製薬に入社。米国に留学、その後、2001年にミシガン州立大学でMBAを取得。帰国後、製造部門、マーケティング部門、国際部門の責任者を経験し、国内事業の統括責任者を経て、13年に六代目社長に就いた。経営は五代目社長・小林三郎(一雅の実弟)から長男・一雅の本家筋に戻った。絵に描いたような「おぼっちゃまコース」を歩み、42歳の若さで経営トップの椅子に座った。

 2000年代以降、他社が発売していたブランドを獲得して、自社製品に組み入れた。01年に使い捨てカイロメーカーの桐灰化学を子会社にしたのを皮切りに、06年にはアロエを使用した製品のメーカー、アロエ製薬を子会社化するなど積極的に投資した。

グンゼからの譲渡まで、麴の製造を
「やったことはない」

 小林製薬は2016年、グンゼから食品素材、紅麴の研究・販売事業を譲り受けた。当時の記事を検索した。

 〈小林製薬は紅麴を使った食品やサプリメントなど新商品の開発を進める。グンゼは主に食品会社に素材を販売してきたが、成長が難しいとみて撤退を決めた。(中略)紅麴は動脈硬化の要因となる悪玉コレステロールを減らすほか、血圧を低下させる働きがあるとされる〉
(「日本経済新聞電子版」2016年2月1日)

 生活習慣が気になる人向けの健康茶「杜仲茶」ブランドを展開している小林製薬がヘルスケア領域の柱にすべく手に入れたのが紅麴だった。

 ところが「悪玉コレステロールを下げる」を謳った紅麴成分入りの機能性表示食品サプリメントをめぐり摂取者の健康被害が相次いだ問題で、小林製薬は24年3月29日、記者会見を開いた。そこで爆弾発言が飛び出した。

 〈紅麴を含む麴の製造に関し、平成28年にグンゼから事業譲渡を受けるまで「やったことはない」と明らかにした〉
(『産経新聞』3月29日)

 信じられないことだが、「ド素人」であるにも関わらず紅麴を製造したというのだ。

「アベノミクス」の産物、
「機能性表示食品」に飛びつく

イメージ    小林製薬は、専門家がいないのに紅麴に飛びついたのか。メディア各社は「アベノミクス」の産物だと一斉に報じた。『日刊ゲンダイ』(4月2日)は「小林製薬『紅麴』サプリ、安倍元首相こそ健康被害拡大の元凶だ!米国の圧力に屈し『機能性表示食品』を解禁」と題してキャンペーンを張った。

 機能性表示食品は13年6月、当時の安倍晋三首相が成長戦略「アベノミクス」の1つとして「健康食品の機能性表示を解禁する」と表明し、15年4月に導入された制度だ。

 このときすでに、1991年開始のトクホ(特定保健用食品)の制度があった。トクホは食品の健康機能を国が評価し、表示を許可する仕組みだ。これに対して機能性表示食品は、事業者が機能性(健康の維持や増進に役立つ効果)と安全性に関する科学的根拠などを消費者庁に届け出れば、国の審査なく表示ができる。

 トクホは1件ずつ審査して国が許可する。機能性表示食品は届け出だけで国理審査はナシ。この「手軽さ」が企業には魅力で、機能性表示食品は急成長。これまでの届け出は約6,800件とトクホの6倍を超える。

 小林製薬は規制緩和をビジネスチャンスとして機能性表示食品に進出。機能性表示食品としては、記憶力維持をうたう「イチョウ葉」、目のピント調整機能を支えると大々的に宣伝する「ブルーベリーEX」のサプリメントを販売しているが、悪玉コレステロールを下げると謳った「紅麴コレステヘルプ」で死者を出した。

一雅会長は典型的な「狩猟型」経営者

 経営者は「狩猟型」と「農耕型」に分類される。「狩猟型」とは、猟師のようなイメージ。獲物を発見したら、狩りをする。「農耕型」は農家のイメージ。畑を耕し、その畑に種を撒き、育てる。

 小林製薬の「帝王」小林一雅会長は、典型的な「狩猟型」の経営者だ。「“あったらいいな”をカタチにする」をコーポレート・スローガンにニッチ商品でヒットを飛ばした。業績は好調。23年12月期の売上高は1,734億円。純利益203億円は26期連続の増益だ。

 昨年、保険金不正請求事件を引き起こしたビッグモーターの兼重宏行前社長も「狩猟型」の経営者だった。小さな中古車販売店を修理、保険代理など自動車全般に手を広げ急成長。伸び切ったところで奈落に転落した。

 兼重前社長は成功した経営者がそうであるように大豪邸に住んでいたが、一雅も「見せびらかし消費」は負けていない。

 〈住まいは超高級住宅街とされる兵庫県芦屋市六麓荘町の一等地。敷地面積約400坪、地下2階地下1階の大豪邸だ〉
(前出・デイリー新潮)

 「紅麴」健康被害で失った信用はあまりに大きかった。

(了)

【森村 和男】

(前)

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