並行在来線におけるJR貨物の線路使用料について(前)
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運輸評論家 堀内重人
JR貨物が並行在来線を運行する会社に線路使用料を支払う際は、固定費の分も含んだ線路使用料を支払うと同時に、旅客列車と貨物列車の運行費率により、線路使用料を決める方式となっている。この方式では、朝夕のラッシュ時に混雑が激しい、愛の風とやま鉄道、IRいしかわ、ハピラインふくいは、普通列車を増発すると貨物列車の運行費率が下がり、JR貨物などから得られる線路使用料の減少による減収の危険性が、生じるようになった。線路使用料の問題点と改善策を中心に述べていきたい。
JR貨物の線路使用料が誕生した経緯
JR貨物は自社では線路を保有していないことから、第二種鉄道事業者として、線路を借りて列車を運行している。そうなると、それらの鉄道事業者に対し、線路使用料の支払いが発生する。
JR貨物が、他のJR旅客会社の線路を借りて貨物列車を運行する際には、アボイダブルコスト(回避可能費用)といって、実際に貨物列車の運行が無ければ、支払いを回避できるという制度で線路使用料を計算している。つまり保線費用の増加分や電化されている鉄道事業者であれば、要した電気代などであり、トンネルや橋梁などのメンテナンス費などは、負担していない。
これは国鉄の分割民営化の際に、貨物は運行距離が長く、分割に適さない上、JR貨物の経営基盤が脆弱であることが予想されたので、JR旅客会社に支払う線路使用料が、低く設定されるようにしてJR貨物の経営を成り立たせるために行われたものである。
並行在来線を運行する第三セクター鉄道の誕生
その後、2002年に東北新幹線が八戸まで延長されたのにともない、並行在来線となる東北本線盛岡~八戸間がJR東日本から経営分離されることになった。そうなると、この区間を走行していた貨物列車は、並行在来線を運営する事業者の線路を走行することになった。並行在来線を運営する事業者は、稼ぎ頭であった特急列車が廃止されるため、当初から経営難が予想されていた。貨物列車が運行されないと支払いが回避される変動費のみが対象となり、計算した回避可能費用だけの支払いでは、並行在来線を運行する事業者は、経営面で苦しくなる。
そこで旅客列車と貨物列車の運行本数を按分して、貨物列車が運行されるか否かに関わらず、支払いが発生する固定費部分も加味した、線路使用料を支払うように要求することとなった。固定費に相当する部分は、トンネルのメンテナンス費やインフラの減価償却費、変電所などの維持管理費などである。
関係者の間で協議が行われた結果、当該区間の整備新幹線を建設した鉄道建設・運輸施設整備支援機構が、JR貨物が並行在来線を運営する事業者に対し支払う線路使用料を、補てんすることになった。この場合の原資は、JR東日本から受けとる新幹線に対する線路使用料である。この補てん分は貨物調整金と呼ばれ、それ以降もJRから分離された並行在来線を運行する事業者に対し、新たに新幹線を運行することになったJR各旅客会社が収める新幹線の線路使用料を原資にして、鉄道建設・運輸施設支援機構から支給されている。
貨物調整金の原資は、JR各社が鉄道建設・運輸施設整備支援機構に支払う新幹線のリース料である。それ以外にも、鉄道建設・運輸施設整備支援機構の旧国鉄清算業務における利益剰余金も、活用することが可能である。それにより、さらに貨物調整金を増額することが可能となっている。
貨物調整金が支給されるため、IGRいわて銀河鉄道の09年度の決算は、運賃などの旅客収入が約17億円であるのに対して、線路使用料の収入が約13億4,000万円だった。つまり運賃収入に近い金額が、鉄道建設・運輸施設支援機構から、支給されているといえる。
こうした貨物調整金として、線路使用料を補てんする措置は、その後、04年3月に九州新幹線の鹿児島ルートが開業した際、並行在来線の運営を担うことになる肥薩おれんじ鉄道に対しても、貨物調整金が適用された。
(つづく)
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