2024年11月28日( 木 )

並行在来線におけるJR貨物の線路使用料について(後)

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運輸評論家 堀内重人

 JR貨物が並行在来線を運行する会社に線路使用料を支払う際は、固定費の分も含んだ線路使用料を支払うと同時に、旅客列車と貨物列車の運行費率により、線路使用料を決める方式となっている。この方式では、朝夕のラッシュ時に混雑が激しい、愛の風とやま鉄道、IRいしかわ、ハピラインふくいは、普通列車を増発すると貨物列車の運行費率が下がり、JR貨物などから得られる線路使用料の減少による減収の危険性が、生じるようになった。線路使用料の問題点と改善策を中心に述べていきたい。

肥薩おれんじ鉄道の事例

 肥薩おれんじ鉄道は、熊本県の八代と鹿児島県の川内(せんだい)に跨って走行する並行在来線を運行する第三セクター鉄道であるが、鹿児島県側に車両基地を設ける場所が無かったこともあり、県を跨いでいるが、1つの鉄道事業者として、運営されている。

 肥薩おれんじ鉄道は、自社の旅客列車の運行を気動車として、JR九州から引き継いだ電化設備は、貨物列車かJR九州から乗り入れる「36ぷらす3」(写真1)などの団体臨時列車が使用する設備とした。その利用に対して、回避可能費用ではなく、固定費に対する負担を求めることで、さらに線路使用料の増額を図っている。

写真1「36ぷらす3」
写真1「36ぷらす3」

 肥薩おれんじ鉄道が、電気運転を止めた理由は、交流専用電車の製造コストが直流電車よりも3割程度高く、ローカル列車であればスピードアップの必要性が少なく、気動車でも対応が可能な点が挙げられる。これはえちごトキめき鉄道の糸魚川~直江津間も該当する。これらの処置により、肥薩おれんじ鉄道に入る年間の線路使用料は、開業から10年間は毎年最低2.8億円が保証されている。

 肥薩おれんじ鉄道の場合、北陸地方に誕生した愛の風富山鉄道、IRいしかわ、ハピライン福井のように、朝夕に普通列車を増発する必要性は乏しい。一方で肥薩おれんじ鉄道が走行する沿線は、有明海に面しており、車窓風景がすばらしい。

写真2「ななつ星in九州」
写真2「ななつ星in九州」

 旅客輸送密度は、1,000人/日を下回っているため、「おれんじ食堂」などの観光列車を増発して、増収と利用者の増加を図りたいところである。またJR九州からの「ななつ星in九州」(写真2)や「36ぷらす3」のような団体列車が乗り入れれば、八代~川内間の116.9km分の普通運賃だけでなく、特急料金やグリーン料金なども徴収できるため、貨物列車の運行費率が減少することにともなう、線路使用料の減少を補うことになる。

 肥薩おれんじ鉄道は、自社では特急列車など運行をしていないため、HPでは特急料金などは掲載していないが、「ななつ星in九州」「36ぷらす3」は、特急列車であるし、「ななつ星in九州」は、全車が“スイート”クラスか、それ以上の超豪華個室寝台車、「36ぷらす3」は全車グリーン車である(写真3)。

写真3「36ぷらす3」の車内
写真3「36ぷらす3」の車内

 そうなると、特急料金・個室寝台料金・グリーン料金が発生する。その旨を肥薩おれんじ鉄道にヒアリングすると、「『ななつ星in九州』『36ぷらす3』の運行に関する料金などは、JR九州と協議して決めている」という旨の回答を得た。そして「客単価が高いこともあり、線路使用料の減少分を補える」という。

 肥薩おれんじ鉄道自社の目玉列車は、「おれんじ食堂」であるが、この列車は既存の気動車を改造して、2013年3月24日から運行を開始した観光列車である。以前は、平日も運行していたが、季節によって波があるため、現在は金土日・祝日を中心に運行している。

 沿線には、有明海というすばらしい観光資源があり、「『食』を通して沿線の魅力を知ってもらう」が、コンセプトである。車内では、沿線地域の特産物を使用した料理や飲み物が提供される。改造前の車両が、一般用の気動車であったため、本格的な調理を行うような厨房を備えていないが、御飯やスープは車内で温められて提供される。それら以外は、沿線の提携レストランからデリバリーされるが、季節のスイーツも提供される。

 当初は、食事はすべて車内の厨房で調理して提供する計画であったが、以下のような理由から断念することになった。
①衛生面で営業許可を取るのが難しい
②自社の列車の厨房で調理して提供すると、地元産業との関係は一次加工業者としか生まれず、地域の活性化としては弱い

 外部で調理されたものを列車内で提供しているが、本格的な懐石料理やフレンチのフルコースが提供されるため、メニューに関しては高級料亭か、高級レストラン並みであり、女性層からも人気が高い列車である。

今後の線路使用料の在り方

 今後の線路使用料の在り方であるが、貨物列車の運行本数だけで決定させるように変更する必要がある。現在のように、旅客列車と貨物列車の運行費率で、決定する方式であれば、愛の風とやま鉄道やIRいしかわ、ハピラインふくいは、朝夕のラッシュ時に混雑を緩和するための普通列車の増発が難しくなり、混雑が慢性化する。一方、肥薩おれんじ鉄道のように、「有明海」という風光明媚な車窓を有する鉄道事業者も、昼間に観光列車などを増発しづらくなる。それゆえ貨物列車の運行本数に応じて線路使用料を決定する方式に改めると同時に、JRから経営分離する際の明確な基準を、設定する必要がある。

 金沢~富山間、金沢~福井間など、特急列車が廃止される区間であっても、沿線に都市が連なっている区間は、経営努力を行えば、収支均衡が可能である。それらの区間まで、経営分離してしまうと、朝夕のラッシュ時に普通列車が増発できず、混雑が慢性化した状態で輸送しなければならず、サービスが低下してしまうという問題が生じる。

 並行在来線を経営分離する際の明確な基準の設定と、その際の線路使用料の決め方を、再設計する必要があるといえるだろう。

(了)

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