米中半導体覇権競争の行方 強まる友好国への圧力
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国際政治学者 和田 大樹
米中間の先端半導体をめぐる覇権競争は今後も続くことは間違いないが、最近顕著に見られるのが中国への圧力ではなく、米国の同盟国・友好国への圧力だ。4月になり、バイデン政権はオランダ政府に対し、オランダの半導体製造装置大手ASMLが対中輸出規制施行前に中国企業に販売した半導体製造装置について、同社によるサービスや修理の提供を停止させるよう求めてきたという。
バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止するため、先端半導体の製造に必要な装置や技術の中国への輸出を禁止する措置を発動したが、米国のみでは抜け道が存在すると判断したバイデン政権は昨年1月、先端半導体の製造装置で高い世界シェアを誇る日本とオランダに足並みをそろえるよう要請した。日本は昨年7月下旬から先端半導体の製造に必要な14nm幅以下の製造装置、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目で中国への輸出規制を開始し、オランダもそれに続いた。
だが、ASMLや日本の半導体企業は過去に中国に販売した装備を修理したり、予備部品を販売したりしており、米国はそれによって対中輸出規制の効果が不十分になっていると強い不満を抱いており、4月のオランダ政府への呼び掛けはその証だろう。バイデン政権は友好国に対してもっと踏み込んだ強い規制を求めている。
また、バイデン政権は日本やオランダだけでなく、韓国やドイツなどほかの友好国にも先端半導体分野の対中輸出規制に加わるよう要請し、同分野の競争で優位に立つためにあらゆることを実行に移している。日本やオランダに対してもっと踏み込んだ、言い換えれば経済合理性をより犠牲にした措置という“縦の圧力”に加え、韓国やドイツも巻き込むという“横の圧力”を同時進行で進めようとしているが、それは“半導体版対中包囲網”のようにも捉えられ、焦る米国の姿が筆者には見え隠れする。
仮に中国が先端半導体を軍事転用することになれば、人民解放軍のハイテク化が飛躍的に高まり、それはアジア太平洋地域での米中の軍事バランスを大きく中国有利に傾かせ、それは同時に日本の安全保障にとっても深刻な脅威になる恐れがあることから、それを未然に阻止しようとする米国の動きに日本が足並みをそろえることは十分に合理性があろう。
だが、我々は友好国への圧力を強化する米国にも一定の注意を払う必要があろう。日本にとって中国は依然として最大の貿易相手国であり、米国が求めるレベルの対中圧力が日本の国益にとって最適かは別途検討する必要がある。日本も昨年7月下旬から対中輸出規制を開始したが、これは経済合理性との観点でバランスを取った日本独自の規制であり、米国による規制ほど強くはない。米国は今後も先端半導体分野では中国への規制を強化することに躊躇いはなく、同様に日本など友好国に対しても同じレベルでの規制を要請してくることだろう。
しかし、それによって経済合理性が犠牲となり、日本はかえって大きな経済的損失を被る可能性があるだけでなく、中国がさらに貿易的不満を日本に強め、対日報復措置を発動し、日中間で貿易摩擦が拡大する恐れもある。中国は昨年8月に日本産水産物の輸入を全面的に停止したが、これも昨年7月下旬の対中輸出規制の延長線上で考えられよう。
仮に日本が米国に追従し、日中間で貿易摩擦が激しくなっても、米国はそれについて何らかの補償をするわけではない。今後は中国だけでなく、米国の動向にも注意を払う必要があろう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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