2024年12月24日( 火 )

日本のAI戦略はマイクロソフトの軍門に下るのか?(前)

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

 マイクロソフトといえば、ビル・ゲイツ氏が1975年にポール・アレン氏と共同で創設した世界的なIT企業です。そのトップとしてコンピューター産業の基礎をつくり上げ、世界的な技術革命の実現をはたしました。世界長者番付では94年から2006年まで13年連続で世界1の座を占めたものです。

 08年、マイクロソフトの経営とソフト開発の第一線から退き、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の活動に専念。長年、活動を共にし、3人の子どもを設けたメリンダ夫人とは21年に離婚。最大の理由は、ゲイツ氏が小児性愛犯罪者のエプスタイン氏と交際していたことのようです。メリンダさんは離婚した後も「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」の仕事は続けていましたが、来る7月をもって正式に財団とは袂を分かち、自ら新たな慈善財団を設立すると発表しました。

 ゲイツ氏はやり手であることは間違いありませんが、女性関係は奔放気ままで、メリンダさんと結婚していた時も、毎年、夏にはかつての恋人と休暇を取るという習慣から抜けることができず、メリンダ夫人にとっては積年の怒りが溜まっていたに違いありません。

 そんなゲイツ氏ですが、20年には日本政府から旭日大綬章を授与されました。これは外国人に与えられる賞としては最高の栄誉です。しばしば日本を訪れ、京都や軽井沢にも大豪邸を保持していました。和食がお気に入りで、とくにお寿司には目がないことで知られています。そういったご縁もあってか、マイクロソフトは日本市場で確固たる地盤を築いてきました。

 この4月、同社は生成AIの需要拡大に向け、今後2年間で29億ドル(約4,400億円)を日本に投資すると発表。生成AIに不可欠なデータセンターを増強し、研究拠点も新設するとの内容で、過去最大規模になる見込みです。最先端の「GPU」と呼ばれるAI向け半導体を導入するとも言います。

 また、東京都内に研究拠点を新設し、AIやロボット工学の研究を通じて生産性の向上など日本社会の直面する諸課題の解決にも取り組む姿勢を打ち出しました。さらには、AIを活用できる技術者の育成にも乗り出し、非正規雇用や女性を含めたいわゆる「学び直し」やAIの開発者を対象にした研修プログラムを実施し、今後3年間で300万人のスキルアップを支援するとのこと。

 これらの新機軸に加えて、日本政府との間でサイバー攻撃に関する情報の共有やセキュリティ対策などでも連携を強化すると発表。こうした新たな日本市場への参入強化策は4月10日からワシントンを訪問していた岸田首相と面談した、マイクロソフトのブラッド・スミス副会長兼社長が直接提示したものです。

 これに対し、岸田首相は日本への新規投資の表明に謝意を示し、「デジタルインフラをもつグローバル企業との連携は日本の産業全体にとって重要極まりなく、引き続きの協力に期待する」と応じました。実は、これまでもマイクロソフトは日本政府のAI政策を事前に把握し、「Azure OpenAI Service」など、先手必勝で対日投資を進めてきています。

 電子情報技術産業協会(JEITA)によれば、日本国内における生成AIに関するサービスなどの需要は30年には1兆7,700億円と予想され、23年比では15倍に拡大する可能性を秘めている模様です。マイクロソフトに限らず、アマゾン・ウェブサービスやGoogleなども日本進出と投資を加速させています。

 とはいえ、重要なのは経済安全保障の観点から、日本発のデータはあくまで日本国内で安全に処理、活用されること。つまり、他国の技術に頼ることなく日本独自のもので対応する姿勢を保つことに尽きます。そのため、経済産業省では中国やロシアからの不正アクセスを防止する意味でもサイバーセキュリティ対策に力点を置く政策に舵を切りました。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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