2024年11月23日( 土 )

日本のAI戦略はマイクロソフトの軍門に下るのか?(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田和幸

イメージ    経産省は国産の生成AI開発プロジェクト「GENIAC」を強力に支援してきましたが、新たにマイクロソフトと直接交渉し、GPUを組み込んだスパコンの提供を受けることになりました。その結果、国内の生成AI開発者に対して、利用料の大半を補助する可能性に道を開くことになったというわけです。こうした動きもマイクロソフトが日本の生成AI市場のポテンシャルを非常に高く評価しているからできたことは否定できません。

 ところで、2024年3月のG7大臣会合において、「最大の脅威は中国によるフェイクニュース拡散戦略である」との認識では一致しました。しかし、どのような具体的な対抗策が打ち出されるかは依然として不透明です。日本政府は経産省に限らず外務省もAI規範づくりやイノベーションにおいて中国とどう向き合うか、複雑な対応を迫られています。岸田政権は基本的には中国を含む国際社会との協力や対話を重視する立場です。とくに、AIに関する規範や倫理的枠組みに関しては、中国抜きにはあり得ないとの認識を有しています。

 他方、マイクロソフトは中国との関係においても独自の視点と関与の歴史をもっています。何しろ、マイクロソフトが最初に中国市場に参入したのは1992年のこと。データセンターにしても日本よりはるかに早く中国に建設、稼働させてきました。アメリカ本土以外では、中国が最大の投資先になっています。

 2015年の時点で、マイクロソフトはアリババ、テンセント、バイドゥと並び、「中国の経済を大転換させる企業」に選ばれました。また、16年、中国の政府系のメディアとの間でデジタル化を進める契約を締結。要は、中国政府のプロパガンダの一翼を担ってきた側面もあるわけです。

 言い換えれば、中国の官製メディアはマイクロソフトの支援を受け、読者にどのような切り口で記事を提供すれば受け入れ易くなるかを学習してきているといえます。ということは、昨今話題となっている中国発のフェイクニュース、とくにアメリカの大統領選挙に関連するような記事の作成ノウハウはマイクロソフトから学んだ可能性も大いにあるのです。

 中国はAIロボットを使って、24年11月のアメリカの大統領選挙に関してもすでに深く静かに関与しているようです。アメリカの有権者になりすまし、政治的プロパガンダを拡散しています。 マイクロソフトによると、中国が背後で操る偽のソーシャルメディア・アカウントのネットワークが稼働しており、選挙結果を左右する危険性も生まれている模様です。

 ところで、最新のマイクロソフトの分析によれば、「中国の作成している画像は、AIを使用して魅力的な画像を作成するだけでなく、時間とともにそれらを改善する方法を学習するディフュージョン駆動型の画像生成器によって作成されたものと推察できる」とのこと。

 この4月4日、マイクロソフトの脅威分析センターは「中国がAIを利用したサイバー攻撃および情報操作を強化している」と警告を発したばかりです。それによれば、中国はアメリカ、韓国、インドなどの選挙にも影響を与えようとしているとのこと。24年1月の台湾の総統選挙でも中国による介入が確認されています。

 このままでは、アメリカ人のみならず、多くの国々で国民の思考回路がコントロールされかねません。そうした中国の進化するAI技術の背景にもマイクロソフトの関与が指摘されているわけで、その真偽をめぐっては議論もありますが、実に皮肉な因果関係といえなくもありません。アメリカ議会ではマイクロソフトと中国共産党の関係について、スミス社長を喚問し、その実態を究明しようとしています。

 同様の危険は日本にも降りかかってきています。マイクロソフトは検索サービス「Bing」を通じて信頼できる選挙情報を提示すると述べていますが、その効果は完璧の域には達していません。日本は政界も官界もマイクロソフトのソフトパワーに飲み込まれているわけで、この際、同社の意図や影響力を冷静に見極め、見直す必要があるでしょう。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
    国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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