2024年07月17日( 水 )

今後のサイバネ技術~JR東等の磁気乗車券廃止、熊電等のICカード決済廃止(前)

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運輸評論家 堀内 重人

 JR東日本を含めた8つの鉄道事業者は、裏面に磁気が塗られた紙製の乗車券の使用を、2026年度以降廃止すると5月29日に発表した。代替としてQRコードが印刷された紙製の乗車券になるという。ほぼ同時期に、熊本電気鉄道など九州の5つの交通事業者も、5月31日に全国で使用が可能な交通系ICカードによる乗車時の決済を廃止し、その代替としてクレジットカードなどによるタッチ決済を、25年4月1日から導入すると発表した。今後は、従来の乗車システムが大きく様変わりすることが予想される。その概要と背景について述べたい。

JR東日本など、QRコードが印刷された乗車券の導入

 JR東日本と首都圏の西武鉄道、京成電鉄、京浜急行電鉄、新京成電鉄、東京モノレール、東武鉄道、北総鉄道の8つの鉄道事業者は、現在使用されている裏面に磁気が塗られた乗車券を、表面にQRコードが印刷された乗車券に置き換えることを5月29日に発表した。新タイプの乗車券には乗車駅や日付、購入金額などが印刷される。

 各鉄道事業者では、裏面に磁気が塗られた乗車券を利用する乗客は非接触型のICカードの普及もあって、減少している。

 交通系ICカードの利用率は、07年で65%であったが、24年5月末の時点で90~95%に達している。ICカード式の乗車券は、券売機の前に並ぶ必要性がないうえ、小銭の心配が不要であることから便利である。その結果、裏面に磁気が塗られた乗車券の利用者は、5~10%程度にまで減少してしまった。

 JR東日本では、20年9月から新宿駅で、QRコードをかざすと扉が開いて通過できる自動改札機を試験的に導入していた。結果が良好だったことから、26年度末以降、順次、置き換えを実施するという。

 これにより、乗車券を改札機に通す方式から、乗車券の表面に印刷されたQRコードを改札機の読み取り部にかざす方式に変わる。

 現在の裏面に磁気が塗られた紙製の乗車券は、改札機に乗車券が詰まるなどの不具合が発生すると、係員が改札機の蓋を開けて、詰まった乗車券を取り出すなどの手間を要する。また裏面に磁気が塗られた乗車券は、金属成分を含んでいるため、普通ゴミとして処理することができず「産業廃棄物」という扱いになり、処分する際は専門の業者に委託する必要があった。

 表面にQRコードが印刷された乗車券に置き替わると、乗車券が詰まるというトラブルがなくなり人件費を削減できるほか、普通ゴミとして処分が可能となり、鉄道事業者にとって維持管理費が減少するという利点がある。

 

熊本県のバス事業者によるクレジットカードのタッチの模索

 熊本電気鉄道、九州産交バス、産交バス、熊本バス、熊本都市バスの5社は、25年4月からクレジットカードをかざして、決済する方式を導入する。

 第一段階として、今年12月中旬頃に、全国で使用が可能な交通系ICカードによる決済を停止する。そしてクレジットカードでタッチして決済が可能となる読取機器(運賃箱)の導入を目指すとしている。この決済方式を導入するには、初期投資が必要であるが、交通事業者単独での導入は非常に厳しい。国、熊本県、熊本市の補助が必要となるが、順調に補助が得られたならば、24年度中にも導入して、25年4月1日から使用可能にしたいとしている。

 この5社は「SUICA」などの全国で使用が可能な交通系ICカードとは異なり、「くまモンのICカード」を導入している。23年度の熊本県民の電車、路線バスの利用時の決済の方法としては、5社とも「くまモンのICカード」による決済が過半数以上を占めていた。これは「くまもん」が、熊本県が産んだご当地キャラとして高い人気を誇っていることも、大きく影響している。

 一方、全国で使用が可能な交通系ICカードによる決済は、路線バスで24%、電車で18%だった。今後はインバウンドの増加によるキャッシュレス決済の多様化が見込まれる。そこで、より多くの利用者のニーズに応えるために、全国で利用が可能な交通系ICカードに代わり、クレジットカードによる決済などに対応できる読取機器(運賃箱)の導入を決めたという。

 また熊本電鉄などが、全国で決済が可能な交通系のICカードによる決済を廃止した背景として、端末の寿命がきていたことが挙げられる。熊本電鉄にヒアリングしたところ、端末の寿命が約10年であり、更新するとなれば12億円を要するという。一方、クレジットカードによる新しい決済システムを導入した場合、約6億円で済むため、決済方式を切り替えるということだ。それゆえ熊本県内のバス事業者5社は「経営効率化を実現できる」と考えている。

(つづく)

(後)

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