今後のサイバネ技術~JR東等の磁気乗車券廃止、熊電等のICカード決済廃止(後)
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運輸評論家 堀内重人
JR東日本を含めた8つの鉄道事業者は、裏面に磁気が塗られた紙製の乗車券の使用を、2026年度以降廃止すると5月29日に発表した。代替としてQRコードが印刷された紙製の乗車券になるという。ほぼ同時期に、熊本電気鉄道など九州の5つの交通事業者も、5月31日に全国で使用が可能な交通系ICカードによる乗車時の決済を廃止し、その代替としてクレジットカードなどによるタッチ決済を、25年4月1日から導入すると発表した。今後は、従来の乗車システムが大きく様変わりすることが予想される。その概要と背景について述べたい。
新乗車方式導入に対する課題
裏面に磁気が塗られた乗車券を、表面にQRコードが印刷された乗車券に変更する方向性は打ち出されたが、26年以降にすぐ廃止するか否かは、各鉄道事業者で温度差がある。東武鉄道のように、将来的に全廃する方針を打ち出した事業者がある一方、JR東日本のように近距離路線は廃止するが、新幹線や特急などの都市間輸送などでは、存続させるとする事業者もある。
QRコードをかざして乗車する方式は、鉄道事業者には利点が大きいが、新しい改札機の導入には、初期投資のコストがかさむ。また関東の民鉄は、JR東日本だけでなく、東京メトロや都営地下鉄など、他社と相互乗り入れを実施している。そうなると乗り入れる相手側の鉄道事業者との互換性という、課題も生じてしまう。
一方、熊本電鉄などは、クレジットカードをタッチして決済する方式を導入する考えであるが、この場合でも課題はある。
クレジットカードによる決済が可能であるとはいえ、リップルマークが付いたクレジットカードでなければ、利用することができない。この点に関して、熊本電鉄へヒアリング調査したところ、「古いクレジットカードも、期限が来れば順次、新しいクレジットカードに更新されるため、そうなれば将来的には全クレジットカードで決済が可能となる」とのことだった。
筆者は、全国で使用が可能な交通系ICカードからクレジットカードの決済に切り替わることで、従来の「くまもんのICカード」や現金、回数券の使用ができなくなるかもしれないと、危惧していた。事実、コロナ禍を経験したこともあり、東武鉄道の「スペーシアX」という特急列車のビュッフェでは、コロナ対策の一環として、クレジットカードや全国で利用が可能な交通系ICカードでしか決済することができなくなった。それゆえ熊本電鉄をはじめとした熊本県の交通事業者も現金の収受を廃止するかもしれないと心配していた。
その点も熊本電鉄にヒアリングすると、「『くまもんのICカード』の使用は可能であり、紙の回数券も引き続き利用できます。もちろん、現金でも決済が可能です」と回答をいただき、安心している。
展望と総括
決済システムの変更は実施するが、JR東日本など8つの鉄道事業者も、乗車券にQRコードが印刷されることから、現金による決済も引き続き、可能である。また熊本電鉄をはじめとした熊本県内の5つのバス事業者も、クレジットカードによる決済に変更するだけでなく、新たに導入する端末には、QRコードを読み取れるカメラを設置するが、現金による決済は継続される。
これは紙の回数券などにQRコードを導入するのではなく、MaaSアプリなどの利用も想定しているからである。カメラを設置することで、QRコードの利用も、技術的に可能となる。そこで熊本県内の5つのバス事業者は、需要を喚起する1日乗車券などでは、QRコードの導入を検討している。
一方で、PayPayなどのQRコードによる決済は、24年5月末の時点では、導入の予定はないと聞く。
新しい乗車システムが導入されても、現金による決済を可能としている点を、評価したい。乗車券を購入する人は、大人ばかりではなく、子どもや学生などもいるため、クレジットカードがつくれないことがある。また高齢者などには、QRコードを読み取る方式に不安があることはたしかである。
やはり昔から使い慣れている現金による決済も、乗客に安心感を与えるうえで重要であるといえる。
(了)
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