2024年11月23日( 土 )

韓国経済ウォッチ~TPPと韓国経済(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 韓国経済の特徴は、高い貿易依存度である。狭い国土面積、小さい市場規模、資源の不足などで、韓国は成長の拠り所を貿易とし、経済成長を遂げてきた。韓国の貿易依存度は80%前後を記録していて、米国の22%、日本の31%に比較してみても、いかに高いかがすぐわかる。このように貿易依存度の高い韓国にとっては、自由貿易の重要性は切実で、どの国よりも積極的に両国間の自由貿易協定を推進してきた。

貿易イメージ その結果、その間15件のFTA「自由貿易協定」(国家数では54カ国になる)を締結することに成功し、全世界の74%の地域と自由貿易ができるようになった。すなわち韓国は、FTA制度においては一番の優等生と言っても過言ではないくらい成果を挙げてきた。

 ところが、最近「FTA強国」と言ってもいい韓国の地位を、揺るがしかねないニュースが流れている。他ならぬ韓国を除いた12カ国間で大筋合意した、「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」である。
 今回は、TPPはどのような協定であり、どのような背景から誕生するようになったのか。それからTPPは韓国経済に今後、どのような影響を与えるかを考えてみよう。

TPPとは

 TPP(Trans-Pacific Partnership)は高いレベルのFTAであり、アメリカはTPPを「21世紀型のFTA」と呼んでいて、アジア・太平洋地域の経済統合のスタンダードにしようとしている。スタートは2005年、ニュージランド、チリ、シンガポール、ブルネイの4カ国だけが参加した。その後、米国、オーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナム、カナダ、メキシコなどが参加するようになって規模が拡大。13年3月には、日本もアベノミクスの一環として、TPPへの参加を表明した。
 このようにしてTPPは、名実ともにアジア・太平洋地域の多国間自由貿易協定として浮上するようになった。TPPが大筋合意に至るようになると、12カ国以外にも韓国、台湾、フィリピンなども、会員として参加することに関心を表明している。

 それでは、TPPはどのような背景で誕生するようになったのかを見てみよう。TPPが誕生するようになった背景を理解するためには、まず最近の貿易協商の流れを把握する必要がある。
 最近、貿易交渉は複数国が交渉に参加する「多国間交渉」から、2つの国同士が交渉する「二国家間交渉」、それから再び「多国間交渉」へと変化してきている。WTO体制では、多数の国家が参加して交渉を進め、自由貿易のルールを決めることを試みたが、成功できなかった。WTOが推進してきたこの多国間交渉の限界を乗り越えるために、新たに登場したのが、二国家間交渉であるFTAだ。多国間交渉では、いろいろな国の利害が絡み合ってうまく推進できないので、両国間だけの交渉を通じて問題の解決を図ろうとしたわけだ。
 韓国は、二国家間の交渉であるFTA制度を十分活用して貿易領土を広げることに、最も成功した国であった。しかし、両国間のFTAを同時並行的に推進する過程で、新たな問題が発生した。協定ごとにルールが違って、その結果、コストがむしろ増大する現象も起こった。このような問題を解決するために登場してきたのが、多国間の交渉であるTPPだ。

 TPP誕生の背景にはもう1つ、アメリカの政治的な戦略がある。アメリカはこれからさらに成長が見込まれるアジアで、中国をけん制しながらアメリカ主導のルールをつくって有利な立場を構築したいという狙いがあるようだ。
 それに日本の場合は、FTAにおいては韓国に遅れを取っていたが、TPPという多国間協定に入ることによって、一気に今までの遅れを挽回できるという効果もあって、日本はTPPに積極的になっていたという指摘がある。
 12カ国間で大筋合意に至ったTPPは、韓国が今まで享有してきた恩恵を消滅させてしまう可能性もはらんでいる。韓国政府は、このような米・日が主導する新しい経済秩序に、韓国だけが取り残されることがないように、TPPへの参加を含めた多角的な分析に着手している。

 上記で言及したように韓国政府は、その間FTAに注力してきた経緯がある。韓国はすでにFTAによって一定の成果を挙げていることも事実だし、どちらかというと韓国はTPPに対しては、どのようなメリットがあるのか見極められず、様子見の態度であった。
 だが、TPPが大筋合意に至り、大きな経済圏が動き出した今では、韓国もTPPへの参加を検討せざるを得なくなった。もちろん一部では、いまだにTPP参加に慎重を期する必要があるという専門家の意見もあるが、韓国政府では、協定文の発表後にTPPへの参加を検討したいと表明している。
 しかし、韓国が参加を表明すれば、いつでも簡単にTPPに参加できるわけではない。最初に参加した12カ国と違って、これから参加する国は、TPP参加国12カ国とは個別交渉が必要であることはもちろん、参加国全体の同意も必要になっている。そのため、参加表明してから参加までに、少なくとも1年半以上の歳月が必要であることは覚悟しておくべきだ。

(つづく)

 
(後)

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