2024年11月27日( 水 )

九州の平日観光の活性化にむけた取り組み(前)

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運輸評論家 堀内重人

 東急とJR九州を中心に交通・航空企業5社がタッグを組んで、交通・観光業界では、永遠の課題である「需要の平準化」に挑戦する。鉄道会社や航空会社は、ピーク時の需要に対応するため、車両や機材だけでなく、人員も確保する必要がある。東急とJR九州以外に、ソラシドエア、スターフライヤー、ニッポンレンタカーサービスは、梅雨で需要が少なくなる6月4日から、「九州・沖縄オフピーク旅促進プロジェクト」をスタートさせた。日本の観光地は、週末は混雑しているが、平日は閑散としていることが、一般的である。そこで平日旅行を促してピークを削り、ゆったりした日程で九州や沖縄を周遊してもらうのが、プロジェクトの狙いである。

先行事例

スタ―フライヤー
写真1 スタ―フライヤー

    東急、JR九州、ソラシドエア、スターフライヤー(写真1)に、ニッポンレンタカーサービスも加わって、九州地区の観光客数の平準化を試みる今回のような大規模な取り組みは初めてである。それ以前に閑散期の需要を創出する事例としてJR東日本は「大人の休日倶楽部パス」と、近鉄が全線で一般電車が乗り放題になる企画乗車券を販売して、需要を喚起している。

 「大人の休日倶楽部パス」の前身は、「EE切符」というJR東日本発足を記念して、週末に新幹線(写真2)を含めた在来線特急・急行の自由席が乗り放題になる企画乗車券であり、5月の大型連休明けから6月末という閑散期に発売された。その後も同乗車券は、9月などの閑散期にも販売され、利用者に好評であったことから、現在は閑散期に「大人の休日倶楽部パス」という「大人の休日倶楽部」の会員に対し販売する、企画乗車券として定着している。これは会員限定であるから、サブスクリプション(サブスク)である。

写真2 新幹線
写真2 新幹線

    2024年度は、5月20日から「大人の休日倶楽部パス」の販売が開始され、閑散期である6月20日から7月2日までが、有効期間である、

 近鉄は、23年にコロナ禍で需要が落ち込んでいたこともあり、6月と9月に近鉄全線の一般電車が乗り放題となる企画乗車券を発売した。

 近鉄は、路線長が長いこともあり、大阪難波から名古屋や賢島へ行くとなれば、特急電車(写真3)を利用することになる。全線乗り放題の企画乗車券を販売することで、特急券を購入してもらえるため、近鉄にとれば閑散期の増収増益がもたらされた。

旅行客が特定の時期に集中する弊害

写真3 観光特急「しまかぜ」
写真3 観光特急「しまかぜ」

    日本の観光旅行は、週単位では週末に集中する傾向にある。通年では、ゴールデンウイーク(GW)、夏休みのなかでもとくにお盆頃、そして年末年始が挙げられる。これらの時期には、「民族大移動」といわれるぐらい、道路も含めた交通機関が混雑するだけでなく、宿泊施設や観光地なども、観光客で混雑する。

 GWや週末になれば、東京ディズニーランドのような人気観光地は、訪問客で大混雑するため、アトラクションを待つ長蛇の列ができる。湘南海岸などは、家族連れの自家用車で道路が大渋滞する。

 行楽地へ出掛ける観光客も大変であるが、受け入れ側の観光地や施設も大変である。ピークに合わせて、従業員を確保しなければならず、この場合はパートやアルバイトなど、非正規の従業員を多用せざるを得ない。結果として、安定した雇用環境にほど遠い状態である。「観光産業は労働集約型産業」といわれるが、雇用面では不安定な一面があるため、大きな課題が残る。

 この状況に対して、国が観光・旅行の平準化を真剣に議論したのは、10年頃からである。ちょうど民主党政権が発足した頃であり、政権が民主党に変わっても、「観光立国の推進」というスタンスは変わらず、ピーク時に観光客が集中する問題を緩和する方向へ向かって動き出したといえる。

 まずは、GWの地域別の分散化を検討するため、北海道と九州は5月の1週目、関東は2週目、関西は3週目と、地域で連休を分けて旅行客を分散することを検討した。

 アイデアとしては良かったが、金融機関の決済が地域によりバラバラだと困るという、ネガティブな議論が噴出してしまった。不運なことに、翌11年3月11日には、東日本大震災が発生したため、そこからの復旧が喫緊を要する課題となり、GWの分散化は雲散霧消してしまった。

 民主党政権下では、GWの分散化を模索したが、今回のプロジェクトの目的は、平日旅行の促進である。平日の移動は、ビジネスマンが商談のために旅行することが一般的であり、行楽地へ向かうことは一般的ではない。

 今回推し進めるプロジェクトにより、平日の宿泊料金が下がることもあり、平日に行楽地などへ出掛けやすくなる。

 自営業や自由業の人は、平日に旅行しやすくなる。サラリーマンは、有給休暇が取得しやすい会社であれば、平日の観光旅行に出掛けやすいが、そうでない会社であれば、割安なプロジェクトができたとしても、平日の観光旅行が促進されるとは、言いづらい。

(つづく)

(中)

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