規制緩和による糸島半島・北崎エリアの可能性
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海に囲まれた、自然豊かな地域
糸島半島の北端部に位置する北崎地区は、玄界灘と博多湾に面しており、その立地特性を生かした海づり公園や唐泊恵比寿かき小屋、釣船茶屋ざうおなどの立ち寄りスポットが有名だ。また、ハイキングコースが整備された灘山(なだやま)もあり、自然豊かな地域として知られている。
由緒深い地域でもあり、古くは8世紀中頃に宮浦唐泊(からどまり、当時は韓亭)が万葉集に詠われ、その地名からもわかるように、江戸時代には「筑前五ケ浦」に数えられる重要な港として福岡藩に重宝されていた。この地域はもともと宮浦村や西浦村、玄界島村や小呂村といった離島の村を含む6つの村で構成されていたが、後に合併し志摩郡小田村となる。小田村はその後、1896年に志摩郡と怡土郡が合併し糸島郡が発足したのを機に、糸島郡北崎村へと改称された。そして、1961年に元岡村、周船寺村とともに福岡市に編入され、現在に至る。
豊かな自然と悠久の歴史を強みとする地域特性は、糸島時代の名残を感じさせる。今でも北崎地区=糸島のイメージのほうが強いという人は少なくないだろう。一方で、福岡市に編入されたことにより、今後まちづくりが促進される可能性がある。
土地利用に関する規制緩和
福岡市では、少子高齢化をともなう人口減少などの課題を抱える市街化調整区域の活性化を図るべく、地域住民の合意の下、土地利用に関する規制緩和を行っている。具体的には農林水産業や観光業など、地域産業の振興に寄与する「地域産業振興施設」の立地が可能になるというもので、地元の生産者でなくとも同施設を建築することができる。
この規制緩和の対象地域は、北崎を含む市内8校区(東区:志賀島、勝馬/早良区:脇山、内野、曲渕/西区:北崎、今津、能古)に限られており、北崎では2020年、耕作放棄地(約2ha)をグランピングエリアとして再生した「唐泊VILLAGE」が誕生。運営を静岡県のベンチャー企業、VILLAGE INC.と西日本新聞社が設立した(同)西日本VILLAGEが手がけている。
新たな立ち寄りスポットの整備も進んでいる。糸島の代表的な観光名所、桜井二見ヶ浦にほど近い西浦で計画されている「北崎地区立ち寄りスポット整備事業」がそれだ。同事業対象地の面積は6,134.19m2で、最低貸付料は年額900円/m2。トイレ整備に必要となる井戸水、合併浄化槽の設置にかかる費用については、それぞれ2,274万2,000円(税込)、2,755万8,000円(同)を上限に、市が負担する。新たな立ち寄りスポットの施設運営は、地方創生事業などに取り組む、(株)デジサーフ(神奈川県藤沢市)が担う。
立ち寄りスポットは24年度中の供用開始を予定しており、計画地ではすでに東亜建設(株)(福岡市南区)による造成工事が始まっている。工期は今年8月8日までとなっている。
市の施策も手伝い、さらなる民間投資の誘発、交流人口の増加が期待される北崎地区。しかし、賑わいの創出はあくまでも観光地としての魅力向上に依るものであり、定住者の確保に関しては課題を残している。19年(12月時点)から24年にかけての北崎校区の人口は2,256人から2,053人まで減少(24年は3月末時点、公称町別は同5月末時点)。登録人口(公称町別)で見ると、小田515人→451人、宮浦721人→635人、西浦921人→853人にそれぞれ減少している(市公表資料参照)。
一方で、同じく規制緩和の対象校区である今津の校区人口は、19年の2,963人から3,148人へと増加している。両校区の違いはどこにあるのか──。
地元企業からは「たとえば、JR九大学研都市駅から今津まではタクシーで5,000円はかからない。しかし、北崎地区までとなるとそうはいかない」と、交通拠点との距離感を指摘する声が聞かれた。ここ1年の戸建開発計画を見ても、(株)ランドマーク(計画戸数4戸)や(株)エスクロー(同64戸)など、今津での開発は散見されたが、北崎地区では目立った計画は見られなかった。北崎地区も昭和バスの西の浦線が通るなど、交通網がまったくの未整備というわけではないが、週末に訪れる場所ではなく暮らす場所として考えた場合には、十分とは言い難いのだろう。
コロナ禍にリモートワークを導入し、そのまま在宅勤務が定着した企業もある。働く場所を選ばないノマドワーカー、なかでも自然回帰を志向する人たちに対して、北崎地区の誘客施設が充実した自然豊かな地域という特性は強みになる。空き家の活用や官民連携による居住支援体制の構築などに取り組むことで、隣接する今津のように人口が増加に転じるポテンシャルは十分にあるはずだ。
【代源太朗】
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