「商業施設」の現在地(前)コロナ禍で何が残った?(1)
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商業施設は近年、大きな変化を求められている。かつてはショッピングの場として私たちの生活に欠かせない存在だったが、その重要性と役割が大きく変わってきているのだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、さらなる魅力的な場所へ。そして『サードプレイス(※)』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。
※サードプレイス:自宅、「職場・学校」に次いで第三となる居場所のこと
商業施設は休めるところが少ない
街にはダラダラできる場所が少ない。パーソナルとパブリックでいえば、街は後者だからだ。商業施設は今後、そこに商機がある。かつては“買い物のついでに休む”でよかったが、今は“休むついでに買い物をする”だ。
ただ、商業施設のなかでそのような場所は少ない…いやダラダラできる余剰の空間は、ほとんどないのが現状だ。買い物は、はっきり言ってどこででもできるようになってきていて、社会のニーズはもうそちら側にシフトしている。それに気づかなければ、“商業”の行く末は暗い。極端にいえば、商業施設は休む場所に変わらなければならないのだ。スターバックスコーヒーは、その戦略が早かった。たった1,000円程度で、2時間3時間滞在できる。他の飲食店でもそのようにできないことはないが、“商業”は常に回転率を上げていくことを前提に考えるから、スタバほど居心地は良くない。そもそもここは長居してもらうような店づくりをしていて、ソファもゆったり、おしりが痛くならない。だから人気が高く、人が集まる。
“商業”の役割やデザインは、時代に合わせて進化してきた。現在、商業施設が目指すべきトレンドは、「サードプレイス」としてのポジション取り。スタバは当初からそこを目指していたが、ようやくその価値と役割が広く認知されてきたといえる。消費者は単に買い物するだけではなく、居心地が良く長居ができて、自分の時間を潤わせてくれる有意義な場所を求めている。それと同時に、ライフラインとしての役割も期待されてきている。公共サービスの維持がどんどん難しくなってきている昨今、どの産業でも民間の力が必要になっている。公教育、病院(地域医療)、役所、図書館、公園など、まず大きなところから民間の知恵と動員が入ってきている。商業施設は、パブリックな機能をはたしながらパーソナルな存在感を内包させた、「サードプレイス」になるステージにきているのだ。
進化するリアル店舗
消費者は、目的に応じて購買方法を使い分ける。サードプレイス化するためには、ショッピングのみならず、その施設にわざわざ行く目的・価値をいかに数多く提供できるかが重要となる。肉や魚のように、そのときの鮮度によって陳列が変わるような店舗や、そこでしか食すことができない“飲食”という業態(体験価値)は依然優位性が高い。「今日はどんな魚が入ってる?」「明日は〇〇が食べたい!」…リアル店舗に足を運ぶための動機ははっきりしている。
「ショールーミング」はリアル店舗で商品を実際に確認してからEコマースで購入するスタイルだが、事業者はリアル店舗を商品の認知やブランド体験の場としても準備しなければならない。コロナ禍でアパレル店舗の減少ペースが早まっているが、サービス・エンターテインメントといった物販以外の業態が、5年で10%以上増えたのは、商業施設の顔が“服からエンタメ”に代わろうとしている予兆の1つだろう。
ネット通販の普及などにともない、“そこでしかできない体験”“過ごした時間”という価値を提供すること、モノを売る機能にとどまらない体験など「コト消費」の場としての役割が増している。昨今は「商品を売らないテナント」も勃興しているが、ショッピングセンターなど商業施設のテナントの主役が代わりつつある今、リアル消費につながる切り口の1つとして、リアルとネットを行き来できる回遊性と消費者との接点をつくり出すことが、求められているのだ。
商業施設は新しい目的地となれるか
商業施設が新しい目的地となるためには、「品ぞろえと価格」だけでは不十分である。多種のものをそろえたからといって、必ずしも人がそこに集まる時代ではない。モノで釣った客はモノがなくなると来なくなるし、他店へも簡単に流れてしまう。そこにいる時間がどれだけ豊かなものになるかが問われるので、店に常日頃からきたくなるような体験価値を提供することが重要なのだ。
来店して買い物して終わり…ということではなく、滞在時間を長くするような仕掛けも必要となるだろう。顧客は料理だけではなく、一緒に行く人を決める時間やレストランで過ごす時間、空間を含めた楽しい記憶があるからこそ、わざわざレストランに足を運んでいる。この消費行動の前後における主体的行為のエッセンスは、飲食にとどまらず広く業態へ展開されていかなければならない。
それでも商業施設は、私たちの生活に欠かせない存在だ。その重要性と役割が大きく変わってきているだけだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、「商業施設+α」の特別な場所へ、そして『サードプレイス』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。
コロナからの回復
ここ数年、企業がSNSを活用して、消費者と接点をもつようになってきている。PRマンガやTikTok売れなど、従来の販促広告に取って代わってきている。今後メタバースの進展によって、VRコマースも普及していくかもしれない。Eコマースの進展は、ラストワンマイルの在り方を多様化させた。米国発の「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」とよばれるサービスがさまざまな業種・業態で普及してきているが、Eコマースはもはやリアル店舗の売上高減少を補う単なる補完機能ではない。オンラインとオフラインを融合させ、個々の消費者に最適なサービスを提供することで、新たな顧客体験の提供ができる、また顧客満足度の向上を目指すための重要な戦術となっているのだ。
日本は40年ほど前の「高度経済成長」のころの“モノがあふれる時期”を経験し、形あるモノの所有や消費から“心が満足される体験”を消費しようとするフェーズに突入している。現代は単なる「個人的な体験」ではなく、体験する瞬間やそのときの他人との関わりを見出そうとする「時間の過ごし方」が重視されるようになった。たとえば「商業施設+ゆっくり休めるところ」「商業施設+スポーツができるところ」「商業施設+自習室として使えるところ」etc…。<モノ消費→コト消費→トキ消費>といった言葉に象徴される消費者意識の変化から、消費の場所としての「店舗」はそれらの在り方に対応していかなければならない。
(つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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