「商業施設」の現在地(前)コロナ禍で何が残った?(2)
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商業施設は近年、大きな変化を求められている。かつてはショッピングの場として私たちの生活に欠かせない存在だったが、その重要性と役割が大きく変わってきているのだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、さらなる魅力的な場所へ。そして『サードプレイス(※)』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。
※サードプレイス:自宅、「職場・学校」に次いで第三となる居場所のこと
コロナで何が生まれたのか
食は日常生活のなかで1日3回接点をもつ。間食や飲料まで入れれば、もっと多いだろう。ほとんどの生活者は、この1日何回かの食を何らかのかたちで購入している。スーパーマーケットで、コンビニで、カフェで、レストランで、さまざまな接点で食を得ている。ちなみにわざわざ時間をかけて店に行かなくても、自宅でおいしいものを食べられるご時世。冷凍の技術も格段にレベルが上がったし、配送時に品質を落とさず運べる技術や輸送時間の短縮、もちろん各地域で手に入る食材のクオリティーや料理レベルも高い。何よりプロの食事を自宅に運んできてくれる時代。品質の高い食の接点は多様にある。
商業施設や店舗の成長を考える際、「食」は大きなトリガーとなる。アパレルもサービスもエンターテインメントも、この「食」を取り入れた横展開で、客の採択のスタート地点に立てる。食を通じた価値、たとえばイキイキとした高揚感や活気に溢れた雰囲気、目新しいフードやドリンクを発見する喜び、買い物時に人と会話する楽しさ、皆で一緒に食べる充実感、料理というクラフトの驚きなどは、コト消費、トキ消費を実践できるリアル店舗ならではの効果といえる。
コロナ禍の「三密回避」から派生し、商業施設・店舗が重視する立地が住宅地にシフトする潮流がみられた。とくに飲食業では、イートイン売上高の減少を補うためにテイクアウトやデリバリーを開始した事業者が多く、「ラストワンマイル」を制し競合優位性を確保するため、消費者に近く、消費者が多い立地への出店がカギとなった。また飲食業ではキッチンカー、食品スーパーやコンビニエンスストアなどでは移動販売車の活用、アパレルでは企業に出向いてオーダースーツ出張採寸など、販売チャネルを多様化し、顧客接点の場を増やしていく取り組みが生まれ、今では定常化されつつある。
コロナ禍における飲食事情
従来のレストランはビジネス戦略上、集客に適した立地がとても重要だったが、同時に家賃負担の問題も大きかった。コロナ禍で店舗をもたずに営業できるデリバリービジネスへの移行・参入は大きなトレンドとなり、飲食店におけるフードデリバリー業態やセントラルキッチン、賃料の安いエリアへ出店できるゴーストキッチンなど、事業展開の新しい選択肢になった。
店に行くと満員で行列に並ばなくてはならなかったり、目当ての料理が直前で売り切れてしまったり、時間を無駄にすることがあるが、こうしたサービスの提供と消費の同時性によって起こっていたリスクを回避するため、デジタルテクノロジーを使ってレストランの「負の制約」から、顧客と事業者を解放することもできた。これもコロナ禍の戦利品かもしれない(オンライン予約システム、リアルタイムの客入り映像、ダイナミックプライシング等の購買方法)。
プロの料理人はこれまで、料理を仕上げてすぐに食べてもらえるレストランという「箱」に最適化された料理をつくっていた。コロナ禍では、それを顧客に届くまで20分以上もかかるテイクアウトやデリバリーにチューニングし直す必要性に迫られた。レストランで食べる体験とはまったく異なるのに、同じ料理を提供していては、料理や店自体の価値が下がりかねないし、価格が同等なのも腑に落ちない。有効なのは空間で提供するものと分けて、デリバリーで提供する(もしくはネット通販、テイクアウト、お土産等)もの専用のサブブランドをつくることだろう。
ブランドを分けることで期待値の調整がなされるため、店側と消費者側でコミュニケーションのズレを防げる。なおかつその商品のアイデンティティーも見えてくるので、理想的だろう(これはアパレルやほかの業態でも学ぶことができるはず)。
顧客がネット通販のサブブランドからアクセスし、その後、実際の店に足を運ぶ逆の動きも期待できるかもしれない。事業者側も、オンライン上の商材をオフラインの場所で展示・ショールーム化させた空間をもちたいという流れもある。オンライン市場は世界中の人にアクセスしてもらえる半面、認知してもらうまでに相当な時間がかかる。一方、オフラインは顧客接点が限定されるものの、偶然通りかかった人に認知され、買ってもらえる可能性がある。それぞれに良さがあり、オンラインでしか買えない、オフラインでしか購入できないと制限を設けることで、最も高いシナジー効果となるはずだ。コロナ後、伸びている飲食店はおそらくこれをやっている。この「オンライン×オフライン」を交錯させた戦略こそ、コロナ禍によって生まれた大きな流れの1つといえるだろう。
コロナで何が残ったか
リモートワークの自宅でのランチ時、次のビデオ会議までに資料を仕上げていかなければならない。お腹も空いてきたが、料理をするには時間がない。カップ麺を食べるのも気が乗らないとき、フードデリバリーのアプリを立ち上げると、あらゆるジャンルのメニューが並んでいる。すぐさま好みの料理を注文し、決済も完了。あとは20分後に届くのを待つだけ。その間、仕事に戻ろう…
こんな行動は、かつてはいわゆるデジタルネイティブと呼ばれる若者たちだけの特権かと思っていたが、パンデミックが世の中の購買体験を変えた。リモートワークや子育てで忙しい世帯、これまでアプリで注文なんて苦手だと思っていた世代をも巻き込んだ。スマートフォンにはいつの間にか、いくつもの“フードデリバリー”や“ネットスーパー”のアプリが並ぶようになり、マクドナルドでもテーブルのQRコードから入って、無言の注文をするのが当たり前に。Amazonを使う頻度もいつの間にか多くなった。
すでに、経済活動を含めかつての日常が戻ってきた。観光業や飲食業も回復し、小売業やサービス業での消費者行動は、コロナ前の状況に戻りつつある。オンライン決済の文化も深耕し、野菜や肉や魚のような生鮮食品も、今ではネットショッピングでそろってしまう。オンライン診療で医療も買えるようになった。EC市場が拡大し、リアル店舗からECサイトへとシフトするケースもあれば、ECサイトが相乗効果を狙い、リアル店舗に展開する動きもある。さらにDX化や二極化が進むことも考えられ、消費者が求める新たな店舗のスタイルや、コト消費、トキ消費といったニーズの変化に対応できる店舗開発や空間再編が求められている。
商業施設がショッピングという役割を超えて、人々が集まり、交流し、楽しむ地域のコミュニティの拠点として介入できるところまできている。交流促進の場としてその空間利用が有効に働けば、商業施設は新しい目的地へと変貌できる。
単なる商品の陳列・販売場所ではなく、時間を共有する空間として認知されている実例がある。そこから介入のスタイルを学んでみたい。(つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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