「商業施設」の現在地(前)コロナ禍で何が残った?(3)
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商業施設は近年、大きな変化を求められている。かつてはショッピングの場として私たちの生活に欠かせない存在だったが、その重要性と役割が大きく変わってきているのだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、さらなる魅力的な場所へ。そして『サードプレイス(※)』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。
※サードプレイス:自宅、「職場・学校」に次いで第三となる居場所のこと
無印良品の戦略
JR直江津駅(新潟県上越市)から徒歩10分ほどの旧市街地にある直江津ショッピングセンターでは、2019年にイトーヨーカドーが撤退した。一時代前には家族連れなどでにぎわった商業施設だ。このショッピングセンターの2階部分に、良品計画が世界最大級の無印良品をオープンさせたのは20年。ロードサイドの商業施設に買い物客が流れる今、この立地条件で十分な集客を実現できるかという課題があったが、良品計画は地方の中心市街地の活性化に役立ちたい、という思いから出店を決断したという。
良品計画は検討を重ねた。広いフロアに無印良品の商品を並べるだけでは、地域の人たちに支持される店舗とはならないだろう。他社の商品も幅広く扱う、「社会的品ぞろえ」を充実させたい。そこから編み出されていったのが、コミュニティセンター型の店舗である。コミュニティセンターとは、地域社会のなかで住民などの交流の場となる集会所、図書館、学校などの公的施設が集積するゾーンであり、都市計画では街の中心部に計画的に配置したりする。「無印良品 直江津」は商業施設でありながら、地域社会の交流に貢献するコミュニティセンターとしての役割もはたす店舗を目指した。
そしてオープンした「無印良品 直江津」は、中央を100m以上の通路が貫く大型店舗となった。1階部分には、地元の食品スーパーが新たに出店したほか、既存テナントなどを引き継ぐ専門店街なども設けられた。無印良品ブランドの衣料品や食品、生活雑貨や家具などが並ぶ通常の売場に加え、スターバックスやカルディ、久世福商店といった、他社ブランドの人気テナントも出店している。
眠っていた需要を掘り起こす
オープン後の「無印良品 直江津」の業績は順調に推移した。想定以上に広いエリアからの来客もあり、当初1年間の売上も想定を上回る実績が出た。約1,500坪という当時世界最大級の広さを誇った「無印良品 直江津」は、国内売上の上位10%にランクインし、無印良品を代表する店舗の1つとなる。無印良品と地元の食品スーパーが核店舗となった商業施設の構想は、「地元で信頼されている食品スーパーの横などの生活圏に出店し、食品スーパーや協業他社とともに、その地域での生活圏コミュニティセンターを構成する。買い物の場だけではなく、人々の暮らしの場となる」という良品計画の中期経営計画に集約されていく。
従前、無印良品の出店は難しいと見られていたエリアだったが、地元の住民や生産者と一緒に話し合いを重ねた。地域にはどのような困りごとがあるのか、暮らしに何が足りていないのか、どのように街が変わっていって欲しいと願っているか。新しい店舗が既存の店舗と顧客を奪い合うのではなく、一緒になって地域を盛り上げていくにはどのようなスペースやサービスが望ましいか、それを店舗設計に反映するコミュニティセンター化によって、眠っていた需要をとらえることができた。
同時に「サードプレイス」への導入に成功した事例といえるだろう。医療機器を使った測定や健康相談が気軽にできる「まちの保健室」には調剤薬局も併設され、高齢者向けの体操教室などのイベントも随時開催される。イベントスペースとして設けられた「Open MUJI」は、イベントの開催時以外は無料スペースとして開放され、来訪客が自習や休憩に利用できる。さらに移動販売バスの「MUJI to GO」による中山間地での販売などによって、直江津ショッピングセンターを核にして、地域の課題解決にも取り組んでいる。
廃校を活用した挑戦も
都会の消費者をターゲットに成長してきた無印良品は、郊外や地方都市の消費者の生活圏には、これまでほとんど出店できていなかった。しかし、直江津で実現したように、それまで無印良品とは縁が薄かった顧客を、店舗のコミュニティ化によってとらえることが可能となるのであれば、その先には新しい成長機会が広がるのかもしれない。
24年7月に開業予定の「KITO FOREST MARKET SHIMOICHI」(奈良県吉野郡下市町)も、コミュニティの資産と小売業のノウハウを生かして、地域を最大限に価値化した挑戦だろう。23年3月に小学校としての役割を終えた「下市南小学校」を利活用するもので、カフェレストラン、マルシェ(直売所)、ショップ、ブルワリー、キッズスペース、ギャラリーなどを備え、地域の情報が集まる複合施設として生まれ変わった。
廃校を活用した複合型商業施設で、地域の人口、移住者の増加にもつながる賑わいの場所を目指すという。過密化した都市部を離れ、人影のないところに絞って出店。そこに集客できる理由を丁寧に編み込み、つくり出していく。辿り着きたい商業施設像は、単なる買い物をする場所という認識を超えて、『サードプレイス』として人々の生活に寄りそう存在だ。(つづく)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?
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