2024年07月27日( 土 )

新幹線や在来線を活用した新聞輸送の展望(後)

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運輸評論家 堀内重人

 読売新聞西部本社とJR九州は2024年6月28日、九州新幹線の荷物輸送サービス「ウルトラはやっ!便」を活用した新聞の号外輸送を開始すると発表した。輸送ルートは読売新聞鳥栖工場→新鳥栖駅→博多駅。JR九州が「緊急輸送もJRで解決!」とアピールしているように、従来のトラック輸送に比べ、約30分から60分の時間短縮になるという。両者は、その高速性と定時性の高さを生かし、重要なニュースを新幹線による輸送を活用することで、安定かつ迅速に届けられる以外に、トラック輸送からのモーダルシフトや環境負荷の低減などさまざまな社会的意義を実現するとしている。九州新幹線による「号外」の輸送と、第三種郵便である新聞に関する鉄道貨物輸送の今後について、考察したい。

読売新聞西部本社のコメント

 「号外」は、緊急時に発行されることから、人々の関心が高い。社会に大きな影響をおよぼすニュースと、読売新聞社が判断した場合、臨時に発行される。そして新聞社の社会的責任として、街頭で無料で配布している。

 読売新聞の西部本社は福岡市にあるが、約40km離れた佐賀県鳥栖市の鳥栖工場で「号外」を印刷している。刷り上がった「号外」は、従来はトラックで福岡市まで運び、JR博多駅などで配っていた。

 今回、「号外」をできるだけ迅速に運び、日本国民に配るために、九州新幹線の利用を決めた。

 2024年は、元旦から能登半島地震が発生し、翌2日には羽田で日本航空の旅客機が自衛隊機と接触するなどして、炎上する事故が発生した。それ以外に、プロゴルファーの笹生優花選手 が、メジャー2勝をした際に、「号外」を発行している。2024年は、そのような出来事以外に、パリ五輪・パラリンピックを控えている。

 当然のことながら、日本人選手の活躍が期待されることから、金メダル・銀メダルを受賞する選手が誕生する。このような出来事は、日本人に速やかに知らせる責務がある。

 そこで九州新幹線を活用して、「号外」を輸送することは、「号外」をトラックよりも迅速に日本人に届けることにつながると、読売新聞西部本社は考えている。

 JR九州の「ウルトラはやっ!便」は、法人向けのサービスであり、博多から熊本や博多から鹿児島中央の下りの2区間だけで実施している。新鳥栖から博多であれば、九州新幹線の上り区間に該当し、かつJR九州の実施区間には指定されていない。今回はJR九州と読売新聞西部本社が打ち合わせて特例で実施が開始されたと思うが、その件に関する回答は得られなかった。

かつて盛んであった鉄道による新聞輸送

新聞輸送 イメージ    昭和の時代は、日本各地で鉄道による新聞輸送が実施されていた。夜行列車に荷物車・郵便車を連結して、主要駅などへ停車すると、荷物車から大量の朝刊が降ろされていた。九州でも、門司港~長崎・佐世保間で運転される、普通「ながさき」という夜行列車が、1984年1月末まで運転されていた。長崎行きは鹿児島本線、長崎本線、佐世保線、大村線、長崎本線を経由して運転され、佐世保行きは早岐で切り離されて、大村線で佐世保へ向かっていた。

 普通「ながさき」には、普通の座席車以外に長崎行きには寝台車が1両連結されていたが、荷物車と郵便車も連結されており、朝刊を輸送する任務も担っていた。朝刊の輸送に関しては、高速道路の発達などもあり、トラック輸送に置き替わっただけでなく、旅客輸送も自家用車の普及、高速バスの発達、昼間の特急列車の充実もあり、夜行の旅客輸送も減ってしまい、廃止されている。

 新聞は、先ほども述べたように、第三種郵便物であるから、利益率が良くない上、集配システムもトラックで輸送するようなシステムに変更されているため、無理をしてまで鉄道で輸送する必要がなく、トラックで輸送すれば良い。これは第一種郵便や第二種郵便も同様であり、かつては郵政省が郵便車を製造し、国鉄が郵便車を管理していたが、84年2月1日のダイヤ改正で、鉄道郵便の輸送を廃止してトラックに切り替えた。そうなると鉄道郵便を復活させるとなれば、日本郵便が郵便車を製造する必要が生じる。また、昨今は駅前に郵便局がなくなっている都市が多く、それであれば最初からトラックで輸送したほうが良いといえる。

 だが最近では、トラックドライバー不足や、道路交通渋滞、環境問題の顕在化もあり、名鉄などでは、駅構内の売店で販売される新聞などを、自社の鉄道で輸送する試みがみられる。この場合、別途に荷物車や荷物電車などを用意するのではなく、旅客スペースの空いた部分に新聞を積み込んで輸送を行う。夕刊であれば、午後2時ごろに輸送され、夕方のラッシュアワーではないため、車内が混雑するような問題は生じていない。

総括

 新聞などの第三種郵便物は、政策的に運賃が抑えられ、利益率が低いこともあり、高速道路やトラック輸送が発達した今日では、昭和の時代のように鉄道で輸送することが、主流になることはないと考える。

 これは利益率が高い第一種郵便物や第二種郵便物も同様であり、鉄道郵便が廃止されているため、鉄道で第一種郵便物や第二種郵便物の輸送を復活させるとなれば、日本郵便が郵便車を製造するなど、集配システム自体を大幅に変更せざるを得ない上、中央郵便局も駅前から郊外へ移転した都市も多く、今後もトラック輸送が担うことになる。

 「号外」のように、喫緊に輸送する必要がある場合、新幹線で輸送すれば輸送コストがかさむ上、無料で配布する新聞ではあるが、自社のイメージアップにつながることもあり、今回、読売新聞西部本社が九州新幹線を使用するかたちで実現した。

 それ以外での鉄道を活用しての新聞輸送だと、駅の売店などで販売する夕刊を、自社の鉄道の空きスペースを活用して輸送するなどの限られたケースとなるだろう。

 今回の九州新幹線を活用した「号外」の輸送は、JR九州と読売新聞西部本社の思惑が合致した結果、誕生したといえる。そのため、他の新幹線やほかのJRで実現するかどうかは、不透明だといえよう。

(了)

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