2024年11月22日( 金 )

【クローズアップ】高齢者・外国人の増加で労働災害も増加 根底には人手不足問題

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 全国の労働災害による死傷者数(休業4日以上の労働災害にあった人)は、2009年まで減少傾向にあったが、それ以降増加に転じ、2023年は2000年以降で過去最多となった。労働災害の内容を見てみると、労働力人口の高齢化と外国人労働者の増加による現状と課題が見えてくる。

全国では死傷者数増加も
死者数は減少傾向が続く

 厚生労働省が発表した2023年の労働災害による死傷者数は前年比102.3%の13万5,371人で2000年以降最多、3年連続の増加となった。一方で、死者数は755人で6年連続の減少となった(新型コロナウイルス感染症への罹患によるものを除く)。

 死傷者数を業種別でみると、その他の三次産業を除き件数の多い順で、製造業が2万7,194人(前年比101.9%、500人増)で構成比2割を占める。次いで、陸上貨物運送事業が1万6,215人(同比97.8%、365人減)、小売業が1万6,174人(同比98.5%、240人減)、建設業が1万4,414人(同比99.1%、125人減)と続いた。

 事故の型別では、転倒が最多で3万6,058人(同比102.2%、763人増)、動作の反動・無理な動作(腰痛など)が2万2,053人(同比105.6%、1,174人増)、墜落・転落が2万758人(同比100.7%、138人増)と続く。
 死亡者の業種別では、その他の三次産業を除き、建設業が、223人で最多(前年比79.4%、58人減)となり、構成比で29%を占めた。次いで、製造業が138人(同比98.6%、2人減)、陸上貨物運送事業が110人(同比122.2%、20人増)と続いた。

 死亡者の事故の型別では、墜落・転落が204人(同比87.2%、30人減)、交通事故(道路)が148人(同比114.7%、19人増)、はさまれ・巻き込まれが108人(同比93.9%、7人減)の順となった。死亡者数が最も多い建設業のなかでは、建築工事が98人、土木工事が87人、その他の建設業が38人となり、それらすべてで昨年を下回っている。

福岡県では死傷者数が2年ぶりに増加
死者数も前年比大幅増加

 福岡県で見ると、福岡労働局発表で23年の死傷者数は前年比106.1%の6,077人と2年ぶりの増加となった。また、死者数も近年最小だった22年の20人から23年は33人と大幅に増加している。全国の傾向と同様に、死傷者数は09年を境に増加傾向にあり、死亡者数は長期的に減少傾向を維持している。

 死傷者数の業者別では、第三次産業に含まれる卸・小売などの商業が最も多く、1,129人(前年比111.0%、112人増)、次いで製造業が1,010人(同比109.2%、85人増)、運輸交通業が822人(同比96.5%、30人減)、建設業が628人(同比101.6%、10人増)と続く。

 死亡者の業種別では、建設業が12人(同比133%、3人増)うち建築工事が8人、土木工事が4人となっている。次いで製造業が9人(同比900%、8人増)、運輸交通業が5人(同比166.6%、2人増)となった。

 死亡者の事故型別では、墜落・転落が10人(同比125%、2人増)、はさまれ・巻き込まれが5人(前年0人)、崩壊・倒壊が5人(前年比500%、4人増)、飛来・落下が4人(前年0人)となった。

福岡県における労働災害
23年の主な死亡事故

 福岡県で最多となった建設業の死亡事故のケースを数件あげてみる。

玉掛け作業で落下

 23年3月、福岡市内の工事現場で起こった労働災害事故では、現場作業中だった男性労働者が鉄製資材の下敷きになり死亡した。死因は出血死だった。この事故で福岡中央労働基準監督署は、死亡した労働者の勤務先およびその職長を24年6月に労働安全衛生法違反の容疑で福岡地方検察庁に書類送検した。職長には無資格の労働者を移動式クレーンで鋼矢板を貨物自動車に積み込む作業(荷外し)に従事させた疑いがある。当該労働者はトレーラー荷台上へ移動式クレーンを使用して荷(シートパイル1束)を積み込む作業を行っていた。荷台上で荷の玉掛けを外しフックを巻き上げたところ、フックにかかっていたワイヤーロープが荷に引っ掛かり、崩れたシートパイルの束とともに荷台から地上へと落下し、シートパイルと地面の間に挟まれ死亡した。本来、つり上げ荷重1t以上の移動式クレーンを使用して玉掛け(荷掛け・荷外し)業務に従事するには、玉掛け技能講習を修了していなければならない。

掘削作業で生き埋め

 23年6月には、福岡市内のマンション建設現場で起こった労働災害事故で、現場作業中だった男性労働者が土砂崩れで生き埋めとなり死亡した。当該労働者はマンション新築工事現場にて深さ約4mほどの穴に入って掘削していたところ、地山が崩壊し土砂が流入し生き埋めとなった。

斫り作業で下敷き

 23年9月には、福岡県那珂川市内の工事現場で起こった労働災害事故で、現場作業中だった男性労働者がコンクリートの下敷きとなり死亡した。当該労働者は下請でコンクリート削り・切断などを行う斫り(はつり)工事業者の従業員。工事がほぼ完了していた店舗の床を20cm削る手直し工事の最中に起こった事故だ。当該労働者は、土間コンクリート梁(長さ約12m、重量約15t)の下で斫り作業を行っていたところ、その梁が落下し下敷きとなった。斫り業者によると、事故当時の詳細な状況は不明ながら当時「建物はジャッキアップされていなかった」としている。元請企業は「企業大学」という教育プログラムを有し、資格取得から外部講師を招聘するなど在席年数に応じた多彩なメニューを有している。人材育成に注力していたはずが、事故を防ぐことはできなかった。現場責任者がほかの現場を掛け持ちしており、人手不足が直撃したかたちだ。

清掃作業で落下

 23年12月には、福岡県糸島市の建築工事現場で、現場作業中だった作業員が3階建て建物において、2階庇から3階窓の屋外清掃作業を行っていた際に、地上に墜落し死亡する事故が発生した。事故現場は地上約7mの高さで、労働安全衛生法では事業者は労働者が墜落する恐れのある場所には、囲いや手すり、覆いなど必要な措置を講じる義務があるが、災害発生当時には墜落を防止するための措置が講じられていなかった。この事故で、福岡中央労働基準監督署は当該作業員の勤務先および職長を労働安全衛生法違反の疑いで24年7月19日に福岡地方検察庁に書類送検した。

高齢労働者の増加
労働災害も増加傾向

 少子高齢化にともなって国内での高齢労働者の就業率が高くなり、22年の段階で60代後半でも半数以上が、70代前半でも3割以上の人が就労している。高齢者が雇用者全体に占める割合は23年では60歳以上が18.7%であるのに対して、労災による死傷者数では29.3%を占めており、高齢者の労災の急増が、労災全体の増加の原因であることがわかる。高齢者の割合が高まり、「転倒」や「動作の反動・無理な動作」による「腰痛」などの被災者が増加していることが背景にある。また気温の上昇で、職場における熱中症の死傷者数も大幅に増加しているが、50歳以上が半数を占めており、こちらでも高齢化を踏まえた対策が求められる。

 業種別で見ていくと、社会福祉施設、小売業、飲食業では、いずれの業種でも3割くらいが転倒による災害となっており、高齢労働者の増加、なかでも中高年齢の女性労働者の増加が労災件数の増加につながっていると見られる。とくに社会福祉施設は18年と比較して23年は47.2%増と著しい。

外国人労働者の高い労災率
安全対策に課題

 次に、外国人労働者について見ていくと、労災の発生率が全労働者の平均より高いことも注目される。1年間に1,000人の労働者あたり死傷災害が何件発生したかを示す割合を「死傷年千人率」という。23年の全労働者の労災の死傷年千人率は2.36になっている。これに対し、同年の外国人労働者の死傷年千人率は、在留資格別に見ていくと、定住者や永住者などが3.67、技能実習生が4.1、特定技能が4.31などと高く、外国人労働者全体では2.77となっており、全労働者と比べて労働災害に遭う確率が高くなっている。

 外国人労働者の労災発生率が高いのは、コミュニケーションが十分に取れていないことや、なかには企業が労働者の安全を軽視していることも考えられる。外国人は労働環境によっては「低賃金の労働者」として、企業のコストカットの要員とされることが多い。そのため、安全対策にまでコストカットがおよんでいる場合もあることが推察される。また、外国人労働者は現場主力としての役割を与えられながら、安全教育が十分に行われなかったり、操作する機械などに安全装置がない、保護具が与えられないなど、法令で求められる安全性が満たされない環境で働かされることも発生している。

「第14次労働災害防止計画」を策定
労働災害増加の歯止めを

 厚生労働省は、23年3月、第14次労働災害防止計画を策定した。労働災害防止計画は、戦後の高度成長期における産業災害や職業性疾病の急増を踏まえ、1958年に第1次の計画が策定された。その後、社会経済の情勢や技術革新、働き方の変化などに対応しながら、13次にわたり策定されてきた。

 この間、国や事業者、労働者などの関係者が協働して安全衛生活動を推進する際の実施事項や目標などを示して取り組みを推進したことで、労働現場における安全衛生の水準は大幅に改善された。しかし、近年は前述のように労働者の高齢化などを要因として死傷者数が増加傾向にある。

 このような状況を鑑み、労働災害を少しでも減らし、労働者1人ひとりが安全で健康に働くことができる職場環境の実現に向け、国や事業者、労働者などの関係者が目指す目標や重点的に取り組むべき事項を定めたものが、第14次労働災害防止計画だ。

 計画は23年度から27年度までの5カ年で計画されており、計画の方向性として、以下の3点を挙げている。①事業者の安全衛生対策の促進と社会的に評価される環境の整備を図る。そのために、厳しい経営環境などさまざまな事情があっても安全衛生対策に取り組むことが、事業者の経営や人材確保・育成の観点からもプラスであると周知する。②転倒などの個別の安全衛生の課題に取り組む。③誠実に安全衛生に取り組まず、労働災害の発生を繰り返す事業者に対しては厳正に対処する。

 上記を踏まえ、8つの重点対策を掲げている。①自発的に安全衛生対策に取り組むための意識啓発。②労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進。③高年齢労働者の労働災害防止対策の推進。④多様な働き方への対応や外国人労働者などの労働災害防止対策の推進。⑤個人事業者などに対する安全衛生対策の推進。⑥業種別の労働災害防止対策の推進。⑦労働者の健康確保対策の推進。⑧科学物質などによる健康障害防止対策の推進。これらにより、死亡災害を5%減少させ、死傷災害の増加傾向に歯止めをかけ27年までに減少させることを狙う。

 来年の25年には75歳以上の後期高齢者が人口全体の約18%を占めると予測される。今後、労働力人口は、ますます若年労働者が減り高齢労働者が増えることによって、高齢化率が上昇を続けることが見込まれている。高齢者層が増加しすぎると、社員教育を担う適切な年齢層が不足し、安全面も含めた労働者の教育が疎かになる事態も起こり得る。実際に、しっかりと指導ができないまま現場に出す事態も発生していると聞く。根底には人手不足があり、技術の継承にも大きな課題となる。今後さらなる増加が予想される高齢労働者と外国人労働者への労働災害防止対策が急務だ。

【内山義之】

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