2024年08月02日( 金 )

福岡・主要5河川と都市排水の整備に「流域治水」(後)

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河川整備が順調に進む、
福岡市内の主要5河川(つづき)

室見川

室見川
室見川

 室見川は、福岡県と佐賀県の県境となる脊振山地の井原山を水源とし、福岡市の主要水源である曲渕ダムに注いだ後、椎原川、竜谷川、日向川、金屑川などを合わせて博多湾に注ぐ幹川流路延長約16.3km、流域面積約99.3㎞2の二級河川である。

 過去には、1963年の福岡大水害で大規模な氾濫が発生し、周辺地域に甚大な被害をもたらしたことのある室見川では、63年度から68年度にかけて川幅拡幅などの河川改修を実施。だが、室見川における河川整備は昭和期にすべて完了しており、以降は河底の浚渫などを除いてはとくに河川整備は行われていない。幸いにして以降の氾濫は確認されていないものの、近年の豪雨発生時には室見川もあわや氾濫というまで水量が増加したケースもあり、今後の氾濫発生を未然に防ぐためにも河川整備の必要性が高まっている。

 そこで福岡県では、室見川において河川法に基づく河川整備基本方針の策定を行うにあたり、24年3月に学識経験者から意見を聴取するための河川整備基本方針検討委員会を開催するなど、現在、河川整備基本方針の策定を進めているところだ。

流域全体の関係者が協働し、
水災害リスクの増大に備える

 前述したように市内5河川では、治水のための河川整備が順調に進んではいる。だが、県土整備部河川整備課の担当者は、「毎年のように豪雨災害が発生し、しかも年々激甚化していっているような現状を鑑みると、さらなる水災害リスクの増大に備えて、今後は河川整備などのこれまでの治水対策だけでなく、『流域治水』を進めていく必要があるでしょう」と話す。

 流域治水とは、気候変動による水災害リスクの増大に備え、流域全体のあらゆる関係者が協働して水災害対策を行う考え方のことを指す。その対策は、①「氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策」、②「被害対象を減少させるための対策」、③「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」の3つの柱からなり、実施にあたってはこれら①~③をハード・ソフト一体で多層的に進めていく方針としている。

 ①の対策は主に、河川からあふれる水を減らす対策で、具体的には「河道改修」「ダムの事前放流」「透水性舗装の実施」「排水機場の整備」「田んぼダム」「ため池の有効活用」「公園・グラウンド貯留」「建物の敷地における対策」など。②の対策は主に、住まい方の工夫などにより被害を減らす対策で、具体的には「立地適正化計画の策定・見直し」「建物の耐水化」など。そして③の対策は主に、避難などにより被害を減らす対策で、具体的には「排水ポンプ車の配置」「ハザードマップの作成・公表」「防災意識の啓発」「防災情報の周知」など。これら流域治水の3本柱により、あらゆる場所であらゆる関係者が協働して、水災害リスクの増大に備えたさまざまな対策を講じていくというものだ。

 福岡県内の4つの一級水系と52の二級水系では、国、県、市町村からなる「流域治水協議会」を設置しており、流域治水を計画的に推進するための協議・情報共有などを実施。また、治水対策の全体像をわかりやすく“見える化”した「流域治水プロジェクト」や、流域内の雨水を一時的に貯留・浸透させることで河川への流出抑制を図ることのできる施設(ため池、水田、公園、グラウンドなど)を抽出した「流域対策実施計画」などを作成し、流域治水の取り組みを推進している。

御笠川水系御笠川他洪水浸水想定区域図
(想定最大規模)

 ちなみに、「ハザードマップの作成・公表」や「防災意識の啓発」などに役立ててもらうべく、福岡県県土整備部河川管理課では、県管理のすべての河川(御笠川放水路は対象外)で洪水浸水想定区域図を公表している。洪水浸水想定区域図とは、水防法の規定に基づき、河川が氾濫した場合に浸水が想定される範囲や浸水深などを示した図面のこと。洪水時における住民等の円滑かつ迅速な避難の確保を目的に水害リスク情報として公開しているもので、浸水深さを0.5m未満~20.0m以上まで6段階で色分けするほか、浸水継続時間や家屋倒壊等氾濫想定区域の範囲などを表示している。福岡県ではこの洪水浸水想定区域図を18年4月から公表しており、今後は河川や土地の状況が大幅に異なった場合などに更新を検討することとしている。

 なお、この洪水浸水想定区域図は、各市町村が地域防災計画やハザードマップを検討・作成するための基礎資料となるもので、こうした洪水浸水想定区域図などに基づき、たとえば福岡市では洪水ハザードマップおよび内水ハザードマップを作成・公表している。洪水と内水の違いは、河川から水があふれるケースが「洪水(外水氾濫)」で、都市に降った雨が下水道などから河川などに排水できずに発生するものが「内水氾濫」であり、いずれも都市の浸水を指すものだ。福岡市では20年6月に市内7区それぞれの洪水ハザードマップを作成・公表しているほか、20年6月に博多駅周辺地区、24年5月に天神地区の内水ハザードマップが市道路下水道局から公表されている。

 こうしたハザードマップを活用しながら、市民1人ひとりには避難所の位置や避難ルートの確認などの日ごろからの備えが求められるとともに、事業者などには水害時のBCP(業務継続計画)の作成や事業所の浸水防止対策などが求められる。

(了)

【坂田憲治】

(中)

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