2024年08月02日( 金 )

ヒトはAIとの競争に勝てるのか?

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 NetIB-Newsでは、「未来トレンド分析シリーズ」の連載でもお馴染みの国際政治経済学者の浜田和幸氏のメルマガ「浜田和幸の世界最新トレンドとビジネスチャンス」の記事を紹介する。
 今回は、8月2日付の記事を紹介する。

イメージ    日本政府はAI規範づくりやイノベーションにおいて中国とどう向き合うか、複雑な対応を迫られています。岸田政権は基本的には中国を含む国際社会との協力や対話を重視する立場です。とくに、AIやロボティックスに関する規範や倫理的枠組みに関しては、中国抜きにはあり得ないとの認識を有しています。

 問題は、そうした認識をぐらつかせるような言動が中国から発せられていることです。とくに、技術競争や移転、はたまた安全保障上の懸念が存在しているため、日本政府も日本企業も中国のAI政策には細心の注意を払っています。

 一方、マイクロソフトは中国との関係においても独自の視点と関与の歴史をもっています。データセンターにしても日本よりはるかに早く中国に建設、稼働させてきました。また、2016年、中国の政府系のメディアとの間でデジタル化を進める契約を締結。要は、中国政府のプロパガンダの一翼を担ってきた側面もあるわけです。

 言い換えれば、中国の官製メディアはマイクロソフトの支援を受け、読者にどのような切り口で記事を提供すれば受け入れ易くなるかを学習してきているといえます。ということは、昨今話題となっている中国発のフェイクニュース、とくにアメリカの大統領選挙に関連するような記事の作成ノウハウはマイクロソフトから学んだ可能性も大いにあるわけです。

 中国はAI を駆使し、2024年11月のアメリカの大統領選挙に関してもすでに深く静かに関与しているようです。アメリカの有権者になりすまし、政治的プロパガンダを拡散しています。 マイクロソフトによると、中国が背後で操る偽のソーシャルメディア・アカウントのネットワークが稼働しており、選挙結果を左右する危険性も生まれている模様です。

 中国公安部は最新のAI技術を活用し、アメリカの有権者を模倣し、これまでよりも「目を引くキャンペーン」を展開しているというのです。過去の偽画像は、デジタルの図面、ストックフォトのコラージュ、およびその他の手作業のグラフィックデザインに依存していました。

 ところが、最新のマイクロソフトの分析によれば、「中国の作成している画像は、AIを使用して魅力的な画像を作成するだけでなく、時間とともにそれらを改善する方法を学習するディフュージョン駆動型の画像生成器によって作成されたものと推察できる」とのこと。マイクロソフトが感心するレベルまで、中国のAI技術は進化を遂げているのでしょうか。

 この4月、マイクロソフトの脅威分析センターは「中国がAIを利用したサイバー攻撃および情報操作を強化している」と警告を発しました。それによれば、中国はアメリカ、韓国、インドなどの選挙にも影響を与えようとしているとのこと。2024年1月の台湾の総統選挙でも中国による介入が確認されています。

 このままでは、アメリカ人の思考回路もコントロールされかねません。新たな脅威として成長する恐れが急速に高まっており、そうした中国の進化するAI技術の背景にもマイクロソフトの関与が指摘されているわけです。その真偽をめぐっては議論もありますが、実に皮肉な因果関係といえなくもありません。そして、同様の危険は日本にも降りかかってきています。マイクロソフトは検索サービス「Bing」を通じて信頼できる選挙情報を提示すると述べていますが、その効果は完ぺきの域には達していません。

 要は、生成AIは時間とともに「より賢く」「より説得力をもつ」方法を学ぶのです。このままでは選挙はいうにおよばず国民の生活全体をコントロールする見分けのつかないプロパガンダ・キャンペーンに成長する可能性も十分にあります。

 AIが人間を凌駕するシンギュラリティの到来が間近に迫っているわけで、早急な対策が欠かせません。しかも、AIとロボット化が一体化すれば、とてもヒトの力では太刀打ちできないものになるはず。中国は去る7月、カンボジアで実施した軍事演習「ゴールデン・ドラゴン」でライフル銃を構えたロボット兵士犬を登場させたばかり。状況把握も命中精度も人間兵士をはるかに上回る能力を誇示していました。実は、米軍も2039年までには兵士の3分の1はAIロボットに変身させるとの計画を進めているとのこと。ヒトの未来はいよいよ危険なカウントダウンが始まっているのかも知れません。


著者:浜田和幸
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