2024年12月22日( 日 )

孫請業者へ直接払いの可否

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岡本弁護士
岡本弁護士

    インバウンド消費が好調で景気が良い業界がある一方で、2024年上期の倒産件数は、前年同期比約22%増で、全国で5,000件に迫る水準だったと報道されています。建設業も資材価格の高騰や人手不足の影響を受け、倒産件数は前年同期比15~20%程度の増加で900件を超えたようです。

 人手不足を背景とする工期の延長、完工時期の遅れにより、支払い時期も延期になり、孫請以下の資金繰りの悪化にも影響しているようです。

 さて、このような状況でよく受ける相談として、下請業者が孫請業者に工事代金を支払わないので、元請業者として直接、孫請業者に立替払いをしても良いのかというものです(逆の立場から、孫請業者が、元請業者に直接請求できないかという相談もあります)。

 数次の下請がされている状況で、途中の下請業者が倒産等してしまうと、代金をもらえない孫請業者が連鎖倒産に追い込まれ、工事がストップしてしまう危険があります。そのため、元請業者としても孫請業者に直接支払いをして、現場を円滑に回そうと考えるのは当然のことかと思います。しかし、法的な観点から見ると問題があります。

 破産法や民事再生法は、債務者(下請業者)の支払停止等の後に、その事実を知りながら、債権者(元請業者)が取得した債権(下請業者への立替金の求償)と、従来からあった債務(下請工事代金)を相殺することを原則として禁止しています。

 ただし、例外として破産者・再生債務者(下請業者)との間の契約に基づき、債権(立替払金請求権)を取得した場合は相殺が可能としています。

 元請業者と下請業者との間の請負契約において、下請業者が孫請業者に対する労務費等の支払いをしない場合に、元請業者が孫請業者にその労務費などを立替払いすることができる旨の条項(立替払条項)と、孫請業者に立替払いしたことによる金額を下請代金から控除することができる旨の条項(相殺条項)が規定されることがあります。この点について、このような条項の合理性・必要性と社会的相当性を認めて相殺を認めた裁判例があります。そのため、まずは自社で使用されている工事請負契約書に、立替払条項・相殺条項があるかご確認ください。

 なお、破産等の開始決定後に立替払いをした場合には、相殺禁止の例外の適用がなく相殺ができませんし、工事が完成した後であり、もはや孫請業者による続行工事の必要性が残っていないような場合に、元請業者があえて孫請業者に対する立替払をして相殺を行うことは許されないと述べる裁判例もあります。そのため、条項が存在しても立替払いする時期次第で相殺できないこともありますので、ご注意ください。

 また、そもそも立替払条項が存在しない場合には、「支払停止」等の後の立替払いは、相殺禁止に抵触してしまうことにもなりかねませんが、早急に破産管財人などと協議することで、打開策が生じる場合もありますので、あきらめずに協議してみましょう。


<INFORMATION>
岡本綜合法律事務所

所在地:福岡市中央区天神3-3-5 天神大産ビル6F
TEL:092-718-1580
URL: https://okamoto-law.com/


<プロフィール>
岡本成史
(おかもと・しげふみ)
弁護士・税理士
岡本綜合法律事務所 代表
1971年生まれ。京都大学法学部卒。97年弁護士登録。大阪の法律事務所で弁護士活動をスタートさせ、2006年に岡本綜合法律事務所を開所。経営革新等支援機関、(一社)相続診断協会パートナー事務所/宅地建物取引士、家族信託専門士。ケア・イノベーション事業協同組合理事。

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