2024年08月07日( 水 )

三井不動産の福岡戦略 アジアの玄関口に高い期待

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 東京に本社を置く大手不動産企業は、日本全体で少子高齢化が進展するなかでも人口流入が続く福岡に着目し、事業展開を進めている。デベロッパーのトップ企業である三井不動産(株)の福岡進出は、60年以上前に遡る。最近では、福岡地所(株)とともに商業施設「マリノアシティ福岡」(福岡市西区)の共同建替事業の検討に着手することを発表したほか、福岡での新たな事業機会を探るべく博多駅周辺の再整備「博多コネクティッド」や、天神における都市型商業施設の展開にも関心を示している。そのほか住宅やホテル、物流施設など幅広い事業を展開しており、アジアの玄関口として福岡の未来に期待を込める。

マリノア建替えへ、インバウンドも期待

福岡地所との共同建替事業「マリノアシティ福岡」写真1「マリノアシティ福岡」外観(現施設)
福岡地所との共同建替事業
「マリノアシティ福岡」外観(現施設)

    三井不動産(株)の福岡での事業展開は、1962年に竣工した地上9階・地下2階建オフィスビル・博多三井ビルディング(博多区上呉服町)の完成にともなって開設された博多三井管理事務所からスタートした。その10年後の72年に福岡支店(現・九州支店)へ昇格し、本格的に事業の拡大を図った。

 オフィス事業については、74年に地上12階・地下3階建のオフィスビル・博多新三井ビルディング(博多区博多駅前)、91年に地上10階・地下1階建のオフィスビル・博多三井ビルディング2号館(博多区店屋町)を竣工している。

 商業施設事業については、福岡市青果市場跡地に、九州電力(株)、西日本鉄道(株)とともに「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」(博多区那珂6丁目)を2022年4月にオープン。これが同社による福岡初の本格的な大規模商業施設となった。開業から2年が経過し、来場客の反応はどうか。「徐々に足元顧客の定着化が見られ、地元からも受け入れていただいていると認識している。コロナ禍が明け、インバウンドのお客さまも増加傾向にあり、売上も順調に推移している」(三井不動産)と評価している。

 5月16日に発表した「マリノアシティ福岡」の共同建替事業では、日本全国およびアジア各地で商業施設を展開する三井不動産のノウハウを最大限に発揮。今後の消費者ニーズや社会トレンドの変化を的確に捉えた、新たな時代にふさわしい商業施設を検討するとし、詳細は今後、発表するという。この事業については、「商圏について足元、中広域ともに人口が厚いエリアで、福岡空港・博多港からも近く、インバウンドも期待できる商圏」(三井不動産)という。

 物流事業については九州エリアで3施設を展開。16年にMFLP福岡Ⅰ(糟屋郡須恵町)、21年にMFLP鳥栖(佐賀県鳥栖市)、22年にMFLP・SGリアルティ福岡粕屋(糟屋郡粕屋町)をそれぞれ竣工している。

九州支店副支店長の管林浩二氏
九州支店副支店長の管林浩二氏

    ホテル事業は、三井ガーデンホテル福岡祇園が19年に、三井ガーデンホテル福岡中洲が20年にそれぞれ開業。管林浩二・九州支店副支店長は、コロナ禍を経て「現状は順調に推移している」と話す。住宅事業については、1974年に10階建、総戸数97戸の分譲マンション・春日原パークマンション(春日市)を皮切りに展開を開始しており、三井不動産レジデンシャルを通じて、これまでに約6,000戸を供給している。

九大などと連携協定、都市型商業の展開も視野

 博多コネクテッドエリア内の博多新三井ビルディングは築50年が経過しているが、「現状は建替えを含めた今後の利活用について検討している」(管林氏)という。

 福岡市場について管林氏は、次のように話す。「福岡はアジアゲートウェイ構想の中心となる立地であること、福岡市の人口が増加していること、とくに若者の比率が高く、持ち家の比率が低いこともあり、勢いがある環境だ。さらに韓国、台湾といったインバウンドの流入が順調に続いており、観光需要の増大など今後の成長が期待できる都市だと認識している」。

 ホテルに関しては、増加傾向にあるインバウンドに加え、国内のビジネス顧客も含め客室平均単価も上昇傾向にある。「観光客の流入が続いており、従来のガーデンホテルに加え、プレミアやセレスティンといったハイブランドを含めて開発余地がある」(管林氏)と見ている。

開業から2年が経過した「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」
開業から2年が経過した
「三井ショッピングパーク ららぽーと福岡」

    物流施設については、福岡IC周辺の開発余地があると判断しているほか、テナントニーズに沿った物件開発に着手していく方針だ。商業施設は、ららぽーと福岡がオープンしたが、オリジナルの「三井ショッピングパークカード」やポイントが使える場所を増やしていくという観点から、天神エリアや博多駅周辺エリアにおいて都心型商業施設を展開できる「好立地があれば積極的に追い求めていきたいと考えている」(管林氏)としている。

 同社は7月19日、九州大学都市研究センターと熊本県菊陽町とともにスポーツによるウェルビーイングなまちづくりに関する包括連携協定を締結した。同社と九大都市研究センターは、菊陽町を舞台に日本で初めて「スポーツと住民の幸福度の相関関係を特定の指標(腸内細菌等)を用いて見える化」するという共同研究を推進する。

 これまでオフィスや住宅を中心に事業展開をしてきた同社だが、今後はホテル、商業施設、物流事業にも注力していく方針だ。オフィス需要や建築コスト上昇などの懸念材料はあるものの、熊本のTSMCの効果が福岡に波及してくることも期待でき、九州エリア、とくに福岡へのビジネスチャンスの拡大機運が高まっている。

【桑島良紀】


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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