2024年12月21日( 土 )

「商業施設」の現在地(後)“商業”はワクワクを届けられている?(1)

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売らない店「b8ta-Koshigaya-Laketown」 PRTIMES
売らない店「b8ta-Koshigaya-Laketown」 PRTIMES

 商業施設は近年、大きな変化を求められている。かつてはショッピングの場として私たちの生活に欠かせない存在だったが、その重要性と役割が大きく変わってきているのだ。デジタル技術の進化や消費者のニーズの多様化により、さらなる魅力的な場所へ。そして『サードプレイス(※)』としての必要性が高まっている。街の店舗はどんな雰囲気になっているのか、コロナで大きく変わった“商業”の今を考察してみたい。

※サードプレイス:自宅、「職場・学校」に次いで第三となる居場所のこと

油山のABYBNF

 新たな人流をつくる取り組みは、福岡でも見られる。2023年にスタートした、人・都市・自然の共生を目指す複合体験型アウトドア施設「ABURAYAMA FUKUOKA(アブラヤマ フクオカ)」だ。

ABURAYAMA FUKUOKA(アブラヤマ フクオカ) PRTIMES
ABURAYAMA FUKUOKA(アブラヤマ フクオカ
PRTIMES

    福岡南部に広がり中心市街地から車で30分のところにある、豊かな自然と都市を見わたす眺望を持つ油山。市民に親しまれてきた「油山市民の森」と「油山牧場」を1つにまとめ、新たに「食、キャンプ、宿泊施設、アスレチック、建築、アート、オフィス、サウナ、農園等…」の多機能を加えていく。自然と触れ合うだけでなく、「暮らす・遊ぶ・働く・学ぶ・整う・感じる」というさまざまな体験を通して、こころとからだに刺激や感動を与え、人間本来のあるべき姿へ想起させる。

 コンセプトスローガンは、「BACK TO NATURE」。福岡を「人と都市と自然の共生するまち」として世界に発信するためのプロジェクトだ(※ABY=ABURAYAMA、BNF=BACK to NATURE FUKUOKAの頭文字を組み合わせている)。

 主な事業は、森のバーベキュー場、森の農園(貸農園、体験型観光農園)、乗馬体験や動物ふれあい体験などの自然アトラクション。農園併設レストラン、カフェ(スターバックスコーヒー)、アウトドアショップ、シェアオフィス、自然共生型アウトドアパーク(フォレストアドベンチャー、トレイルアドベンチャー)が23年に開業。24年4月にはSnow Peakが企画・運営する宿泊施設(ヴィラ、コテージ、テントの3タイプの宿泊棟)がオープン。自然のなかでの贅沢で豊かな極上の宿泊体験ができる。

ABURAYAMA-FUKUOKA(アブラヤマ-フクオカ) PRTIMES
ABURAYAMA-FUKUOKA(アブラヤマ-フクオカ) PRTIMES

街中のパーソナルスペース

 国内フィットネスジム会員数日本一「chocoZAP(チョコザップ)」の勢いが止まらない。コンビニのように誰でもアクセスでき、好きなことを好きなだけ楽しむ「体験」と「時間」を提供するコンビニジム・チョコザップは、コロナ禍の22年7月にサービスをスタートし、たった2年ほどで1,500店舗を超えた(24年5月時点)。コロナ禍の“運動不足がもたらす不安感”がチョコザップの躍進につながっているのは間違いないだろうが、月会費3,278円(税込)という低価格な気軽さと、その他にもいろいろと支持される要因はありそうだ。

 着替えやシューズの履き替えを必要とせず、店舗にきてからすぐにトレーニングを開始、スキマ時間や気分転換にサクッと使える。リアルタイムで混雑状況がわかるので、空いている時間に来店し、QRコードをかざすだけで入り口のドアが開錠。全店舗無人化されているので非接触、入退会もアプリで完結。全国どの店舗でも利用でき、人目を気にせず利用できるところも時流に合っていた。

 「1日5分のちょいトレ・健康習慣プログラム」の開発や、運動のみにとどまらず「美容」「ライフスタイル」「エンターテインメント」などさまざまな分野のサービス展開を行っている。カラオケやランドリー機能、ワークスペースを併設させドリンクバーのサービスなど、一部の店舗限定ではあるが多機能化も始まっている。さらに、こんな口コミも…。「ジョギングの格好した人が駆け込んできて、ドリンクバーで何か1杯飲んですぐ出て行った」「トイレや歯磨きをする場所として使用」「終電を逃し、始発を待つ間寒さをしのぐために利用したことがある」など、チョコザップを給水所代わりに使っている人など、運動以外にもさまざまな用途で使えると話題になっている。

チョコザップが給水所代わりになっている? PRTIMES
チョコザップが給水所代わりになっている? PRTIMES

 チョコザップは、ことさら都市のなかのパーソナルスペース。自分の部屋のように籠れる空間として支持されているのかもしれない。これも街で思い思いに過ごす場所がなくなっている「都市化の課題」から生まれた1つの解答だろうか。商業施設よりも先だって、ここが「サードプレイス」として、その機能を代替しているとも見て取れる。ビジネスの根幹である「人」を排除した無人店舗のチョコザップが、LTV(顧客生涯価値)をどこまで伸ばせるか、課題もあるだろうが今後の展開に注目したい。

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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