2024年08月07日( 水 )

国交省が都市緑地シンポジウム(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 国土交通省都市局は7月1日、東京・赤坂の「赤坂インターシティAIR」において「まちづくりGXシンポジウム~都市の未来が緑で変わる~」を開催した。GX(グリーン・トランスフォーメーション)とは、温室効果ガスの排出を抑制してクリーンエネルギー中心の産業構造へと転換する取り組みのこと。会場参加とオンライン配信を併せて800人超が参加。緑とまちづくりについて、国土交通省による民間緑地認定制度などの説明や学識経験者による基調講演とともに、東急不動産ホールディングス(株)や大日本印刷(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループの担当者による事例紹介やパネルディスカッションを行った。

緑が企業価値の向上や近隣との関係良好に

パネルディスカッションの様子。左から柳井氏、原口氏、鈴木由香氏、松本氏、飾森氏、鈴木章一郎氏
パネルディスカッションの様子。
左から柳井氏、原口氏、鈴木由香氏、松本氏、飾森氏、鈴木章一郎氏

 パネルディスカッションでは、「“緑”דまちづくり”の実践と可能性」をテーマに、まずは大日本印刷(株)、東急不動産ホールディングス(株)、(株)三菱UFJフィナンシャル・グループの3社の企業の取り組み事例を紹介した。

 大日本印刷は、本社工場がある東京・市谷地区において、在来種による緑地を整備。近隣にも開放し、地域とともに成長する緑地を目指すとした。東急不動産ホールディングスは、環境課題への解決を事業機会の拡大と位置付け、事業別にネイチャーポジティブにも取り組んでいることを説明。東京・渋谷エリアにおいては緑化と生物多様性の効果を定量的に分析し、開発物件で実践している事例を紹介した。

 三菱UFJフィナンシャル・グループは、東京・西東京市で一般開放している「MUFG PARK」の概要を説明した。自分らしいQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を追求できる場をコンセプトに、コミュニティライブラリーによる交流や、緑地を使い社員が企画して地域住民などの利用者が参加するイベントなどを行っているとした。

 パネルディスカッションでは、柳井教授の司会で原口氏、大日本印刷サステナビリティ推進委員会事務局局長・鈴木由香氏、東急不動産ホールディングスグループサステナビリティ推進部部長・松本恵氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ経営企画部ブランド戦略グループ部長チーフ・コーポレートブランディング・オフィサー・飾森亜樹子氏、国土交通省の鈴木・前都市計画課長が登壇した。

 柳井教授は各社に共通しているのは地域貢献・社会貢献であるとしたうえで、「なぜこのプロジェクトに取り組んだのか」について尋ねた。鈴木由香氏は、「100年本社がある市谷で、この先も地域に愛されたいという想いがあっての緑地」と説明、松本氏は「トップダウンによる全社の目線合わせと、緑の取り組みが経済価値につながってくるというマーケットからの支持が担当者レベルでも感じられるようになったこと」、飾森氏は「ステークホルダーとの対話の手段・場をつくりたかったこと、社員の社会課題意識の醸成、社会課題解決のヒントになることを発信すること」と話した。3社の取り組みについて原口氏は、「すべての事業の場所で行えば、ネイチャーポジティブになる」とまとめた。

 緑化の効果が次の取り組みや意思決定などに影響を与えているのかについて、飾森氏は「社会貢献として経済メリットは追求しない。効果を考えたときに、まずは社員の自己成長を図っていく場として使っていく。ブランドとしての企業価値向上に資する場にしていく」と説明。一方で、松本氏は「環境を事業機会につなげていくということを明確にしているので、価値創造につなげていく。投資家との対話のなかでも、定量的に示す要請が高まってくるかもしれない」とした。

 鈴木由香氏は「社員が会社を好きになっていることが、大きな効果だと思っている。緑豊かな社屋は、近隣とも緑地を通じた会話が生まれているという点で良好なコミュニケーションが取れている」と述べた。原口氏は「ネイチャーポジティブ企業ランキングのようなものができれば、経営者もお金をかけるのではないか」とし、これを受けて国土交通省の鈴木・前都市計画課長は、計測手法や計測期間の工夫が必要になるが、認定基準に入れ込んで企業価値向上につなげられるようにすることを検討するとした。

地域とのつながりキーワード
秋から全国でシンポ開催も

 柳井教授は、今回のシンポジウムにおいて「地域との関係」が重要なキーワードになっていると指摘。地域とのつながりについて、鈴木由香氏は「生き物がつながる緑地づくりのために在来種を入れており、鳥も来るようになった。市谷は長く住んでいる人が多い地域であり、周辺に悪影響を与えてはいけないので、注意しながら社員による自主管理を行っている」。松本氏は「分譲マンションは販売した後は手を離れてしまうので、住んでいる人が愛着をもてる仕組みづくりを行っている。グリーンがあると地域の愛着やロイヤリティーが生まれてくると感じている。TNFDレポートを出したことで、渋谷エリアにおいて我々のグリーンの取り組みに関心をもってくれる企業数社から、一緒にできないかとの声掛けがあった」と話した。飾森氏は「従業員と地域のステークホルダーのつながり、従業員の自主的な取り組み、地域の皆さまからも自発的な取り組みが出てきている。3つのパターンでつながりを維持している」とした。

会場となった赤坂インターシティAIRは、森の中に建物を建てるという視点から計画し、5,000㎡の緑地空間を確保
会場となった赤坂インターシティAIRは、
森の中に建物を建てるという視点から計画し、
5,000㎡の緑地空間を確保

    不動産以外の事業者がGX・緑地に取り組むきっかけについて、松本氏は「どのような事業会社も自然への何らかの依存があるので、そこからアプローチするのが良いのではないか」、鈴木由香氏は「想像力をプラスにもっていくことで取り組みが見えてくるのではないか」と提案した。

 鈴木・前都市計画課長は、「秋からは各地方でも(今回のシンポジウムのようなイベントを)やっていきたいと考えている」との今後の予定を話した。最後に柳井教授は「それぞれ役割があると思うが、全体的に企業の取り組みが先導していくというイメージがつかめたのではないか。それを行政がどうサポートできるのか。今回の話をみていくと、むしろ企業の取り組みが先にあり、それを行政がうまくオーソライズしたり、制度のなかで企業に活用してもらうという方向ではないか。効果測定の科学的な根拠や見える化、人材育成において『学』がはたす役割を痛感している」とまとめた。

(了)

【桑島良紀】


<プロフィール>
桑島良紀
(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

(前)

月刊誌 I・Bまちづくりに記事を書きませんか?

福岡のまちに関すること、再開発に関すること、建設・不動産業界に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。

記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。

企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は1記事1万円程度から。現在、業界に身を置いている方や趣味で再開発に興味がある方なども大歓迎です。

ご応募いただける場合は、こちらまで。その際、あらかじめ執筆した記事を添付いただけるとスムーズです。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。(返信にお時間いただく可能性がございます)

法人名

関連記事