2024年08月07日( 水 )

(仙台)前田建設工業、清水建設のマンション構造スリット欠陥問題 (2)何が起きていた (清水建設編)

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AMT一級建築士事務所代表 都甲栄充氏

 マンションの構造(耐震)スリット問題への対応で日本―を自認するAMT一級建築士事務所(東京)の都甲栄充代表が、「開いた口がふさがらない」と驚きをあらわにし、『確信犯』と厳しく糾弾した物件が、清水建設(東京)が宮城県仙台市で20年以上前に施工したマンションだった。地震から建物を守るためのスリットが9割近く入っておらず、一部には、ごまかすための「詰め物」が入っていた。住民からの指摘や2011年の東日本大震災を受けての自社の調査で不正に気付くことができたはずなのに、本当のことは知らされないままだった。仙台マンション耐震問題の第2弾、清水建設編を都甲代表にご報告いただく。

清水建設、ありえない確信犯的行為 許せない実態

●清水建設編

「天下の清水だぞ、そんな訳ないだろ。」

 清水建設が仙台市中心部に建設したマンションの漏水調査を実施していた業者から、「スリットが入っていないのでは?」という情報がもたらされたとき、私は思わず耳を疑った。

 構造スリットとは、地震の揺れで建物を支える柱や梁を損傷させないため、柱や梁と壁を構造的に切り離す2~5㎝程度の隙間(スリット)のことを指す。壁の揺れる力が構造上重要な柱や梁に伝わらないようにするのが目的で、スリットには、緩衝材の役割をはたす「発泡ポリエチレン」を入れるのが一般的だ。

構造スリットのイメージ
構造スリットのイメージ

 そのスリットをほとんど入れずに「構造設計図」を描くことは不可能だし、そんな建物をつくれば、大地震が起きた際にマンションに大きなダメージが生じることは明らかで、最悪の場合、倒壊する恐れすらある。実際、直下型地震であった熊本地震では、スリットの有無が、建物の被害の程度に大きく影響することが明らかになった。

 現場を確認するまで、スーパーゼネコンの清水建設がそんな初歩的なミスをするとは思えられなかった。

 2024年2月に、情報提供をしてくれた業者の予備調査に同行した。2階の外壁側をはつった場所を確認すると、柱に平行して設置する垂直スリット、梁に平行して設置する水平スリットのいずれもが存在せず、むき出しのコンクリートだけが目に入った。

 調査業者の仲介により無料で管理組合の顧間建築士に就任し、3月に再び調査を実施することとなった。顧問契約料を無料とするのが私のポリシーだ。調査と交渉がうまくいった際に、建設会社側から報酬をいただくという算段だ。

 高所作業車を用意した3月の調査では、2階だけでなく3、 4、 5階の外壁面を作業車の届く範囲で実施した。垂直スリットが入っていなかったこと以上の驚きは、垂直スリットが入るべき場所で規則的に見つかった意味不明の「詰め物」だった。素材はエラスタイトのようだが、確認のしようがなかった。

 「詰め物」は2、 3、 4、 5階の各柱際に、梁下端より長さ60㎝にわたって入っていた。建物は下から順につくっていくことから推理すると、「誰かの指示」により、「何らかの意図」をもつて同じ行為を何度も繰り返していたことになる。「スリットを入れ忘れた」という言い訳は、通用しないのだ。

 さらに、書類の調査から、『確信犯』を疑う証拠が積み上がってきた。施工前に公的機関から建築確認を受けた際に提出した図面(「確認申請構造図」の副本)と、竣工後に管理組合へ提出した図面(竣工図)におけるスリットの詳細図が、まったく違っていた。スリットを入れずに工事を終えたにもかかわらず、竣工図には、確認申請の図面よりスリットのことが詳しく記され、使用する材料も明記されていた。当然のことだが、実地調査で見つかった意味不明の「詰め物」を使用するという指示は、一切なかった。

 書類調査を続けると、清水建設は『故意による確信犯』ではないかという疑いが、さらに強まった。2011年3月の東日本大震災を受け、清水建設が同年6月に実施したマンションの被災調査報告「外壁耐震スリットについてのご報告」に、虚偽を疑う記述が相次いでいたからだ。

 写真と図面付きの報告書には「スリット周囲ひび割れ」を96カ所、「スリット部外装剥離・スリット露出」を25カ所、「スリット最下部周囲損傷」を9カ所と記し、「スリットの機能は維持されたと考えます。」「スリット材にも損傷は見られませんでした。」と結論づけた。マンションの現場には、9割近くのスリットが実在していないにもかかわらず、である。

報告書

 さらに、スリットが入っていないマンションのもろさは、住民の知らないうちに、長期間にわたって実害をもたらしていた。このでたらめな報告書は、まったく許せない実態である。

 外壁に面した一番外側の部屋では、竣工後6年ほどで浸水被害が出た。通常の地震で外壁にひびが入り雨水が浸入して、床下がカビで真っ黒になっていた。このときは清水建設の費用負担で修繕工事を実施したが、15年ほどすると、再び同じ現象が現れた。

 東日本大震災の際には、マンション全体の壁中に亀裂が入った。大規模修繕工事と合わせた修繕費用は約1億円にのぼり、積立金では足りなくて、不足分を各戸の所有者が100万円ずつ負担した。2022年の福島沖地震でも被災し、管理組合が約700万円を負担して修繕工事を実施した。住民らによると、いずれの地震でも、周辺の同規模マンションに比べて被害が目立っていたという。

 清水建設は2024年6月に、私と共同での抽出調査に応じた。調査した85カ所のうち、74カ所にスリットが入っておらず、3カ所で「詰め物」が見つかった。

 マンションは竣工から20年以上が経過し、旧民法下では損害賠償請求権は消滅していた。『確信犯』を疑われた清水建設が、その後全面調査と修繕工事の実施を確約したことは、長い間何も知らされずにきた住民への、せめてもの償いとなった。

(つづく)

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