中国による日本産水産物の全面輸入停止から1年
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国際政治学者 和田大樹
今月で、中国による日本産水産物の全面輸入停止からちょうど1年となる。日本は中国に対してその解除を繰り返し求めているが、中国側はそれに応じる姿勢を一切見せない。中国は福島第一原発の処理水放出を理由に挙げているが、IAEAなど国際社会は安全性に問題なしとしており、その背景には政治的な思惑がある。
バイデン政権は一昨年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止するため、先端半導体分野での対中輸出規制を大幅に強化したが、米国のみでは先端半導体そのもの、それに必要な材料や技術などの流出を防止できないと判断した同政権は昨年1月、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本とオランダに対して同規制に参加するよう呼び掛け、日本は昨年7月、製造装置など23品目で事実上の対中輸出規制を開始した。そして、これが中国側の対日不満を強める結果となり、中国はその後、半導体の材料になり、日本がその多くを中国からの輸入に依存する希少金属ガリウム、ゲルマニウム関連の輸出規制を強化し、8月の日本産水産物の全面輸入停止はこの延長線上で捉えられる。
これによって、たとえば加工したホタテの大半を中国に輸出してきた水産加工会社などは大きな影響を受けるかたちとなった。中国に突然輸出できなくなったことで、水産加工会社などは中国一辺倒の依存体制からの脱却を図り、インドネシアやベトナムなどの東南アジア、米国などへ輸出を強化することでリスクの分散化に努めている。
しかし、これは何も水産業会だけが被害を受けるのではない。過去にも日中間では政治問題がヒートアップした際、中国が経済的威圧を仕掛けたことがある。たとえば、2010年9月に尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船と中国漁船が衝突する事件が発生したとき、中国側は日本向けの希少金属レアアースの輸出を停止した。
この1年間、中国側の姿勢に変化がないということは、貿易上の対日不満が依然として残っているだけでなく、今後も日本が半導体などテクノロジー分野での輸出規制を上乗せしてくる可能性を排除していないからであろう。実際、秋の大統領選ではトランプ氏とハリス氏の対決となっているが、どちらが勝利しても対中強硬姿勢は継続し、安全保障に関わる領域においては、米国は中国への輸出や投資の規制を積極的に仕掛けていくだけでなく、必要に応じて日本にも協力を呼び掛けてくるだろう(同調圧力といった方がフィットしているかもしれないが)。
安全保障上の理由を挙げられれば、日本としては米国に「NO」の返事は事実上できなくなる。無論、昨年7月の23品目の輸出規制は米国が期待するほど厳しい内容ではなく、日本自身の経済合理性との間でバランスをとった措置だ。
今後も米国が対中輸出規制で日本に足並みを揃えるよう要請すれば、日本は経済合理性、日本自身の中国との関係を考慮したうえで規制措置を導入する可能性があるが、それを中国がどう判断するかは全く別の話である。それを判断するのは中国側であり、今後も日本産水産物の全面輸入停止というレベルの貿易規制を中国が実施する可能性が十分にあり、他の業種、業界がその影響を被るリスクを排除するべきではないだろう。
<プロフィール>
和田大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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